056「デジャヴ」





あれから。

わたし達は半裸&びしょ濡れのままヴァリアーに帰還した。


すぐシャワーを浴びたはいいけど、どうやらかなり底冷えしてしまっていたようで。

もちろん風邪をひいた。


報告書にはがっつり「死にかけました」と書いてやった。


にゅうたろう達は「危なかったな」なんて言いながら余裕そうなツラでぶっこいてた。

ちょっと腹立ったから冷蔵庫をガムテで縛った。

ざまあ。


ルッスは「生きててよかった」とか言ってくれたが、満天には「しぶといね」と言われた。

ボスには爆笑をいただいたし。
なんなんあの夫婦。

ひそかに泣いた。



疲れに疲れきって、わたしは例のごとく談話室を目指した。


けど、帰ってきたのが既に夜。
現在時刻は21:00。

今日任務に出ていた幹部はわたしとフランだけだったので、予想通り誰もいなかった。



うーん、それにしても寒い。
早く部屋戻ったほういいな、これ。

風邪悪化させたくないし。


まだ寝るには早いけど、寝たほうがいいんだろうか。

いやでも、夜9時に寝るとか…いくらなんでもお子ちゃますぎるよなあ。


それにお腹も空いたし。
こんな空腹で寝れるわけないよ。

何か作ろうかとも思ったけど、ダメだ。

わたしさっき冷蔵庫縛ったばっかだから、部屋に帰った時点でなにも食べれん。


じゃあどうしよう…

明日ルッスは任務だって言ってたから、さすがに押しかけるわけにも行かないし。

満天も料理出来るけど、今頃ボスとお楽しみ中だろうし。


フランは寝てる。

ベルは…料理は出来ても、部屋にご飯なんてないだろうなあ。

レヴィはああ見えて万能だからご飯くらい作れるだろう。
けど近づきたくない。


ってなると…




「スクアーロさんしかいないかぁ……」




確か、依然「俺は料理くらいなら出来る」って言ってたような気がする。

学生時代は自炊してたとかなんとか。


しかも前、



「おいしいパスタ食べたいなあ。
はあ…ヴァリアー無闇に外出れなすぎだよ…」


「パスタくらいなら、俺にも作れるぜえ」


「おいしいやつですよ?」


「朝飯前の朝飯前だあ。
逆にパスタを不味く作れる奴なんていねえだろぉ。」



ってやり取りをしたことがある。

よっしゃこれだ。
夜の任務も多いから、部屋にご飯おいてるだろうし。

うん、ちょうどいいな。

たかりに行こうっと。


わたしはルンルン気分で、そのまままっすぐスクアーロさんの部屋に向かった。





スクアーロさんの部屋は、談話室からはだいぶ遠い。


冷えて冷えて仕方がないので、とりあえずノック。

ここで注意すべきことは、便所ノックにならないようにすることだ。


以前、二回しかノックをしなかった時、『入ってます』とキレイな敬語で返されたことがあるからだ。

確かにわたしのマナーが悪かったんだけど、わざわざ弄ることもないじゃんね。


数回ノックをしてみるも、返事がない。


…もしかして寝てる?

まさかだよな。
スクアーロさんに限って、こんな早くに寝るなんて有り得ない。

むしろ夜ふかしをして、昼間に昼寝をするタイプだ。
あの人は。


試しにドアノブに手をかけてみたら、鍵はかかっていないみたいだった。



「…聞こえなかったのかなあ、ノック。

スクアーロさーん。」



少しドアを開けて名前を呼んでみるも、やはり反応はない。


部屋の前にいるのに、ケータイを鳴らすのも何だか変な話だし…

入っても大丈夫かな?

うん、入っちゃおう。



「おじゃましまーす…」



まったく、暗殺部隊の作戦隊長なのに、こんなんじゃ暗殺されちゃうよ。

部屋の鍵くらい閉めなきゃ!
(人のこと言えないけど。)


部屋の奥へ行くと、スクアーロさんはソファに座っているようだった。


この人ソファ好きだよなー。

なんか、いつも気づいたらソファ陣取ってる気がする。



近づいても反応がないので覗き込むと、目を閉じていた。


え…なに、え?

マジで寝てたの?

それだけは絶対ないと思ってたのに…珍しいこともあるもんだ。


これじゃご飯作ってもらえないよ。

寝てる人起こしてまでやらせることじゃないし、自称美味しいパスタはまたの機会にしようっと…

今日はこのまま帰るしかなさそうだ。



「…あ。」



でも、待てよ。
このまま帰ったら、結局鍵開いたまんまじゃん。

いやいや危ないよ…暗殺部隊の居城で鍵開けっ放しとか。


どうしよう…

鍵置いてる場所なんて知らないから、外からかけることも出来ないし。

ここはもう、起こすしかないのかな。


軽くつつくと、薄く目を開けるスクアーロさん。

よし、今のうちだ。



「スクアーロさーん」


「…………。」


「あのー、部屋の鍵、開いてましたよ。

危ないので閉めてくださいね。」



すでにわたしが入ってきちゃったわけだし。

危険極まりないからね。


寝ぼけ目のままで、話を聞いているんだか聞いてないんだか分からないけど…

とりあえず、やれることはやった。
と、思う。



「…じゃ、わたしは帰るので。」



部屋を出るべく、しゃがんでいたのを立ち上がって、そう伝えた。

人が眠ってるとこにずっといるのも、なんか忍びないし。



するとどうだろう。

微かに、声が聞こえる。


わたしがそれに反応して振り返ると、うつろな目のままぽんぽんと横を叩いたスクアーロさん。


…え、なに。

座れってことか?



