058「けも耳」





「あははははっ!

スクアーロさん可愛いーっ!」


「るせぇえ!!
こっち見るんじゃねええ!!」


「うわ、センパイそれはないわ。」


「隊長のそれは反則ですー。
悪い意味で。」



ただいま、暗殺部隊ヴァリアーは大変なことになっております。

具体的になにがどう大変なのか、というと…



「んも〜皆ぁ!

マーモンちゃんが熱で苦しんでるっていうのに、不謹慎よ!」



そう、マーモンが熱を出して寝込んでしまったのだ。

それと冒頭の笑いと、どう関係があるのかというと、答えはシンプル。


熱によって、マーモンの幻術のコントロールが効かなくなってしまったのだ。


そしてなぜか、皆の頭にはど動物の耳が生えてしまった、という次第だ。

なんで動物の耳なんだ。
マーモンよ。



「すいませーん。
ほとんどミーのせいですー。

ミーが『けも耳大特集!なんちゃって日本の文化』を枕の下に仕込んだから…」


「お前そんなの読むの!?」


「いいえ、マーモンセンパイへの嫌がらせ用に買いましたー。」



…ということらしい。

おおかた昨日寝る前にそれを発見したから、今朝こんな大変なことになったんだな。

フランの野郎め。
人の耳を返せ。


ちなみに総括して『けも耳』というだけあって、皆の耳(としっぽ)はどうやら違う動物のものらしい。


おそらくスクアーロさんは狐。

ベルが虎で、フランが猫。

ルッスはウサギ。


そしてわたしこと珠紀が…犬。


くっそ。わたし犬そんな好きじゃないんだけど。

あの、人に向かって媚を売るような態度が気に食わない。
見た目は可愛いけども。



「でもオレがトラってあたり、マーモンもよく分かってんじゃん?

王子にはピッタリ♪」


「オカッ…ルッスーリア先輩程似合わない人もいないんじゃないですかねー。」


「んまっ
私のどこが似合ってないって言うのよ〜ん!!

可愛らしくてか弱いウサギ、私にピッタリじゃないの〜。

っていうか今オカマって言いかけたわね!
んもうっ!」



ちょ、ルッス、おしりフリフリはやめてくれ。
さすがに怖い。

…ま、ある意味女の子っぽくて似合ってるよ、ルッス。


トラも、強くて高貴なイメージでベルには似合ってるし。

フランも自由気ままなネコって感じで、見た目にも性格にも合ってる。


でも、それより疑問なことがある。



「…スクアーロさん。」


「ああ?なんだぁ…
あんまこっち見んなよぉ。」


「いや…ちょっと、あの…

写真を撮らせていただけないかと。」


「はあ?」


「一枚!一枚だけでいいですから!」


「な、何でんなことしなきゃなんねえんだぁ!」



さすがにいきなり言うと驚かれた。
まあ、当たり前か。

いや、うん。

だってさ。

スクアーロさんの長い銀髪+狐耳+狐しっぽなんて…ねえ?



「蔵馬そっくりなんですもん!」


「意味わかんねえ!
写真なんて嫌だぜえ。」



そう。
蔵馬そっくりじゃないか?

(わからない人は是非、幽遊白書を見てみてね!!)


その姿、まさに妖狐!

特別蔵馬が好きってわけじゃないけどさ。
どっちかって言うと飛影のが好きだけどさ。


こんな天然コスプレ、見逃すわけにも行くまい!!



「ししっ、なに?珠紀。

やっぱ幽白連想したわけ?」


「しない方がおかしいよ。」


「でも、カスザメ先輩より蔵馬のがイケメンじゃん。」


「いや、スクアーロさんもイケメンだよ!
まあそりゃ、めっちゃ似てるってわけではないけど。」



ベルも日本の漫画は好きらしく、食いついてきた。

皆「?」な顔をしてる中、よくぞ食いついてきてくれた。




「マーモンの熱が下がったら見れないからね、こんなの。

マジモンのけも耳画像なんて無いよ、普通。」


「幻術で作ればいいんじゃね?
簡単だろ、それくらい。」


「自分でやるんじゃなくて、他人がやるのを見るから価値があるんだよ。

っていうか教えてもらったはいいけどもう飽きたアレ。」


「…う゛おぉい、お前ら人をのけて話すのは良いが、せめて人語をしゃべってくれぇ。」



失礼なもんだ。

ていうか、真面目にマーモンを心配してるのがルッスだけってあたり、世も末だな。

同僚が寝込んでるていうのに。


フランなんて「マーモン先輩、ほーらナース特集ですよー」とか言ってるし。


やめろ、そういうことしたらナース服の奴出てくるだろうが。

どうすんの?
ルッスがウサ耳ナースになったら。

さすがに怖いでしょ。

っていうか辛い。視覚的に。



「あ、珠紀ナース服だ。」


「早っ!!
ちょ、やだやだやだやだ、ナースより婦警さんがいい!!」


「そういう問題じゃないだろ。

っていうか、マーモン先輩も結構むっつりなことしますねー。」


「はあ、はあっ…もう僕に何も見せないでくれない、フラン。」


「えー、どうしよっかなあー。」



そうだ、そうだよフラン何も見せるんじゃない!


