004「紹介」
赤絨毯の長い廊下を歩き、馬鹿でかい階段を上った先にある広い部屋。
ここはいつも幹部達が食事、会議をするのに使われている。
ドアを開けると、珍しく幹部は自分以外揃っていて。
責められるのではないかと思ったが、とくに何もなくいつも通りにうるさいので、気にしないことにした。
タイル張りの磨かれた床をツカツカと踏み鳴らしながら、スクアーロは自分の席へついた。
「おせえぞカス」
やはりXANXUSは言ってきた。
半ば無視に近いが一応「すまねえなぁ」と相槌を打ってやる。
でないとあとがうるさいからだ。
「ラムの香草焼きは既に我々の胃の中だ」
「お前はラムの香草焼き大好きだなぁ」
レヴィが口を挟んできたので適当に流してやり、食事を開始する。
XANXUSは肉にかじりついていて、珠紀が来ることなんて気にもしていないみたいだった。
「ところでボス、今日は誰も任務を入れなくていいって、どういうことなの〜?
おかげで私はショッピングを出来たからいいんだけど…」
「いずれわかる」
「んもう」
と、ちょうどXANXUSが言った時だった。
コ、ココンッコッ
変なノックが響いたのは。
緊張してるにも程があるだろ。
幹部の視線が扉に一斉集中し、XANXUSが「入れ」と言うと、ドアノブがガチャリと音をたて、半分ほど扉が開いた。
その隙間からそっとのぞいている…いや、珠紀。
珠紀だろお前。
普通に入れよ、と思っていると、XANXUSのツボにはまったみたいで、「ぶはっ!チョッパーか?」と笑っている。
ああ…
またXANXUSのキャラが崩れていく。
ここ10年で素晴らしい変化…いや進化を遂げた気がする。
はじめは奇妙でたまらなかったのに、最近ではみんな慣れてしまい、普通にしていられるのだ。
受け入れちゃってる現実がある意味で恐ろしい。
「チョッパー知ってるんですか、ボス!」
なんだかテンションが若干上がって言ってきた珠紀。
体は依然、扉の影だが。
「いい加減入れ」と言うと「あ、はい、すみません」と言いつつ、礼儀正しくも礼をしながら入ってきた。
失礼します、って職員室かよ。
XANXUSに「そこに座れ」と言われ、空いていた席に座らされる。
「ボ、ボス…この娘は」
「紹介する。
こいつは、暗殺部隊ヴァリアーの新幹部、珠紀。属性は雲。」
「!」
XANXUSが短くそう言うと、ルッスーリアにレヴィ、ベルは驚いていた。
フランは突然拉致られたようなものなので、とくに驚いている様子は無い。
「新幹部…!」
「って、マジかよボス?」
「はっ こんなくだらねえ嘘をつくか」
なんだか驚かれてどうしたらいいかわからないらしく、眉がさがりあたふたしている様子の珠紀。
「うるせえ」とXANXUSが一言言うと静かになるのだが。
「でも、ボス…」
「問題があるのか」
何か言いたげなルッスーリアだが、一喝を入れられ、黙ってしまう。
それもそうか。
あの鋭く赤い瞳に睨まれてしまっては、仕方ない。
そこで、ベルが少しためらいがちに言った。
「…つえーの?こいつ」
ベルに移った視線だが、さすが切り裂き王子といったところか。
睨まれたくらいでは、怯みはするものの、目をそらすことはしない。
その質問に、XANXUSは容赦なく答えた。
「弱え」
珠紀の肩が一瞬震える。
少し俯いてしまった。
きっと今は、「帰りたい」と思って、ここに来たことを後悔しているだろう。
「じゃあなんで今更雲の幹部なんて」
「ただし、」
XANXUSは続けた。
「兄よりは、だがな」
「!」
にやりと、口元が歪んだ。
いいや、その前にちょっと待て。
「兄」って一体―――…
「兄ってなんですかー、ボス」
「こいつは、ボンゴレファミリー10代目雲の守護者…
雲雀恭弥の妹だ。」
その場の空気が固まった。
雲雀恭弥の妹が、このヴァリアーの幹部になる、という事実を一瞬で飲み込めという方が難しいだろう。
「う゛おぉいXANXUS、雲雀恭弥の妹ってどういうことだぁ?
聞いてねえぞぉ、んなこと!」
「言ってねえからだ」
「っテメェ…」
「文句、あるのか?」
この一言で、みんな口を閉ざす。
「はっ…まあ、そういうことだ。
《兄より》弱え。それだけだ。」
あとはカスから仕事を聞け。と言って、XANXUSは笑った。
そうして何とも言えない空気のまま食事は終了し、幹部は各々の部屋へ戻っていった。
部屋に残ったのは、XANXUSと、俺と珠紀の三人。
「…う゛おぉい、お前」
「はいっ!?」
沈黙した空気の中話しかけると、驚かれる。
「雲雀恭弥の妹っていうのは、」
「はい」
「なんでわざわざヴァリアーに来たんだぁ」
「…ボスに飛ばされて。
ていうか、そんなに問題ですか?雲雀恭弥の妹の肩書って」
さらっと言うが、俺は幹部達が驚いていた理由は知っていた。
なぜならあいつ…
雲雀恭弥は、
「…よく許しが降りたなあ」
「え?」
「いや、なんでもねえ。
部屋に戻れ。」
シスコンだからだ。
それも、全く救いようがない、超ド級の。
なにより、妹がそれを気にしていないということと、まわりにも危害が及ぶレベルときているから。
「?」
「早く戻れぇ」
「はい…」
しぶってはいたが、部屋に戻って行った珠紀。
パタリと閉まった扉から視線をそらし、XANXUSのほうを見た。
XANXUSは笑った。
俺は、その笑顔の意味がわからないでいた。
とにかく、これからの日々が心配で。
、
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