短編 | ナノ
▼ヒソカ

「具合は大丈夫かい?」

「お陰様でもうすっかり元気よ」


白を基調とした、いっそ恐ろしいほどにシンプルな部屋の中心で彼女はやわく笑った。



彼女は念をかけられた。幻影旅団団長の恋人だったが故に、それだけの理由で。

彼女は除念師だった。ボクがやっと見つけた、クロロと戦うための道具。だが、クロロに引き渡すために要した時間の中で彼女に惹かれていったのも事実だった。
しかし、クロロに会った瞬間、あろうことか彼女はクロロに一目惚れをしてしまったのだ。
ボクは傷つくのが嫌で何も出来なかった。

クロロは女関係はとてつもなく軽い。彼女と付き合うのに時間などそうかからなかった。
彼女が幸せそうに笑う顔を見て、ボクはこれで良かったと納得した。身を引いてもいいと、そう思ったのに。





「クロロ…っ、助け…」

「除念は終わった。もうお前に価値はない」





身体中の血液が沸騰した気分だった。気がつくと彼女はボクの腕の中で眠っていて、心臓が動く音に安心した。





運良く彼女は生きていた。ただし、頭に大きなショックがあったので記憶に障害が残り、足が吹っ飛んだので歩くことはもう無理だと言われた。


――彼女は自分がクロロに捨てられたことを忘れていた。


「ねえ、クロロは今何してるのかな?」

「すごくキミに会いたがってるよ◇」

「ふふっ!嬉しい!私も体が良くなったら一番に会いに行くのに」

「そうだね◇体が良くなったらね◇」





ボクは知っている。

キミの体が十分に動くことはないということを。

クロロはキミのことなんかもう忘れてしまっているということを。



だけど、言わないよ。

ボクは嘘つきだからね。





キミを傷付ける"本当"なんて、絶対に言ってやるもんか。






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「なまえをちょうだい」さまへ提出

一概に嘘といっても、人を思って吐く嘘はとても寂しくてとても尊いものだと思います。

20111021/永久



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