003「兼、案内係」







前回までのあらすじ。


こんな手は、さすがにもう使いません。

使えません。

管理人がモノホンの小説家や脚本家なら、とっくに首が飛んでいることでしょう。


そんなこと(例:キレた読者に全力で首を撥ねられる など)にはなりたくないので…

以下より本編に入ります。








広い広い、赤絨毯の廊下。


歩いて歩いてやっとこさ、これから珠紀が生活する部屋にたどり着いた。



本来であれば、新人にこんな案内などをしてやるのは、幹部なんて大層な身分ではない。


下っぱ隊員やメイド等。

そいつらの役割のはずだ。


だが、今回ばかりは、そうもいかないパターンらしい。



なぜかと言えばこの新人、驚くことに入隊1日目から幹部就任らしいのだ。



理由こそ、まだ知らないが。


ただ、これが異例であることは確かなことだった。





「着いたぜぇ」


「ありがとうございます!
鍵は、自分で開けてみてもいいですか?」




こいつ、好奇心も旺盛なのか。


珠紀に、先程メイド長に預かった、少し錆の付いたアンティークな鍵を渡す。


「アンティークですね。雑貨屋なんかで見たことあります。」
なんて喋りながら、がちゃがちゃと鍵穴を探る。

どうやら、鍵を開けるのは下手みたいだ。




「お、おじゃましまー…す」




お前の部屋だけどな。


部屋に入るなり、「おお」と驚いているみたいだ。

心なしか、先程よりも目がキラキラしている。


ヴァリアーの幹部クラスの部屋ともなれば、ジャッポーネにいちゃまず見られねえような造りだしなぁ。

明治初期の洋館、なんて感じではない。


驚くのも仕方ない。




「本当に、こんな部屋に住んでいいんですか?」


「幹部は皆この手の部屋が割り当てられてるからなぁ」


「感激です…元祖日本家屋住まいだった私には夢のような生活ですよ」


「…ただ、掃除はされてねえから後々自分でやれよぉ」


「はいっ!」




元気よく返事をした珠紀に、ついていけないような若さを感じた。


あとは生臭さは現役ということで、まずは備え付けのシャワールームを使え、と言っておいた。


いつまでも隊服ではかわいそうだと、メイド長は女物の服を一着と、タオルをくれた。

俺には女心というものはよくわからないので、内心助かった。




とりあえず、任務帰りで一睡もしていないことを思い出した俺は、若干生臭さの残る自室へ戻ることにした。



足が重たい。








――――――――――








どれくらい時間が経っただろう。


中途半端な時間で眠れるはずもなく、固めのベッドの上でぼうっと過ごしていた。

すると気がついたころには、窓からの明かりが消えていて、夜になっていた。


ふと時計に目をやると、針は6を指している。


そんなに時間が経っていたのか。

あれからは、4時間以上は経っているだろう。




「…ちっ。
行かなきゃいけねえなぁ…」




夕食は6時30分からだ。


任務などで欠けているメンバー以外は、夕食は揃って、というのがこのヴァリアーだった。


暗殺部隊のくせに。

なんでそんなところだけ、ほんわかしたルールなんだ。



入隊試験のときの鬼畜さが嘘のように思えてくる。




ちなみに部屋に戻ってきて早々ボスから連絡が入り、これからの流れは聞いた。


6時くらいまでは珠紀は休ませてやり、夕食のころ、スクアーロ自身が部屋へ呼びに行き、連れてこいと。


そこで、他の幹部達へ紹介をするのだろう。




とりあえず、いつもより重たく感じる体を起こし、部屋を出た。













コンコンッ


広い部屋の中に、ノックの音が響く。

カーペットひとつ敷かれていない冷たい床が、音を吸い込むことなく跳ね返すからだ。



「はぁい」



走ってドアを開けにくるのが、部屋の外からもわかった。


がちゃりと開いた扉の向こうには、珠紀。




「あ、スクアーロ
……さん!」


「あぁ」




笑顔で言ってくる珠紀だが、なんとなく常識がない印象を受ける。


誰だかわからないんだから、せめて「どなた?」くらいは言ってほしいものだ。



あと、鍵を閉める、だとか。


まだ珠紀の存在を知っているのがXANXUSとスクアーロだけなので問題はない。



が、ただでさえ男所帯なのだ、この暗殺部隊は。



いやいやオカマもいるぜ、なんて、それはただのアブノーマルな奴だ。

カウントなんてしてやらない。


だから、なにを言いたいかって言うと……




「お前、もう少し……」




ここで気がついた。




「もう少し?」





その言葉は飲み込んだ。





「……声小さくしろぉ。いちいち耳が痛え。」





《女としての自覚を持て》

なんて。



だって、そんなことを言ってしまったら、





「なっ、スクアーロさんに言われたくないですよう!」






まるで、俺がこいつを女として意識しているみたいだ。






「そういえばそういえば、用件はなんですか?
用が無ければ来ないタチでしょう、スクアーロさんは」




大事なことを忘れてた。


これを言うために来たっていうのに、5分は無駄な話をしていただろう。




「…6時30分から幹部揃っての夕食がある。

その席で、ボスからお前の紹介をするそうだ。

隊服を着て、4階の東棟大広間に来い。
地図は渡すからなぁ。」


「…すいません方向音痴を殺す気ですか?」




どうやら記憶力も悪いらしい。


仕方ないので、地図に赤丸を付けて必要事項をメモして渡してやった。



やっぱりもとから生まれ持った要領ってのは存在するみたいだ。


こいつの場合、人生若干ハードモードに設定されていた、というだけの話で。




「じゃあ、絶対遅れずに広間に来いよぉ。」


「多分大丈夫です。」


「多分かあ?」


「絶対です!」




とりあえず、俺にも支度というものがあるので、その場をあとにした。



珠紀は「早く支度しなきゃ15分しかないよ!」とかデカイ独り言を言いながら、部屋へドタバタ戻って行った。



口を閉じられない奴みたいだ。




第二印象としては、こいつは、黙ったら死ぬ女としてインプットされた夕方だった。








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