048「嘲笑」





どうもー。ミーですー。


最近気になることは、「初期のナレーションは三人称視点メインだったのに、なんで今は一人称視点ばかりなんだろう?」ということですー。

まあ、それは置いといて。


ひとつ、気になったことがあるんですがー。

言ってもいいですかね?




「フラン!おはよう、開けて!」




なんで、部屋の前にこいつがいるんでしょうかー。


っていうかミーの部屋知ってたんですか。


馬鹿なんで知らないと思ってましたー。
馬鹿なんで。

あ、大事なことなので二回言っておきましたー。




「ちょっ、居留守?居留守?

そりゃねーよー!
チューした仲でしょー!?」




あいつ、なんで自分も相手も損するようなことしか口にしないんだろう。

馬鹿だから?
脳味噌とろけてるから?


仕方なく開けてやると、朝一でほほ笑みかけてくる珠紀。

若干ウザ…あ、なんでもないですー。



何の用か、と聞くと、「昨日のことだよ。」と短く答えられる。


…昨日のことって言われても、正直どれ?って感じなんですがー。




「フラン昨日、わたしの部屋に来たんでしょ?

でも帰っちゃったって…
用あったなら聞けなかったし、悪いなって思って。


スクアーロさんから聞いたんだよ。

わたしはあれ、酔いが覚めてなかったからか、なんか全然覚えてないんだけどね。」




確かに行きましたー。

きちんと用もあったし。


でも、今はあんまり、その名前は聞きたくなかったですね。




「なんで?」




思わず拳を握り締めたけど、これくらいは許されますよねー?


だって、こいつ、鈍いんですもん。

さすがのミーでもイラついても来るってもんです。




「じゃあ、逆に。」




滅多に緊張なんてしないはずなんだけど、今日は体調が悪いのかもしれない。

なんだか動悸が激しい。

今まで有るのか無いのかもよく分からなかった少量の勇気を出して、こう訊ねた。



時間を少し戻して、何でミーはあなたにキスをしたと思いますか?



すると、珠紀はミーの勇気なんてそんなもの気にもせず、けろっとして言った。




「え?酔ってたからでしょ?」




これがドリフのコントなら、ミーはナイスなタイミングでこける自身がありますー。


正直、呆れた。
ここまで言っても気付かれないなんて、どうかしている。

今までテキトーに引っ掛けた女達は、ちょっとした言葉遊びをしてやるだけで、見事に網にかかってくれたのに。


“今までとは違う。”


それは、珠紀の人としてのタイプと言う意味でもあるが、同時に、ミーの気持ちの持ちようという意味でもある。

気持ちの種類が違う。
重さが違う。


だからこそ、今、どうして伝えていいのかわからない。



こんな葛藤を知ってか知らずか、珠紀は呑気に「で、用あったって何?」なんて言っている。


悪気がないあたりが憎たらしい。

わざとやっているなら、拳の一つでも飛ばせるのに、この女ときたら。




正直、珠紀があんな姿だったとは言え、あのカスザメ先輩が珠紀犯したなんて思ってませんけど。

あの人にそんな度胸はないですからー…


それでも、昨日の光景を見たときは少し、いや、結構ショックでした。


珠紀の部屋に男がいる。

珠紀に男が触れている。

ミーの知らないところで、ミーの知らない珠紀を、またこの人は知ったんだ。


そう思うと、なんだか悔しかったんですよね。



キスをした理由と一緒に、この気持ちを伝えてしまおう。

少し残っていたアルコールのせいもあってか、そういった考えに至ったワケですが。


この気持ちは、伝えても良いものなんだろうか。


7つも年上の珠紀。

子供扱いされることもあるけど、逆にお前が子供だろって思うこともあったりなんかして。


無茶で有り得ないことばかりするけど、それもまた可愛くて。

自分でも末期だと思う。




「?