わたしがナースでも問題あるけど、あれだよ。

ここにボスがいたらもっと問題起きてたかもしれないからね。

ボスのナース服なんて怖くて見れない。



「珠紀、ハイチーズ。」


「あっ、ども。
じゃねーよ、フラン止めろよ。

あいつもう楽しんでるよ、猫耳生やしてるくせに。
しっぽ引き抜いたろか!」


「まあまあ、グレんなって。

あ、今の写真センパイもいる?
珠紀の犬耳ナース。」


「なっ…いるわけねえだろぉ!!」



え、そこまで否定されると流石にちょっと傷つくんですけど。

いる『わけがない』だからね。
いらないの前提だからね。

別にいいけどさあ。



「つーか、こんなんじゃ収拾つかねえぞぉ。

まずはマーモンが寝ねえことには意味がねえ。
全力で寝ろ、マーモン!」


「はぁっ…無茶言うなよ、スクアーロ…げほっ」



あとその姿で言っても説得力とか威厳とか色んなものが感じられないからね、スクアーロさんよ。


でも、マジでどうするんだろう。


マーモンの様子を興味本位で見に来た暇人の集まりだし、そろそろ部屋に帰りたいんだけど…

なにせこの耳としっぽだから、廊下に出ることすらままならない。


完全に詰んだ。



「あ、じゃあミーが皆さんの耳と尻尾を隠せばいいんじゃないですかねー?

それで各々部屋に戻ると。

なら周りにはバレませんし、いいと思うんですがー。」



それだ。

一応フランは世界で3本の指に入る術師だ。

なら弱っているマーモンとなら、全然やりあえるだろう。


スクアーロさんも「それだぁ!早くやれ!」と急かしている。

顔は嬉しそうだけど、耳と尻尾がちらついて…ふふ。



「待ってくださいー。

いつもの皆さんの姿を思い浮かべるんでー。」


「おう、思い出せぇ!」


「王子的にはしばらくこれでもよかったのに。」


「私もよ〜…少し残念。

まっ!ひと思いに直しちゃってちょうだいフランちゃん!」



フランが「うーん。」と唸りながら、想像をはじめる。

どんだけ普段人のこと見てないんだろう、こいつは。


すると、「完了ですー、いきますよ。」との声。


よし、これでナース服からも解放される!

好きでない犬からもオサラバだ…!



「ってう゛おぉいフラン!

てめえ、どういうつもりだぁ!!?」


「うっわ、マジサイアク。

何考えてんだよ、クソガエル。」


「んもうっ!
私にヒゲなんて生やさないでちょうだいっ!!」


「…あ、間違えましたー。」



一瞬でも、フランに期待した自分が馬鹿だった。

怒り出した皆は正しいもので、予想通り、皆の姿はさっきよりも酷いことになった。



「セーラー服なんて、んな恥さらしがあるかぁあ!!」


「いやぁ〜ん!
フンドシなんて、着るんじゃなくて見るほうがいいのに〜!!」


「センパイ達ならまだいいだろ。
オレなんてゴスロリだぜ?」


「お前の方がまだマシだろうがぁ!

つーかフラン、お前ちゃっかり自分だけ元に戻してんじゃねえ!!


珠紀!
お前もなんとか言…え…?」



そんなに驚いた顔で見ないでスクアーロさん。

ちょっと、ベルまでびっくりしないで。
ルッスも。なに喜んでんの。


え?なに?

わたしに何とか言えって言うの?


無理だよ。
なぜなら、自分が一番驚いて、声が出ないから。



「どうですかー?
似合うでしょ。

肉球とかもつけてみましたー。


かわいそうなおっぱいのことを考慮して、露出は控えめなのがポイントですー。」



そう。

わたしの今の格好は、まさに犬。


モノホンではない。
しかし耳と尻尾にはとどまらない。

どういうことかというと、



「よかったですねー、珠紀さん。

歳も顧みず、人生初の犬コスですよー。」



「………よくねえよバカヤロウ!!!!」



犬のコスプレ。

この一言に説明は収まる。


スクアーロさんもベルも気を使ったように目をそらし、ルッスは記念にとシャッターを押す。

こんなカオスな空間、かつてない。



みなさんもどうか、術師の体調管理には気を遣ってやって欲しい。







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