電車の中は暇です。
暇で暇ですることもありません。
本を読むと酔います。
携帯電話をいじっているのもなんだかめんどうです。かと言って眠くはないし。
「…」
窓の外を眺めます。
移りゆく景色は夕焼けで、きらきらしています。
ぼんやりしながら景色を見ていると、なにやら女の子たちが騒いでいます。
なにかあったのでしょうか。
「…?」
そっと視線をずらします。
そこには見慣れた金髪の彼が居ました。
黄瀬君です。
でも彼は騒ぐ女の子たちを尻目に、ぼんやり。
ぼんやりした彼をじっと見ていると、
いつもは合わない視線が合ったような気がして。
「…あれ、…黒子っち?」
やっぱり視線は合っていたようでした。
すぐに黄瀬君はこちらへと移動してきました。
幸いにも空いていたので、隣に。
「いやー、まさか黒子っちがいると思わなかったッスよー。部活の帰りッスか?」
「そうです。黄瀬君は…こっち方面でしたっけ?」
「違うッスよー、仕事の帰りッス!」
黄瀬君はキセキの世代としてバスケをする一方で、
その端麗な顔と体を生かしてモデルをしているそうです。
僕から見ても黄瀬君は格好良く見えるので、女の子からの人気はすごいんだろうと思います。
「でも、今日はくたくたッス…」
「確かにぼんやりしていましたね。」
「…くぁあぁ、ねむ……あぁ、そうかもしれないッスね…」
肩にとすん、と小さな重みがかかる。
小さなと言っても割と重い。
「黒子っちが降りるとこまで、肩貸して欲しいッス…」
「…欲しいじゃなくて、もう借りてるじゃないですか」
「なんか一気に気が抜けて眠気がやばいッス……」
「はぁ…もう勝手にしてください。」
「ありがとッスよー……あ、コレ暇だったら使って…」
そう言って黄瀬君が取り出したのは小さな音楽プレイヤー。
黄色と青の鮮やかな色のそれに黄色のイヤホンがついている。
黄瀬君は、何を聴くんだろう。
「あぁ、この曲…僕も好きです」
「どれッスか?片耳貸して」
片方のイヤホンを渡して、再生ボタンを押す。
音楽が流れ出すと黄瀬君は完全に寝る態勢に入ったようだった。
目を閉じて……黄瀬君、まつげ長いなぁ…。
「これ、いい曲ッスよね…おやすみッス、黒子っち」
「はい、…おやすみなさい」
片耳から流れてくる音に混じって、黄瀬君の呼吸が聞こえてくる。
Time Old dry winds go by Lone air comes quiwtly
うたう声はとても安らぎに溢れている。
このままでいたいと願ううたは、いまを表しているようで。
「…」
ちらりと、黄瀬君の顔を覗き込む。
女の子たちが卒倒しそうな無防備な寝顔。
少しだけ、隈ができているようなきがしないでもない。
でも、とても穏やかに眠っていた。
「…このままで、いられたらいいのに。」
そう、呟いた言葉は安らかな音楽とけたたましい電車の音で、
だれにも聞こえずそっと、溶けていった。