051「暇すぎるとこうなる」
「ひーまひまひまーひーまひまー
ひまひまひまひまーひ・まー
まひまひまひまひーま・ひー
麻痺しちゃう↑からーあー
ひまなのーー」
オリジナル協奏曲「レジェンド・オブ・暇」を歌っている時のことだった。
ていうか、あれ?
言ってみたはイイけど、協奏曲ってなんですか。
珠紀さんは音楽知識がほとんど無いんですよ。
ヒント1:
「ドってどれ?」
ヒント2:
×「ほとんど」→○「まったく」
まあ、それはさておき。
――ガサササッ!
部屋の隅から、何だか変な音が聞こえてくるんですが。
ていうかぶっちゃけ、何かいるっぽいんですが。
…え、ナニ。
もしかしてゴキ…いや、なんでもない。
その名を口にしたものは3代あとまで呪われるというからな。
でもあれだよ?
実際わたし、家で黒いあいつを見たことないし。
沢田家で若干見たり、ネットで見かけたりしたくらいで。
しかも、こっちに来てからも一度も見たことないし。
だからそんな、実際、身近で遭遇なんてことはあるわけがなくってね。
いや、別に?
遭遇したところで?
なんて事はないけども?
あれだから。
わたしは一応あれだから、暗殺部隊の幹部だからね。
そんなゴ[ピーー]くらいでいちいち驚いていたら、生き残れるわけがないからね。
初期の任務で散弾銃ぶちまけられたけど、無事に全うしたじゃない!珠紀!
だから大丈夫!
この先大体何があっても我慢できるし、驚くなんてそんなことは…
――ガササッ… ビュッ!!
「うわああああああっ!?」
なんか飛んだ、なんかめっちゃ、あっちに向かって飛んだ!!!
早すぎて見えなかった!
暗殺部隊なのに!
暗殺部隊だから動体視力いいはずなのに、全然見えなかった!
どうなってんだよ!
もうやだ、驚かないっての嘘でいいよ…
驚いたから誰か助けて。
なんか、見えないものの方がかえって相手にしやすいよ…
だって無視できるもん。
ほとんど害無いもん。
でも、そこに実態のあるものは、次元と話がまるで違うから。
実害ありまくりだから。
くっそう…
どうしよう…
…誰かに助けを求める?
携帯…あった!そこだ!
目と鼻のすぐ先にケータイを発見!
さっきの物体Aは動かないようだ…ヨシっ今だ!!
勇気を出して、わたしは今いるベッドの上から飛び降りて、部屋の中央のソファに駆け寄った。
正直、行かなきゃよかった。
――ガサササッ!!!
わたしが動いた瞬間、まさにその時のことだった。
「っ!!?」
物体Aが、わたしに向かって勢いよくダイブしてきた。
ああ、終わったな。
このままわたしは[ピー]ブリに、死ぬまで生かして体中を食い荒らされるんだ…
そんな覚悟、したくなかったよ。
それに、最後に声に出した言葉が「レジェンド・オブ・暇」だなんて嫌だ…
そんな後悔にまみれながら、わたしは意識を手放した。
――――――――――
「…きて、…い……」
あれ…?
誰かがわたしを呼んでる…
なんだ、頭がめっちゃくちゃ痛いぞ…超痛い…
「お…てくだ…い……」
え?なに?
聞こえない……
そういえばわたしは、何でこんなに頭が痛いんだっけ…
ああ、そうだ。
たしか、巨大ゴ[ピー]リに襲われて……
ってことは、なに…?
わたし、もしかして死……
「起きてください、主っ!!」
重いまぶたを無理に開けると、わたしの眼前には、一匹のハリネズミがいた。
ちなみに言うと、わたしはこいつに見覚えがある。
たしか、名前は…
「…にゅるぞう?」
「覚えててくれたんですねっ!
感激です!
主ってば、僕らの姿を見るなり驚いて倒れちゃったんですよ!」
「…そうか。」
ぴょんと私の胸の上から飛び降りて、にゅるぞうことハリネズミは、側にいたアルマジロとハムスターのもとへ駆け寄った。
たしかこっちは、にゅうたろうと、にゅるぞうだったっけ。
相変わらず意味わかんねー名前してんな、こいつら。
「主ってば、いつも僕らのこと置いて任務に行くんですから〜
もうちょっと活用してくださいよ!」
「そうッス!
じゃないと食わしてもらってるのに、なんだか情けないじゃないッスか〜」
「お前は働くすべがないだろ、にゅるぞう。」
「あっ、いっけね!つい…」
そして相変わらずうぜえ。
っていうか、なに?
今更再登場ですか?
