短編 | ナノ
▼球磨川


どうしようもなくむなしい気分だった。誰でもいいから優しくしてほしい。誰でもいいから私を見てほしい。


「球磨川せんぱい、今平気ですか?」

「『平気だよ!』『あ』『この書類は気にしないで!』『ただのゴミだから!』」


さっきまでやっていた書類の処理をゴミと称し私を優先してくれた球磨川せんぱいにうっかり惚れそうになる。
優しいんだよ、この人は。私もまだまだ捨てたものではないかもしれない。無理矢理に私は思い込む。

私にだっていつでも相手をしてくれる人がいる。私にだって優しくしてくれる人がいる。

散歩に行きませんか、と球磨川せんぱいを外に連れ出して歩道橋を駆け出した瞬間、右から大きなトラックが走ってきた。


「危ないっ!」

「あわ」


………また、生きてしまった。


「『飛び出したりしちゃ危ないだろ?』」

「…生きるのって簡単ですよね、球磨川せんぱい」

「『え?』」

「私が命を絶とうとすると、必ず誰かが遮りに来る。死ぬのが難しい、と言うべきでしたか」


球磨川せんぱいに掴まれたままの腕がみしりと痛む。何事かと思い球磨川せんぱいの顔を見ると、何かを堪えているような表情をしていた。
だって、何も良いことないんですもん。生きる価値が見当たらないんですもん。仕方がないことじゃないですか。私だって幸せに生きたかった。

精一杯の皮肉を込めて私は笑う。


「死んだところでだから何って思いますがね」


私が死んでも世界は何も変わらない。何事もなかったかのように廻り続けるのだ。


「しょせん、私程度」

「なんで…ッ!」

「私程度が何をしたってどうにもならないんです。何も良いことないなら、もういっそ死んでしまいたい。私が死んだらきっとみんな幸せになるでしょう」


せめて私が惨めにならないように、一つ。


「人生は美しかった!」


ねえ。


「『…何泣いてんの』」

「………」

「『何で泣いてんの』」

「……欲しかったのはこれじゃないの」




「『笑ってよ』」

「………」

「『嫌なら生きるしかないぜ』」





毎日にアンコールなどない。太陽が落ちたらもう終わり。エンドロールが流れたって、私の名前なんてわかるはずがない。

でも、もし流れたとしたら、私の人生が終わってしまったとしたら、あなたなら気づいてくれますか?



「『絶対に見つけてあげる』『でも』死なないで」



20111118
3331オマージュ



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