057「無駄遣い」
「ねー、ベル。」
「あ?」
わたしは、ある重要なことに気づいてしまった。
「わたしってさ、雲の波動が一番強いんだよね?」
「何、今更。
だから雲の幹部やってんだろ?」
「いや、そうなんだけどさ…」
波動。
それは、人体をめぐる生命エネルギーの総称。
それを形とし、視認できるようになったものが、いわゆる死ぬ気の炎というものだ。
また、それらには属性というものが存在する。
種類は天候になぞらえて名付けられた、大空、嵐、雨、雷、晴、雲、霧の7つ。
死ぬ気の炎の形質は、まるで指紋のように個々で違っており、流れる波動もまた、人によって様々なのだ。
多くの人は、一つの属性の波動が強く、ほかを持ち合わせていても、極微弱なものであることが分かっている。
しかし、中にはメインの波動は勿論強いが、サブの波動も、戦闘に活かせるほどのレベルである者もいる。
わたしの兄・恭弥もそれ。
戦闘に活かせる、というレベルでもないが、雲の他に霧系のカモフラージュリングを持っていたりする。
と、ここからが本題。
「…わたしもさ、霧の波動流れてんのかな。」
「はあ?」
そうだ。
ベルには双子の兄がいたと言う。
殺したとか言ってたけど。
(ある未来では生き残り、ボスに奇襲仕掛けてたりしてた。)
その兄とベルは、同じ属性だったという。
同じ母体から生まれているのだから、そりゃ遺伝的にもそうなってくるだろうが。
その例に漏れず、わたしとにぃも同じことが言える。
兄妹揃って、組織は違えど雲の幹部として働いているくらいだから。
ということは、だ。
霧の流れる兄を持っていうことは、わたしも霧流れてるんじゃね?
そう、考えたのである。
「うーん…
まあ、双子っつっても男女の双子だしな。
親が同じで、同時期に同じ腹で育ったって言っても…
完全に同じ卵からなってないから、そこは一卵性の俺らよりかは、似ないこともあるかもな。
お前の両親の属性って何よ?」
「え…
たぶん、父さんが霧。
で、母さんの家系が生粋の雲。
調べてみたら女が全員雲だった。」
「うっわ、じゃあお前も生粋なんじゃね?」
「かなあ…」
ベルにしては良いアドバイスをもらえた。
さすが天才、言うことは違う。
頭がいい。
うーん。でも、霧とか流れてたら楽しそうだよなあ…
あれじゃん。
めっちゃ霧の幻術作って遊べるじゃん。
…いや、使うよ?
有効活用するけどね?うん。
ここは、何としても確かめたい。
でも、ここはヴァリアー。
以前スパナが作ってくれた『生命エネルギー診断メガネ』は無い。
(遊んでたら綱吉にとられた。)
「はああ…」
「……んなに確かめたいわけ?」
「うん。
だって面白そうだもん。」
「じゃあ、王子から一個提案ー。」
ししっと独特に笑って、「まずはマーモンか、あのクソガエル呼んで来てからだな。」なんて言う。
え、なに。
霧のひとだからって、見抜けるわけじゃなくね?
と思ったら、ベルがすっごく良いことを言った。
「霧のリング借りて、炎出るか確かめればいいじゃん?」
――――――――――
「――と、いうわけです。」
あれからおよそ20分。
部屋にいたマーモンとフラン、結局二人をここ談話室まで引っ張ってきた次第だ。
二人共昼寝タイムだったらしく、見事に大あくびをしている。
「じゃあ僕はそんな事のために起こされたの?
一応リングはあるだけ持ってきてみたけど、ちょっとがっかり。」
「ひでえ!
いや、起こしたのはゴメン。
どうしても調べたくて。」
机の上に数個のリングを並べるマーモン。
おー…結構あるなあ。
わたしもにぃ同様リング集めは好きだけど、こんなに高そうな奴たくさんは持ってないや。
あ、ちなみに今更だが、マーモンは霧の幹部ではない。
霧のリングを持っているのはフラン。
その代わり、マーモンは現在なんとか役、みたいな偉いポジションに着いている。
まあ、ヴァリアーの精鋭であることは昔から変わっていない。
するとフランも同様に、リングを机に並べた。
うわ。
こいつも良い奴使ってんな…
え、なにこれ。
ヘルリング?だっけ?
