036「No appointment」
フランのちゅーから一週間。
まだまだ残暑が続いています。
別段わたしは嫌でなかったし、それくらいの事故なら仕方ないと思うから、どうでも良いんだけど。
なんだか、わたしよりもベルがキレてるこの頃です。
それをルッスねえと話してたら、応スクアーロさんには話さないと言うことになった。
まあ話す理由もないしね。
それよりも、問題は「フランちゃんが動き出したわ〜ん」とかクネクネしてるルッスの方だ。
きもちわる…げふんげふん。
なんでもないよ。
ところで、今日から我らがヴァリアーのボス・XANXUS様と、その奥方兼わたしの友人・満天(旧姓沢田)がハネムーンだそうですよ。
いきなり決まったことなので、よく知りませんけど。
とりあえず土産はせびっておいた。
これでこそわたし。
マジヴァリアークオリティ。
(↑多分ちがう。)
ってことで、ボスと満天は今日から5日間ほど留守だそうだ。
やったね。
お土産貰えて、理不尽な命令されないんだってさ。
ハッピーウィークだよ。
ああ、それと。
なにやらボスの我儘で、ヴァリアーのジェット機ではなく、一般の飛行機での旅行らしい。
そのせいで移動が必要になったので、あの二人はスクアーロさんが送ってくるそうだ。
「めんどくせぇ」だの「俺を巻き込むな」だの言ってたけど、何やかんや、頼りにされて嬉しそうにも見えた。
ゆえに、今は三人が留守なわけですが。
今の状況は、一体どういうことなのか、話しても良いでしょうか?
「ね、珠紀。」
「ああ、うん。」
「聞いてる?」
「聞いてる。」
「それでね、六道はなんて言ったと思う?本当に馬鹿なんだ。」
「そーですね。」
「…………。」
「……ベルちゃん、何かしら、あれ。あの異様な光景。」
「知らねー。」
その殆どが、わたしと同じ。
真っ直ぐで真っ黒な髪、ボリュームのある真っ黒な睫毛、大きめの真っ黒な目。
それらと相対化されたような白い肌。
違うところは性別と、身長と、目の吊り具合くらい。
それ以外は、雰囲気といい、言動といい、そっくり。
と、ここまで言えば、誰か分かるだろう。
「ところでさ、」
「ん?」
「にぃは何しに来たの?」
そうだ。
わたしの兄、雲雀恭弥だ。
男女の双子なので当然(よっぽどの異例でない限り)二卵性ではあるのだが。
なぜか、わたし達は似ている。
顔のパーツが瓜二つ〜だとか、そういう感じじゃなくて。
雰囲気だとか、言動だとか。
そりゃまあ、見た目の基本的なあたりは似ているけど。
瓜二つというレベルではない。
とまあ不思議なことに、そんな恭弥がなぜか、今、ヴァリアーの応接間にいるのだ。
不思議だ。
というかおかしい。
わたし、そんな予告を一切受けていないんですが?
「連絡しなかったからね。ごめん。
珠紀を驚かせたくてさ。」
「…え、それだけじゃないでしょ。」
「当たり前だよ。」
イマイチ会話が進まない。
これはきっと雲雀家の遺伝だ。
わたしとにぃ…じゃねーや恭弥が話していると、どうも他人と話す時の二倍は会話のテンポが遅い。
周りは結構苛ついているらしい。
けど仕方ないんだよ。
こればかりは。
あと、質問に答えないあたりね。
「え?ああ、そういう質問?」
ってなるあたりね。
自分が質問に答えていないことに気付かないからね。
「うん、で?
何しに来たの、って。」
「あ、うん。そうなんだよ。
聞いて驚かないでね。」
いやもうアンタには既に驚かされてますから。
これ以下はあっても、これ以上はないだろうと思う。
ちなみに恭弥、ここに来るときアポをとってないから門番に怪しまれたらしい。
そこからはまあ、わかると思うけど部下をボッコボコに…。
ね、これ以上は無いでしょ?
あまりの話の進まなさに、若干苛ついている様子のベル。
ルッスは心配そうに、フランはあまり興味が無さそうに窓の外を見ている。
(当然、レヴィはヴァリアー内の新条例により自室。)
「僕ね、実は今日、珠紀を連れ戻しに来たんだよ。」
「……はい?」
珠紀を連れ戻しにきた。
確かに恭弥はそう言った。
わたしが咄嗟に「はい?」とか言ったせいで、言い直そうとする。
馬鹿。もう、馬鹿。
「ちょっと待てよ、いきなり何言ってんの?お前。」
ベルが口を挟む。
しかも、ちょっと喧嘩腰だ。
「何って…何回言わせる気なの。」
「そう言うことじゃねーよ馬鹿。
珠紀はここに、雲の守護者になるために来たんだろ。
なら、何で今更それを連れ戻しになんか来たんだって言ってんの。」
「…君、なんか勘違いしてない?」
「はあ?」
ルッスの制止も虚しく、ベルはにぃに喧嘩腰の物言いをする。
いや、現にベルの言うことは間違ってない。
キレたくなる気持ちも分かる。
(わざわざベルがキレる理由は分からないけど。)
でも、恭弥の言う通りでもある。
今の話には、一つだけ、違う箇所がある。
「もう一度言うよ。
君は、大きな勘違いをしてる。」
―――――
遂に。
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