なんでまた出てきたかなあ…
数ヶ月見てないから、もういなくなったもんか、もしくは夢だとばかり思っていたのに。
そろそろ忘れさせてくれても良かったんじゃないかと思う。
ちょっとイラつき気味に起き上がってソファに座りなおすと、図々しくも隣にぴょんと乗ってくる小動物共。
些細なことでいらつくわたしは、カルシウムが足りてないのだろうか。
「…で、今日は何か用でもあんの?
冷蔵庫に入れてる野菜勝手に食ってるから、もう構わなくても良いもんだと思ってたんだけど。」
「やだなあ、出ていけなかったのは主のせいでもあるんですよ〜」
「はあ?」
「だって、スクアーロさんが来てたり何だりとか、出て行っちゃいけないでしょ?
主の恥ずかしいところに出て行くのも嫌だし…
だから、暇と言っていたので、今だと思って!」
今だと思って!じゃねえ!
つーか質問に答えろよ…
「ところで、用っていうのはさっきも言ったとおり、もっと活用して欲しいってことなんですが…どうでしょう?」
どうでしょうと言われても…
まてよ。
一度おさらいしておこう。
ちょっと前に起きたこと忘れかけてる自分がいるから。
1.まず、冷蔵庫にこいつらがいた。
2.そしたら、この部屋に住んだ者はこいつらの主にならなければいけない、と言われた。
3.無視してたら、なんか契約された。
(憎しみの契約?とかいってた。よくわからん。)
4.なんか発動しろと言われた。
5.んでしばらく無視した。
6.今ここ。
…間違いないよね。
未だに契約がどういうもんかわかってないけど、いいんだよね、これで。
でもねえ…
発動とやらのしかたは聞いたけども、武器と防具でしょ?
わたし防具とかいらないし…ていうか正直邪魔。
だってもう武器あるもん。
使い慣れた玉錘という武器が。
「…正直、いいわ。」
「(;゚Д゚)!」
「いや、そういう顔されても嫌だよ。
だって、わたしの武器知ってっか?
玉錘だよ?
なんていうか、武器とか防具とか関係ないんだよ。別に。」
剣士じゃあるまいし、剣と盾があっても困るだけなんだよ。
そう言うと、にゅるじろうとにゅるぞうは「……」となって黙っていた。
驚いている、というよりかは、ショックを受けているようだった。
ちょっと悪い気もした。
すると、今度はアルマジロのにゅうたろうが口を開く。
「…じゃあお前は、玉錘ならなんでもいいんだな?」
「え、なに、人をビッチみたいに言って。
別になんでも良くもないよ。
メンテ出して長いこと持ってたやつなんだし、ほらこれ。」
「ふん。
やっぱいくら主でも、バカはバカだな。」
な、なんですとう?
このアルマジロ、容赦ねえ。
そしてにゅうたろうは、アルマジロの分際でフッと笑って、こう言った。
「じゃあ、その玉錘をイメージすりゃいいんだよ。」
そうすれば、絶対に壊れないお前の相棒が出来上がるだろ。
とどめにそういった時、ハムスターことにゅるぞうが「アニキイイ!」と叫んだ。
うぜえ。
にゅるじろうも「ああ、そうか」なんて納得している。
「待て。…え?なに。
武器と盾みたいなんじゃなくてもいいの?」
「ああ。
ただ、武器向けの錘は利き手側に持ったほうがいいけどな。
そこは都合のいいように。」
な、なんと…
じゃあ、あれか。
もう一々メンテに出す必要はなくなると?
「どうだい?」
アルマジロが言う。
「………乗った。
古いけど大事なものなんだよね。
だから、使うならあの玉錘がいいと思ってた。
古傷まで完璧に手に馴染んでるから、完コピはお手の物だし。
壊れないなら、任務中困ることもないだろうし。
好都合だわ。」
わたしの言葉ににやりとして「わかった」と頷くアルマジロ。
いやお前アルマジロだよな?
「じゃあ、主。
よろしくお願いしますね。」
「うん。
役に立てよ。」
そんなやり取りをして、とりあえず交渉確定。
そうかあ…
今度からの任務では、セロテ常備しなくってもいいんだなあ…
なんてしみじみするのも、らしくないか!
ヨシっ!
ここはいっちょ喜んで…
「あっ!」
おおう!
なんだどうしたハムスター…
いきなりしゃべりだしたにゅるぞうに若干ビビりつつも、視線をやった。
するとにゅるぞう、驚きの一言を発した。
「任務の時、僕を置いていったりしないでくださいね!
あの…さみしいので…」
「にゅるぞう!バカ言うな!
主は優しいんだ、置いていったりするわけないだろ!」
「そうだよ、にゅるぞう。
僕たちもう仲間なんだから。
役立たずでもいいから一緒にいようよ。」
「あっ、アニキたち…
ご迷惑おかけします!!!」
「「いいってことよ。」」
ああ……
なんか、やっぱセロテ持ってた方がマシかもしれない……
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