055「イケメン」





危ういところをフランに助けられて、上着(というかワイシャツ)まで貸してもらって。

なんだか申し訳ないどころの話じゃない。


気にするな的な事を言っていたから、良いのかもしれないけど…
いや個人的によくない。

命の恩人じゃないか。

こんなところで借りを作るとは。


つーか細っ。
色白っ。

ウエスト何センチだよ。

コイツのスリーサイズ、絶対わたしよか小さいよ…



とまあわたしが若干ショックを受けているとも知らないフランが、にっくきクソオヤジに制裁を下すべく立ち上がった。

その時。




「超絶クソオヤジものこのこやってきてくれた訳だし。

是が非でも、印を押してもらうとしますかー。」




屋敷の玄関口から、オジサンが例の笑顔を浮かべて、呑気に歩いてきた。
悠々と。

なんだか奇妙な光景だ。


今更だが、このオジサンが、このファミリーのボスだ。

ボス、というわりには、随分とセコイ真似をしてきたけどね。



我らがボス、XANXUS様ならあれだよ。
罠なんてあっても使わないよ。

気に食わないなら「るせえドカスが!」の一言で銃ぶっ放すよ。

もしくは拗ねてガン無視。


綱吉はきちんと話し合いの後に納得するし、納得できない内容なら、解決するまで粘る。

それでもいつでも、相手のことが最優先。

相手に危害を加えるなんて、以ての外。



まわりにいる『ボス』がそんな人達だからか、わたしには、どうしてもこのオジサンを『ボス』とは呼べなかった。

わたしのボスではないのだから、呼ぶ必要もないのだが。


なんていうか…
この人は、ただのオジサンなのだ。


こんなことを言うのも何だが、この人は、人の上に立っていい人間じゃあ無い。

『ボス』と呼ばれるべき人ではない。



すると何を思ったか、オジサンはにっこり表情を崩さないまま、手をパチパチと打ってこちらに向かってきた。



「いやはや、驚いた。

まさかあの水圧の中、排出口から人ひとりを抱えて脱出してくるとはね。

小さな身体なもので正直、侮っていたよ。」


「一応本業が暗殺なのでー。

それで、どういうおつもりですかー?」



印を取りに行く、と言っていた割に、随分遅かったですね。

静かにそう言ったフラン。


なんか怖い。
殺気ってこういうのを言うのか。

わたしには到底無理だ…


しかしオジサンは表情を固めたまま。



「よほど隣の彼女が大事だったようだねえ。

まるで奇跡だったものなあ。はは。


ああ、印ならここにあるよ、しっかり。

それとも、私も死炎印で返したほうがいいのかな?」



つくづく嫌みったらしいオッサンだ。


フランも流石にイラついてるのが、目に見えてわかる。

これだけ遊ばれたのだ。
当たり前と言えば当たり前だが。




「ええ、というか、正直押してくれるんだったらもう何でもいいですー。」




わたしの手から書類(死炎印の押されたものなので、濡れてはいない)を取り、ツカツカとオジサンの元に歩み寄る。

年下ながらちょっと怖い。


まあでも、大量の水を飲んだわたしにそれだけのことを出来る元気があるはずもなく。

半ば任せるしかない、という感じなのだが…

てかフランも人担いで泳いだばっかなのに。
暗殺者すげー…




「では、取引をしないか?

ハンコは後できちんと押すさ。」


「あんたのその態度が気に食わないんですよー。

バックレが得意なようですし。
信用なりません。

取引とやらをしたいなら、まず印を押してください。」


「何、簡単なことだよ。」


「話聞いてるんですかー。

言っておきますが、あなたの部下たちはおおよそミー達が倒しました。

あなたに選択肢はないんですよ。」




ミー達っていうか、ほとんどやったのフランだけどね。

そんな心の声をよそに、フランはオジサンを口で追い詰めていく。


さすがに痛いところを突かれたからか、オジサンは一瞬、苦虫を噛み潰したような表情でフランを見た。



「言い返す言葉は無し、と。

じゃあ、文句もありませんよねー?


念のためもう一度言います。

あなたに選択肢はありません。」



フラン、もうこれ会談じゃなくて恐喝になってるよ。

物凄い剣幕で書類を差し出すその姿に、オジサンは首を垂れた。


どうやら折れたようだ。


ここでこれ以上反抗しても、下手を打てば自分もやられるとでも思ったのだろうか。

案外あっけない終わりだった。



それにしても、知れば知るほどダメな『ボス』だ。


やはりわたしの読みは間違っていなかったらしく、この人は人の上に立つべき人間ではないらしい。

最終的に保身を優先し、仲間は手駒のようにぞんざいに扱う。

最悪の極みだ。




「これでよし、と。

ああ。ありがとうございましたー。


珠紀さん、これ、もらいましたから帰りましょー。」


「うん…ありがとう。」


「残念ながら、何に感謝されたのかわかんないですー。」



ごめんって言ったら「馬鹿の一つ覚え」とかいうからだろ。

死炎印のしっかり押された書類片手にかけてくるフランに冷静に突っ込む。



あー。
上半身裸も流石に寒い…

今の時期的に凍えて死ぬよ、これ。


寒さではフランの方が上だろうけど、どうなんだろう。

濡れたワイシャツ羽織ってても意味ないってか、あれだよね。
逆効果だよね、多分。


とりあえず、門の外にまたせてる車に行こう。

任務は完了したわけだし、そこに行ってから先のことを考えよう。



「フラン、車戻ろう。」


「あ、はいー。」



と、冷たい風に耐えつつ歩き出した時。


「うわっ!?」


背中に重みがのしかかる。

なんだかデジャヴ。


案の定、それはフランで。


肩に乗った頭。
背中あったかいけど、重い。



「おーい、フラン?」


「………おんぶ。」


「はあ?」


「…疲れました。

おんぶ。」



なんだそりゃ。

なんて思う暇も言う暇もなく、フランはわたしの首に腕を巻きつけてきた。

腕細っ。そして白っ。


完璧体重をかけてきている。

こいつ、遠慮ってもんを知らないな。


まあ、担げないこともないから、してやらんこともないけどさ。

最後は頑張ってもらったし。

…助けてもらったし。




「今日だけだよ。」




そう言うと、がっつり飛びついてくるフラン。

しがみつかれる、に近い態勢。
これは果たしておんぶと呼べるのか。


スクアーロさんくらいになったらさすがに出来ないだろうけど、こいつならまあ、予想通り大丈夫だったわ。

喜んでいいのかなんなのか。

いやダメだよな。



「珠紀さんイケメン。」とか言ってるけど、フランよ…

君は多分なんか間違えてる。




「普通、逆じゃね?」




しばらくの沈黙の後、わたしの耳元に響いたのは、「多分、気のせいです」の一言だった。


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