006「Black History」
「私、秘密って嫌いなんです。」
ブラックヒストリーと言われた、双子の兄の話。
――――――――――
8年前―――……
珠紀は並盛高校を卒業した。
わたしは夢を見つけるために、大学への入学が決まっていた。
一方の双子の兄・雲雀恭弥は、近場の国立大学の法学部への入学が決まっていた。
そして同時に、大学へ身を置きながら、ボンゴレファミリー10代目の守護者としても働くことになっていた。
その際に、兄と同じく「ボンゴレファミリーの一員として働かないか」との声が、珠紀にかかったのだ。
そのとき珠紀をスカウトしたのが、暗殺部隊ヴァリアーのボスである、XANXUS。
勿論、兄がマフィアとして活動していることは知っていた。
スカウトされる2年前には、ボンゴレファミリーのボスである沢田綱吉や、その姉満天、守護者らと共に未来の世界へも行った。
シモンファミリーとの抗争、及び初代守護者・Dスペードとの戦いも見てきた。
ボンゴレ10代目の継承式へも参加したし、『あの日』の戦いにだって…………
だが、マフィアとして…ボンゴレの一員として戦おうと思ったことなんて無かった。
未来で兄に守られたとき、自分にはそんなことは出来ないと思った。
自分には他人を守ることも……愛する人さえ守ることも出来ないのだ、と。
自分は兄のようにはなれないと、自負していたのだ。
珠紀がそう考えていることは、リボーンや綱吉、満天…
そして兄である恭弥が、一番知っていた。
珠紀が今まで、とんでもない苦痛に耐えてきたということも。
だからこそ、珠紀へ「スカウトが来ている」という事実を伝えるのは、とても迷えることだった。
リボーンからスカウトの話を聞かされた守護者たちは、困惑した。
「ツナ、本当に…
珠紀に、戦わせるのか?」
「…本人に伝えること自体、考え物ッスね」
「俺は極限に反対だぞ、沢田!」
「僕は雲雀恭弥の妹がどうなろうが、興味はありませんがね」
まさかヴァリアー…XANXUSからの申し出だ。
安安と断るにもいかず、問題が生じる。
だが、また珠紀に戦わせるだなんて、そんなことをさせては……
綱吉は、頭を抱えた。
「ヒバリさん」
雲雀は席を立った。
ツカツカと靴を鳴らして、部屋を出ようと扉へ向かった。
「どこに行くんだ、ヒバリ」
リボーンの問いかけに、扉の前で足を止める。
ゆっくりと振り向いた雲雀の瞳には、これまで見たことがないほどの、哀愁と慈愛の念が宿っていたように見えた。
そうして、一言こう言った。
「ちょっと、ね。」
雲雀は部屋から出ていった。
―イタリア―
<ヴァリアーアジト>
「失礼します。
XANXUS様、お客が。」
「…誰だ」
「はい、それが……
ボンゴレ10代目守護者、雲雀恭弥なのですが。」
「ハッ…
通せ。」
「!ですが…」
「通せ、と言っている。」
「…かしこまりました」
大きな窓がひとつある広い部屋で、どかりと椅子に腰かけているのが、XANXUS。
暗殺部隊ヴァリアーの、若きボスである。
暫し待つと、重たそうな扉をノックする音が聞こえる。
「入れ」
部屋に足を踏み入れてきたのは、雲雀恭弥。
「XANXUS、だっけ。
今日はひとつ話があって来たんだけど。」
「話?…ハッ!
《頼み事》の間違いだろう。」
「全部分かっているなら話は早いね。」
XANXUSの鋭い赤い瞳が、獲物を射抜くように雲雀を捕えた。
雲雀も決してXANXUSから目を逸らさない。
「率直に言うよ。
今回のスカウトの件、取り消してほしい。」
言い切ると、その場に暫し沈黙が流れた。
口を開いたのはXANXUS。
「理由を言ってみろ。」
「…珠紀は、たった一人の僕の妹だ。
これまで、未来に行ったり、物騒な抗争に巻き込まれたりもしたけど、僕が守ってきた。
無意味に、傷ついて欲しくなかったから。」
「……続けろ。」
「…僕は、珠紀には、普通の暮らしをして欲しいと思ってる。
それはボンゴレの守護者たちも一緒。
いや、本当は心の底では、戦うべきだと思っているんだろうけど。
XANXUS、君が今回珠紀をスカウトしたのは、未来での動きなんかを見てのことだろう?
君のことだから、素材は活かしたい、なんて思って。
でも、そんな必要はない。」
「ハッ!
それで、テメェの妹が普通の生活とやらをしていて、他ファミリーなんかに狙われたときはどうするつもりだ?
もはや、あいつはもう一般人でもなんでもねえ。
立派なひとりのマフィアの身内だという時点でな。」
「君が誇るボンゴレの設備は、絶対なんじゃないのかい?」
「世の中に絶対なんて言葉が存在すると思うのか?
狙われねえなんて保証はどこにもねえ。」
「そのときが来たら、僕が守ればいいだけの話さ。」
「もう一度言う。
世の中に絶対なんて言葉は存在しねえ。
てめえはまだ弱え。
絶対に守りきれるなんて確証はねえだろう。」
雲雀はここで、ついにXANXUSから目を逸らした。
「それならば、ここ(ヴァリアー)の充実した環境で、育ててやるのがあいつのためにもなるんじゃないのか。
ちがうか?
雲の守護者。」
芋虫を噛み潰したみたいに、雲雀の顔がゆがんだ。
きっと悔しさだろう。
何もできない自分の非力さへの、悔しさ。
たしかにそうかもしれない、と、XANXUSの話に納得するところはあった。
だが、やはり…
「!
…テメェ」
「お願いだ。
どうか、珠紀には、普通の暮らしをさせてほしいんだ。
『あの日』のことは……忘れさせてあげたいんだよ。」
XANXUSは目を丸くした。
あの雲雀恭弥が、
他人に頭を下げた。
「テメェは…頑固だな。」
「しつこいって言ってくれるかな。」
「ぶはっ!違えねぇ!
…仕方ねえ。
取消の連絡を入れておいてやる。
頭はあげろ。テメェがそんな調子じゃ気色が悪い。」
頭を上げた雲雀。
「…感謝するよ。」
そうして、部屋をさった雲雀は、何事もなかったかのように日本へ帰国した。
部屋に一人残されたXANXUS。
「…ハッ」
思わず自嘲の笑みを浮かべる。
「『あの日』…か。」
、
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