最愛





愛してくれなくていい。
だから、遠くで見守っていて。





結婚が正式に決まった日。お祝いだなんてお互いの家族が集まり、飲み会が開かれた。
父も母も浮かれて、なんだか調子がくるう。
とても幸せなの。なんにも悲しいことなんてないのに、こんなにも息苦しい。
もうひとり、結婚のことを伝えなきゃいけない人がいる。どうしても――――。

「真人」

月に照らされた橋の上。よくふたりで夢を、愛を語りあった場所。その場所で彼は水面に映る月の影を見ていた。まるい輝きがゆらゆらゆれる。

「雪菜」

「真人・・・・」

「、どうした?すっげー暗い顔してるぞ?」

ほら、笑ってなんて笑顔をむけてくる。つらそうなのが伝わってきてしまう。
・・・・そんな表情にさせてしまっているのは私なのね。
少しずつ、彼との距離を縮めていく。街灯と月明かりに照らされた彼の顔がだんだんとはっきりしてきた。

「真人、・・・実はねっ」

「知ってる。正式に決まったんだろ?・・・おめでと」

先に紡がれたその言葉に口をつぐんだ。
やっぱり気付いてたんだね。今までだって私が言わなくてもなにかあれば気付いてくれたんだもの、今回だってそりゃわかっちゃうよ。
また水面を見つめて静かになった彼。どんなふうに言ったらいいのか、わからない。

「幸せに、なれよ」

「ま、こと・・・」

「おれ、じゃダメなんだろうし」

「ちが・・・・っ。初めてだった、そんな太陽みたいに明るい笑顔をくれる人。いつでも照らしてくれる人。だから、あたしは今でも・・・・」

あぁ、今の私がなにを言ったって、ただの言い訳になっちゃうんだよね。
こんなにもどかしい。
こんなに近くて声の届く場所にいるのに、心はこんなに遠いなんて。

「・・・ごめん。全部知ってるよ、雪菜の意思じゃないことも」

「真人、」

「でもそれで雪菜が幸せになるならって」

ばか。そんなわけないじゃない。あなたがいなくて幸せになんかなれるわけないのに。
でも悪いのは私なんだ。あなたのこと、話せなかった私が。そうしたらこれから一生となりで笑っているのは、あなただったかもしれないのに。

「・・・そんな顔するなって。おれは大丈夫」

そんな顔って?今目のまえにいる、あなたと同じ顔かな?
全然大丈夫そうな顔してないよ。つらくなっちゃう。

「すき・・・っ、愛してるの、そんな簡単に消えたりしないよ・・・・っ」

「ゆき、な」

どれだけ落ちても消えていく粉雪のように、好きな気持ちがあふれて止まらない。もう決して積もることはないのに。口にしなきゃ壊れてしまいそうだよ。
あなたを今でも愛してるって想いが。

ふわっと感じる体温。懐かしくて、やさしくて、涙がこぼれる。
あなたも泣いているのね。私と同じ。

「おれも。ずっと、愛してる。簡単に消せないよ」

こんなあたりまえの行為も今じゃいけないことなんだってわかっている。
だけど、今だけは許して。もう彼を愛せなくていいから、今だけは・・・・。

「あたし、ずっと見守ってるからっ。こんなわがまま言うの、最後だから。だから・・・っ」

「・・・・ん」

同じ月の下、抱き合ってただ涙を流した。はなれたくなくても、はなればなれになる。
たとえはなれてもあなたが信じたあなたでいること、祈っているから。
好きだよ、きっとずっと。どんなにはなれていたって。
でもね?本当は言いたい。でも言えないよ、奪いにきてよなんて言葉。

だからただ、いつまでも願っています。
あなたが私以上な幸せになってくれることを。


(いちばん大切な人ほど、傍にいないなんて)

(愛さなくていいから 遠くで見守ってて)


********
KO/H+が歌ってたものよりは彼が歌っているほうが好きです^^
「いちばん好きな人よりにばん目に好きな人と結ばれた方が幸せになれる」とどこかで聞いたので、そんなことも考えながら書いていました(ノд<。)

予想以上にシリアスになってしまった(汗)

song by Masaharu Fukuyama


09/7/29 up










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