世界に6個しか無いとかなんとか…六道の奴が見せびらかしてきたことがあった。
他にもなんか色々あるし。
こいつどっから持ってくんだ、こんなリング。
「……すげー。」
「このレベルのリングでそんなこと言ってたら、師匠の奴見れませんよー。
あの人出処不明の高そーな奴、めちゃくちゃ集めてますからー。」
「まじか…」
「そんなにあってどうするんだってくらい。」
うわ。
そういうとこ似てるから、にぃと性格合わないんだよ。
サクラクラ病利用して嫌がらせしてくるとか言ってたし。
にぃより陰湿だから。
あの人。
「んで、マーモン。
こん中で一番炎灯りやすいリングってどれよ?」
「うーん…これかな。
あんまり強い波動だと壊れちゃうけどね。」
「だってさ。
珠紀、やってみ。」
マーモンが差し出した、深い藍色の石のはめ込まれた、恐らく一番安いだろうリングを指にはめてみる。
うわっ、マーモン指細くね?
ギリギリなんだけど。
なんか最近悲しくなること多いな…
「ど?」
「こんなほのぼのしてる時に炎出せたら驚きですけどねー。」
「ちょ、ちょっと待って。
今イラつくこと考えてみるから。」
「珠紀、多分それやり方ちが…」
最近イラついたことか…
考えてみれば結構あるなあ。
フランが細すぎるとかベルが白すぎるとか。
おい、だれだ女のが男より華奢なんて言ってる奴。
ヴァリアー華奢な男多いぞ。
あとスクアーロさんの足が長すぎる。
ルッスがオカマなのに女子力高すぎる。
…やべえ、僻み日記みたいになってきた。
あとは、ああ。
談話室の冷蔵庫に入れてた『とろーりとろける!でも焼きプリン』、任務から帰ってきたら、レヴィに食われてたことくらいか。
……思い出したら、これが一番イラつくな。
なんでだよ。
なんで他人のプリン食ってんだよ。
しかもあれだぞ?
あのプリン、プレミアだかんね。
驚きの価格、5000円だからね。
「珠紀?どう?」
「……レヴィ、コロス。」
「はあ?なんであの変態が…
って、あ。
おい、うっすら炎出てね?これ。」
え、まじで?
「ほんとですねー。
あ、なんかちょっとずつデカくなってきてますよー。」
「本当だ。
雲雀恭弥もムカついたときに炎が大きくなるって言ってたよね。
どうなってるの、君ら…」
指にはめたリングを見てみると、そこには確かに藍色の炎が灯っていた。
雲よりちょっと根気がいるけど、どうやらわたしも若干霧が流れていたらしい。
「おお……」
「ししっ、何?
あんなに知りたがってたくせに、随分反応薄いな。」
「いや…こんなにあっさり分かっちゃうとは思ってなくて。
あ。
どうせならこれ、幻術とか出来ないの?」
わたしがそう訊ねると、マーモンとフランは首をかしげた。
なにこいつら可愛い。
フランは「出来ないこともないんじゃないかと思いますけどー」とかなんとか言っている。
なんだよ、もったいぶるなあ。
「珠紀の想像力なら、出来るとは思うよ。
でも、多分、集中力的に無理だと思う。」
「ひでえ。」
「術師はそういうものだよ。
体力はなくっても誰にも何も言われないけどね。
想像力と集中力が命だから。」
で、なに。
わたしには集中力が足りないと。
…たしかに、学生時代のテスト勉強も社会人時代のデスクワークも、休憩は多かったけども。
結構沈むよ…
面と向かって言われると。
「ああ、でも、あくまで戦いに使うほどのものは難しいって意味だから。
ちょっとしたカモフラージュとか、遊んで作る程度のものなら、練習で出来ると思うよ?」
「ですねー。
ミーも修行を積む前は、よく被り物を作って遊んでましたからー。
その程度なら、やってみますかー?」
「まじか!?じゃあやる!!」
「軽いな、珠紀。まあいつもだけど。」
ベルのちょっとしt暴言は、この際気にしないようにしよう。
「じゃあ、さっそく庭に出ようか。
リングは借してあげるよ。」
「ありがとう!」
「楽しそうで何よりですー。
ミーのお昼寝タイムは消えましたが。」
そう言って大あくびをひとつこぼすフラン。
遊ぶ程度の幻術かあ…
何作って遊ぼうかなあ。
あれもやttこれもやって…やべえ決めきれない。
早くも妄想が進むよ。
こうして、ベルを含めて霧’sとわたしで、庭に向かった。
――――――――――
数日後
「…珠紀、それ、なに?」
フランとマーモンが、珠紀にちょっとした幻術を教えたというのは聞いていた。
でも、まさかこんなことになるなんて、誰が考えただろうか。
「ああ、満天。
見てよこれ。銀さん!
すごくね?作ったっさー!」
「……ああ、すご…うん、すごいすごい。すごいよ。」
「でっしょー?」
「…………。」
そこには、笑顔で想像力の無駄遣いをする珠紀の姿がありましたとさ。
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