…フラン?だいじょぶ?」




何に対して大丈夫かと聞いているのかわからない。

けど、心配されたことは素直に嬉しい。
まあ言いはしませんけどー…


ああ、どうしよう。

言ってしまおうか。




「珠紀。」


「ん?」




困らせることになるだろう。

そんなことは目に見えている。


きっと叶うことは無いだろう。

そんなこと、分かりきっている。


でも、それでも、





「好きですー。」





この気持ちを、この先伝えられることはないと思うんです。


珠紀が、他の誰かのものになった時。

ミーは、気持ちも伝えられないまま、後悔ばかりをして、きっと静かに泣くんでしょう。


自己中なのはデフォルトですから、今更気になんてしません。



器のようなものがあると思ってください。

その器は、珠紀が一つ微笑むたびに、一つ話すたびに、満たされていくんです。


コップに水を入れます。

溢れそうになったら、どうしますか。

一般的な人ならば、捨てるか、飲み込むでしょう。


それに例えるならばミーは、器が満たされるとき、飲み込むことが出来なかったんです。



珠紀は別に驚いた様子もなく、瞬きもせずじっとミーを見つめている。


と一瞬思いましたが、こいつのことです。

どうせ、驚いて固まっているんでしょう。


普通ならもう気付いていて、「やっぱりか」となって、驚くはずはないんですがねー…


鈍いくらいが女は可愛いですが、ここまで来ると鈍感さというのは邪魔でしかないですー。




「すいません、いきなりで。」


「…いや…大丈夫…大丈夫?」


「いや、ミーは大丈夫ですが、あんたの方が大丈夫ですかー。」




そう尋ねると、小さく首を振って「大丈夫」と呟いた珠紀。

正直大丈夫そうには見えない。


ああ、やっぱり困らせたか。


なんやかんや、ミーもまだまだ若いですからー。

お子様なんでしょうかね。




「…ごめん。」


「わかってましたから、謝らないでください。」


「でも、」


「忘れてください、今の。

珠紀が辛気臭いとか、それはもうギャグですよー?」




いつもなら、こんなことを言えば威勢良く言い返してくる。

歳考えろってくらい。


でも、今はそんな元気が伺えない。

珠紀はただ「うん」とだけ言った。


ここでひとつ、気がつきましたー。

いや、実を言えば、あんまり気が付きたくなかったんですけど。




「…泣かないでください、珠紀。

ミー、悪者ですよー。」




実際、悪者のようなものなのだが。

冗談でも吐いていないと、こっちまで泣きそうだ。


珠紀は、静かに、出来るだけ堪えるように、涙を流している。


ホント涙腺緩いなーなんて思いながら、頬に伝う涙を拭った。




「だ、って…

ごめん、フラン。


好きな人いるってことじゃないんだけど、でも…

わたし、フランは友達って思ってて…ぐすっ


嫌いとか、そういうんじゃなくて…」




それも、全部わかってますから。


今までの半年間、伊達にあなたを見てきた訳じゃないんですよ。

最初は馬鹿だなって思った程度でしたけど。


ちょっとしたことでも、ミーは満たされてました。


それは普遍の事実ですー。



でも、それ以上に、毎日傷ついてましたけどね。


この笑顔は、ミーだけのものにはならないんだって。

この人の目に、ミーは映ってないんだって。



珠紀の“一番”に、ミーはなれないんだって。



そう思っては、自分を殺したくなりました。


それでもそうしなかったのは、毎日珠紀の笑顔が見たかったから。

どうしようもないくらい、大好きだったから。



だから、お願い。


最後にひとつだけ、





「珠紀。



一度だけ、抱きしめてみても良いですかー。」





そう、最後に、一度だけ。一つだけ。


後悔するとわかっている。

泣きを見るのは、自分だと。


それでも、最後に…



珠紀は、小さく頷いた。


その瞬間ミーは、少し震える手を握って、珠紀をそっと腕で抱いた。


本当は、壊れるくらいに抱きしめたい。

このまま自分のものにしてしまいたい。


でも、駄目なんだ。



一体どれだけの時間、珠紀を抱きしめていたのだろう。


それは時間にすると一瞬に程近いくらいのものだったのだろうが、それでも、ミーにとっては随分と長い時間のように感じられた。


こうすることが幸せに繋がるわけではない。

けれど、せざるを得なかった。
これでいい。これでいい。


言い聞かせるようにして珠紀から離れると、珠紀は俯いていた顔をあげて、一言「ありがとう」と言った。


どういった意味の“ありがとう”なのか。

それは聞かずともわかるもの。


ミーはその言葉にひとつ頷いて、「こちらこそ」と答えた。



その時の珠紀の笑顔は、確かにミーに向けられたものだった。




「今日は帰るね。」




涙声のままそう言った名前を、ミーは自然に、そう、自然に部屋へ返した。



ドアがしまった瞬間。


静まり返った部屋が、なんだか自分を馬鹿にしているようで。



さっきまでの時間が夢のようにも感じられて。


そんなミーを嘲るように、時計の秒針が鳴いている。



ほらね。

やっぱり泣きを見るのは、自分だったんだ。




まだ温もりの残るソファの上で、膝を抱えて静かに泣いた。



そんな、秋の終わり。







―――――

自分で書いてて自分で切ない、秋の終わり。
というか冬。


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