061「」





あれからわたしは、夕食の時間までマーモンの部屋にいた。


十分面倒をかけたので「そろそろ帰るね」と言ったのだが、マーモンは




「無理をしてないって言うなら、帰っていいよ。」




とばかり言うから。

お言葉に甘えて居座ることにしたのだ。


なんていうか、伊達に生きてないよね、あの人。

(肉体年齢はわたしと変わらないくらいなのに、実年齢は倍近く上だからね。)


途中ベルが「ごめんな」って言ってきたのが印象的。
謝ることないのに。

やっぱ根はいい人なんだなあ、なんて考えて、わたしは部屋に戻った。


若干ミロでお腹を痛くしつつも、なんとか治って今に至る。



「はぁぁぁ…」



ベッドに倒れこむと、スプリングがギシリと軋む音を立てた。


初めは随分と慣れなかった柔らかく大きな枕も、今は落ち着くための条件のひとつになりつつある。


仰向けになって天井のほうを向く。

なんだか、最近あった色々な出来事を思い出した。



まず、この前はヴァリアーに恭弥が来た。

追い返す(といえば聞こえが悪いけど…)だけでも、かなりの頭と体力を使うことになった。

最終的には仲直りのような感じに慣れて良かったと思う。


次に、マーモンが帰ってきた。

久々に会えて嬉しかったけど、落ち着けないくらい考えさせられることがあった。

フランには、本当に申し訳ないことをした。


そして一番小さな規模のことではあるが、個人的に驚いたのは、スクアーロさんと寝てしまったかも事件。

あの時ばかりは本当に、内心冷や冷やしていた。



とまあそんな具合に色々なことがあったわけだけど。


まさか今度はディーノが来るとは。

こんなこと、夢にも思っていなかった。


こうして整理して考えてみると、ヴァリアーに来る時も来てからも、なんだかトラブル続きだなあ…



体を右側を下にして横にすると、視界に部屋の中央に置いたソファが映り込む。


自分一人しかいない部屋なのに、無駄に広々とした部屋だとつくづく思う。

正直、時々寂しくなることもある。


ふと時計に目をやると、時計は0時から左周りに数えて90度のあたりを指していた。




「…仕事、あったっけ。」




のそりとベッドから起き上がってみるものの、机に向かう気には到底なれそうになかった。


すると、扉をノックする音が部屋に響く。


疲れてはいたが「はあい」と少し間延びをした短い返事をすると、ドアは容赦も返事もなく開いた。



そこに立っていたのは、スクアーロさんだった。

いつもノックなんかには煩いこの人が、返事をしないなんて珍しい。



「どうしたんですか、スクアーロさん。」



なんだか様子を見る限り、結構疲れているようだった。


「ちょっとなぁ」と言うなり部屋に入ってきて、案の定ソファにどっかり座った。

遂にここのソファもスクアーロさんに占領されたか。



そんな冗談を考えながら、わたしはドアを閉めた。


ひんやりした廊下の空気が、部屋の入り口あたりに留まっている。

それに当てられて身が引き締まるような感覚を覚えながら、わたしは部屋の中央へと向かった。



疲れていそうなのにわざわざ隣にかけるのも気が引けたので、とりあえず近くの椅子に座った。


それに気が付いたスクアーロさんが自分の座る横を手で軽く叩いた。

「来い」一瞬向けられた目線はそう語っていた。



おずおずと近寄ると、側に行ったとたん、腕を引かれてソファに腰を下ろすことになる。

バランスを保てずに、肩に寄りかかってしまったのが妙に恥ずかしい。


照れて叫ぶにも驚いて声を上げるにも気力が足りなかったので、黙ってその場は切り抜けた。

まるで何も無かったようにソファの端に座りなおすと、「随分つめてえなぁ」なんて言っている。



しばらくの間そうしていただろうか。


時計の秒針が妙にカチコチと響く中で、わたしもスクアーロさんもただ黙ってそこに座っていた。

本当に座っているだけだ。


そんな中、話を切り出したのはスクアーロさん。

いつもよりもかすれ、抑えられた声で得意の「う゛おぉい」。


入口側を向いていた頭をスクアーロさんの方へ向けると、スクアーロさんはこちらを見ていた。

目が合うとすぐに逸らされてしまったが。


すると、なにやら何かを聞きたそうにして目を伏せたりこちらをチラチラと見ながら、「あの」とか「その…」と繰り返している。



「どうしたんですか?」



わたしがそう訊ねると言葉に詰まり、少し頬を染めていた。

何があったと言うんだろう。

っていうか、いい年した男が頬を染めるって…
いや、美形だし許されるけども。


少しうつむき気味だった顔をあげて、スクアーロさんは口をゆっくりと動かした。




「お前の中の俺は、どの位置にいる?」


「…はい?」




確かにスクアーロさんはこう言った。

どの位置にいるか、とは、どんな意味で言っているのだろうか。


私の中でのスクアーロさんの立ち位置を問われているのだろうけど、どのようにして答えて良いか分からない。

つまり何だ。

簡単に言うと、どう思っているか、という意味で良いのだろうか?


私が思わず聞き返すと、「要するにだなあ…」なんて言ってモゴモゴやっている。

私が短気だったら多分キレてるよ、この間。



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