走って走って、黒子から逃げる。
息切れは止まらなかった。
驚きと、悲しみと、いろんなものが混ざって気持ちが悪い。

「は、…はーっ、はぁ、はぁ…っく……」

いきなり走ったために足元が覚束ない。
酸素も足りなくて、苦しかった。
誰もいない公園の、木の影に隠れるように座り込んで荒い息を整える。

「居るなら、居るって、言って欲しいッス…」
「じゃあ、居ます」
「…………え?」

暗闇ではあったが、誰もいないことを確認して入ったはずだ。
息を整えている間にも、気配はなかったはず。
なのになんで、なんで声がする?

「あ、…え……、なんで…ッ…」
「黄瀬君が、逃げるからですよ。」

逃げるから追ってきた。
日本語としてはおかしくない。
でもこの状況はおかしい。
有り余るほどにおかしい。

木の影の後ろから何時の間にか黒子の姿があらわれる。

「なに、逃げてるんですか」
「…そりゃ、逃げるッスよ普通…」

もう逃げる気力も体力もない。
大幅な精神的ダメージは計り知れなかった。
黒子に嫌われたと、そればかりが黄瀬の頭を支配している。

「ごめんなさいッス、黒子っち…オレ、…」
「知っていましたよ。キミが僕のことを好きでいてくれてたことは。」
「友情と、して…「じゃないことも知っていました。」
「ごめんなさい、ッス…気持ち悪いッスよね、オレ……」

もうどうにでもなれという空気しかでていない。
俯いたまま、顔があげられない。
黒子の動く気配がしても、顔を見ることが出来ない。

「僕は、嬉しかったんです…」
「え、…」
「でも、素直になれる訳ないじゃないですか。」

くい、と顎をひかれて視線が合わせられる。
その瞳はなにやらギラついているような気がして、目を見開く。

「黄瀬く、ん…」

見開いた視界いっぱいに黒子が迫ってきているのがわかった。
なにをされるのか分からなかった。

「怯えないでください、殴ったりしませんから…目を、閉じて……」
「え、…ぅ、……んん、…」

疑問を口にすることは出来なかった。
何故なら、その唇が塞がれていたから。
いきなりのキスに頭が混乱する。
ふにふにと唇を噛まれて、咥内に舌を入れられて、歯列をなぞられて、上顎を撫でられて、ぴちゃぴちゃと音が響きはじめて、やっと体の硬直が解ける。

「ん、ふ……っ…くろ、っこちぃ……っ…」

唾液が流し込まれ、飲みきれなくて口の端を伝い落ちていく感覚がする。
頭も顎も固定されて、咥内が犯されていく。
混乱が気持ちよさに侵されていった。

「ぁ、は……んんん、ふ…あ…」

黒子の手が、だんだんと妖しい動きになっていく。
キスはそのままに腰を撫で、腹を撫で、身体のラインをなぞる。

「や、やめ……なに、……、……」
「黄瀬君が僕のことを好きだと言ってくれているので、僕もちゃんと返してあげようかなと思っただけです」

きっぱりと、それはもうきっぱりと言い返す。

「黒子っち、…怒って、ないんスか…」
「怒る訳ないじゃないですか。むしろ嬉しくて嬉しくてどうしてやろうかと思っているくらいです」

そう言い放つ黒子の瞳はやっぱりギラついていて、
いまにも黄瀬を喰らってしまいそうだった。

「黄瀬君、僕もキミが好きなんです。勿論、友情なんかじゃない。恋愛として、君のことが好きなんです。」

真剣な視線と、怯えた視線が絡まる。
荒い息を繰り返す音とがさがさと揺れる木の葉の音。
それだけが静寂に流れていて。

「黄瀬君…?」
「はーーーーーー、もう知らないッス黒子っちなんて知らないッス…」

真っ赤になった黄瀬からは盛大なため息。
ふにゃりと緊張が解れたように、足を崩す。

「どこまで男前なんスか…なんなんスか…」
「それは褒めているんですよね?」
「褒めてるッスよ大褒めッス…」
「なら、告白は成功ってことでいいんですね?」
「…当たり前ッスよ、黒子っちのばか…でも好き…」
「ありがとうございます。僕も好きですよ。」

なし崩しに崩れていた体を抱き寄せられて、黒子の頭が首すじに埋められる。
情けないかな、ぴくりと反応してしまったのはたぶん、筒抜け。

「なんか、火神っちに感謝しないとッス」
「まあ…そうですね」
「えへへ…オレいまちょーしあわせッス…」
「だからと言ってあんまり調子に乗らないでくださいね。…我慢してあげられなくなりますから」
「さらりと怖いこというのやめて黒子っち」

くすくすと笑っていたのもつかの間。
なにやら妖しげな動きをしていた手が活動を再開する。

「ちょ、黒子っちなにしてんスか」
「可愛い黄瀬くんを見ていたら僕の「こらこらこらッス」…ダメですか?」
「ダメっていうかその、ここ、外ッス…あの、えっと…」
「屋内ならいいんですねわかりましたじゃあ今すぐ移動しましょう黄瀬君はい立って。」
「ワンブレスやめて…」

紆余曲折、相思相愛な2人でした。
1番の被害者はいわずもがな、彼だったのは言うまでもない。






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