▼安心院
「安心院さんにはみんな同じように見えてるんですよね?」
「うん?なんだい藪から棒に。いや、突然なのはいつものことだけれどね。物事はいつも突然始まって気が付かないままに終わってるのさ。で、何の用だっけ?」
ゆるゆると振り返る安心院さんは変わらずきれいで、少し禊くんが顔面を剥がしたくなった気持ちがわかるような気がした。
でも私は安心院さんのことが大好きだという気持ちが本物だという確信を持っていたからそんなバカな真似はしないけれど。
私は安心院さんが大好きだ。愛してる。でも、安心院さんが私の愛に応えてくれる必要はない。何故なら私は見返りをもらうとそれ以上を欲してしまうからだ。だから。
「みんな同じように見えてるなら、例え私が安心院さんに特別な感情を抱いていたとしても何の問題はないってことでいいですかね?」
「おや、君には球磨川禊という恋人がいたんじゃなかったのかい?」
「あは、いませんよー。禊くんは好きですけど、他の女の子にセクハラばっかりしている裸エプロン先輩なんか大嫌いです死んでほしいとさえ思っています。後輩に好かれてる禊くんなんか知りません」
「ふふ、僕が球磨川くんに嫉妬されてしまうよ」
「安心院さんなら痛くも痒くもないでしょう?ねえ、私は安心院さんが大好きです愛してます」
「ありがとう、名前。僕も大好きだぜ」
きれいに笑う安心院さんに、無機質に笑う安心院さんに、私は絶大なる安心を抱く。まるで、彼の日の球磨川禊への安心感のように。
けれど、これは違う。禊くんは変わろうとも安心院さんが変わることはないのだから。
「安心院さんは変わりませんよね?禊くんみたくなったりしませんよね?」
「僕がどう変わるというんだい?僕は変わらないよ。いや、変われないと言うべきかな」
「それを聞いて安心しました。私、安心院さんを愛してますけど、それ以上を求めてるわけじゃないんです。ただ、傍にいることを許してくだされば、私はそれで満足なんです。ただ、私だけが傍にいることが出来れば…」
「不知火半纏、彼はいいのかな?」
「彼はただそこにいるだけの存在ですし。今現在では私は彼にそのような印象しか抱くことが出来ません」
「じゃあ、僕の傍にいることを許可する代わりに一つお願い事を聞いてくれないかな?」
「安心院さんのためなら何でもやります」
それは紛れもなく本心だったのだけど――
「球磨川くんを幸せにしてやってくれないかな?」
――それはあまりにも酷というものじゃないですか?
「……それ、は…」
「球磨川くんが幸せになることにより、僕の封印が弱まるんだぜ。なぁに、一言君が球磨川くんに愛を囁くだけでいい。聞くところによると君は後輩(僕の端末)が入ってから一度も愛を伝えたことがなかったらしいじゃないか。ちょうどいい」
「わかりました。安心院さんのためなら」
「ありがとう、愛してるぜ名前」
それが愛ではないと知っていたけれど、私にはそれだけで良かったんです。
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『曰はく、』さまへ提出
成長してゆく禊くんに喜ぶべきなのに喜べませんでした。そんな女の子となじみちゃんのお話。
20111106
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