「…わたしも座るんですか?」



そう聞くと、こくんと一度こうべを垂れる。

とりあえず言われるがまま、わたしもソファに座った。


…スクアーロさん寝起きエロいからなー。

あんま目に入れてるとセクシーで、ちょっとやり場に困るんだよね。


ていうか、ヴァリアーの人は総じて寝起きが悪いと思う。

よく寝ぼけてるの見るし。

元気なのはルッスくらい。



しばらくそのまま座っていたのは良いが、スクアーロさんは動かない。

岸辺露伴より動かない。


…うん。どうしよう。

動かないどころか、せっかく開いた目がまた閉じられちゃったんですけど。



「…あの、スクアーロさん?

わたし、帰ろうかと思うんですけど。」


「………おう。」



おうって、アンタねえ。

了解のサインなら、寄りかかるのやめてください。


ほらもう、また出たよエロアーロさんが!
(※今命名した。)

寝起き悪いって言っても、こういう意味で悪いんならまだマシな方なのかもしれないけど…

暴力振るわれたりするよりはね、うん。



「スクアーロさん、寝るなら鍵閉めないと。」


「………ああ。」



するとすっくと立ち上がって、ふらつく足取りで扉に向かう。

がしゃりと鍵の閉まる音がしたので、鍵自体は閉めたんだと思う。


…いや、そういう意味じゃなくてね。

若干取り違えてるんですけど。

わたしが部屋に帰ってから閉めてて意味だったんですけど。



これでいいかとでも言うように、こちらに向かって歩いてくるスクアーロさん。

自信満々な顔してますけど、あんた間違えてますからね。


更にふらついて、柱にもたれかかる。
そして床に座り込む。

ああもう、大丈夫かこの人。


駆け寄ると、ある一つのことに気が付いた。



「……スクアーロさん。

もしかして、お酒飲みました?」



…うん。
多分間違いない。

本人は「少し」と言っているが、結構な量を飲んだはずだ。


なんて言ったって、この人はヴァリアー幹部の中でも3本の指に入るくらい、お酒に強いのだから。

少しの量で、こんなに酔うわけがないのだ。


風邪をひいて鼻づまりをしていたからか、今の今まで気づかなかったが…

よく集中してみれば、お酒の匂いがする。



「とりあえず、ベッドに行きましょう。

そんなにフラフラのまま歩いたら危ないです。
歩かせてごめんなさい。

ほら、立ってください。」


「…おー。」



少し歩いてベッドのところへ行くと、ばったり倒れこむ。

なんでソファにいたんだよ、まったく。

はじめからベッドに行けばいいのに。


布団をかけてやると、なぜか照れていた。

酔っぱらいの心はわからない。


えーと。
じゃあどうしよう。

窓から出て、玄関まで行って入ってる?

いやいや外雨降ってるし。
ていうかここ6階だし。

それはさすがに無理。


…ああ、もうソファでも借りて、一泊するしかないか。


ため息混じりにベッドを離れようとした、その時。



「わっ…!」



――ぼすっ


後ろから急に手を引かれて、倒れこむわたしの身体。


後ろがベッドだから良かったけど…って、あれ。

ベッド?


ゆっくり振り返ると、そこにはスクアーロさんのドアップが。


いや、当然といえば当然なんだけども。

いきなり見るとさすがに驚く。



「っ…す、すすすスクアーロさんっ?

あの、」



若干噛みつつテンパっていると、「黙れ」とでも言うように、腕を回される。


うわわわわ抱きしめられとるー!!

やべえ、なんか、これ以上なくテンパってるよ、わたし!


あったかいよ。
あったかいけれども、これはだめだ。

…今日は随分人に抱きつかれる日だなあ。

フランやベルはいつもだとしても、スクアーロさんなんて、超レアだ。


なんて、考えてる場合じゃない!



「………どうしよう。」



スクアーロさんは早くも寝息を立て始めるし。

いや、ちょっ。
耳くすぐったいから。

なんて言っても寝てるし全然意味がない。くそ。



あったかいし、風邪の身としては全然アリなんだけれども。

同僚と一晩一緒に寝るっていうのも、イケナイ予感。


…まあ、眠るだけ、ならいいのかな?


腑に落ちないところもあるが、こうでもしないと落ち着かない。

とりあえず、わたしも目を閉じることにした。


人のぬくもりを感じながら眠るなんて、何年ぶりだっただろう…






―――――――――





翌朝




「な…なんでいるんだぁ…」


「え?
たぶん、知らないほうがいいかと思いますよ。」


「(まさか、無意識に手出しちまったのかぁ…!?)

悪い珠紀、酒のせいか、全然覚えてねえ…」


「…いや、あの。
勘違いしないでください。」


「え?」



見事デジャヴを味わうスクアーロと珠紀であった。







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