001「ユー鬱」
プリンを見て「プリン」と言うのは当たり前だ。
見たままを言っているのだから。
だがしかし、美しいものを見て「美しい」と言うのは難しいことだ。
個人により基準が違うからだ。
感覚による問題をあげるなら、
「わあ、かわいい猫!」
「そう?うちの猫の方がかわいいけど」
というようなもの。
A君の目には美しく映っていても、もしかしたら、潔癖症のBさんの目には、汚らしく映っているかもしれない。
そういうことだ。
基準なんて人それぞれなのだ。
が。
こればかりは、
「気持ち悪ぃ……」
A君もBさんも、どんな猫好きさんも、口を揃えてこう言う事だろう。
気持ち悪い、と。
一体、どこの世界の誰が、口にでかいフグを突っ込み、裸の状態で、海鮮物を身に纏いながら、大量の大根を抱えて、数枚並べたまな板を下敷きに昼寝しながら、魚の尾ビレのように足をばたつかせている女を、「気持ち悪くない」と言ってくれるのだろうか?
寝相が悪いとか、そういう次元の話ではない気がする。
書き込む管理人さえ、想像して気持ち悪くなったほどだ。
お昼ご飯に食べた、ビクトリアのハンバーグが、ミネストローネと混ざり合って逆流してきそう。
とにかくだ。
こんなもん見せられていい気分でいられる訳がないというか。
今すぐにでも叫んで助けを呼びたいというか。
即行走り出して、この状況を誰かに伝えなければいけない衝動に襲われるというか。
なんていうか、本能がこう告げているのだ。
「コイツ…やべえ」
グロテスク海鮮少女を(安らぎのマイルームにて)目撃した青年、スペルビ・スクアーロ。
(仲間に助けを求めるべく)気がついたころには、彼はその長い足で赤絨毯の廊下を思い切り蹴りあげていた。
彼が去った後も、グロテスク海鮮少女は……
ピチピチしていた。
――――――――――
「う゛おぉぉい!!」
バタアン!と大きな音を立てて開いた、西欧調のデザインの扉。
中にいたのは、クネッとした動きをしている…
緑や赤に髪を染めた、見るからにアヤシイ、オカマだった。
オカマの名前はルッスーリア。
その目はサングラスに隠されているが、きっと、さぞかしつぶらなのだろう。
い○とも!のタモ○しかり。
EXI●Eのア●シしかり。
サングラスキャラなんて、だいたいそう決まっているのである。
パターンだ。
「あぁらなーに?スクちゃんてば、あなたってばホンット静かな日が無いのね!」
クネックネッとしながら、スクアーロに向かって「プンプン」をする。
正直トリハダものだ。
「んなこたあどうでもいいんだよ!!
ルッス!てめえ、俺の部屋に何か異物置いてかなかったかぁ!?」
「んまっ!
な〜に私を疑ってるのよ!私なーんにもしてないわ〜!
なぁに?異物って!!」
明らかなオネエ口調で、ふざけて(本人は大まじめなねだが)返してくるルッスーリア。
なんだかイラッとする。
というかイラッとした。
が。
自室にあった『アレ』か『何』かと聞かれたら、言葉に詰まる。
(『アレ』は『何』だ…!?)
「なぁにもったいぶってるのよ〜!
いいわ、かわいいスクちゃんが困ってるものね!ワタシが見に行けばいいのよ〜!!」
「……そうしてくれぇ」
1分ほど、『アレ』が『何』かについて考えたが、結局答えは出てこなかった。
スクアーロにとって、『アレ』は、『異物』としか説明がつかない。
ああ。
『不法侵入者』とも言えたか。
どちらかと言えば『侵入物』のほうが適している気もするが…
「…覚悟は良いかぁ?」
「スクちゃん、それ今ので16回目よ?」
ずいぶんもったいぶるわね〜とクネクネするルッスーリア。
正直トリハダもn(略)
「…吐くなよぉ」
かちゃり、と軽い音をたてて、扉を開ける。
スクアーロは入る気なんてさらさら無いが、ルッスーリアはそんなのお構いなしに、ずかずかと入っていった。
こういうとき、オカマがとても頼もしく見える。
オカマの頼もしくないときなんて、基本無い。
虫が出ても、怖いと騒ぎながら殺してしまうし。
お化けが出ても、怖いという叫び声…というかその姿にビビって、お化けが逃げてしまうからだ。
「なぁーんにも無いわよ〜?」
「!?」
そんな馬鹿な。
ルッスーリアの一言が信じられなくて、部屋の中に入ってみた。
すると、やはりそこには、ルッスーリアの言うとおり、何もなかった。
あのグロテスクに跳ねていた海鮮物は、一体どこに行ったんだろう。
とその時。
ピリリリリリッ
携帯電話が鳴った。
ピリリリリリッ
2回で切れたコール。
相手はディスプレイを確認しなくてもわかる。
決まっているのだ。
《クソボス》
電話には出なくていい。
2回コールする。すぐに来い。
3分だけ待ってやる。
そういうことだ。
一応XANXUSにだって常識はある。
急ぎの用でなければこんな掛け方はしない。
…と信じたい。
これで『カップラーメンが出来るまでに来れるか試すゲーム』とかほざいたら承知しねえ。
―――――――――――……
「…おせえ。」
広い広い洋室。
大きなひとつの窓から、暗い部屋に光が差し込んでいる。
部屋の中央には大層豪華な椅子と机が置いてある。
椅子に深く腰かけて、長い足を机の上にどっかり乗せているのが、XANXUS。
ボンゴレファミリー暗殺部隊、ウ゛ァリアーの若きボス。
腕組みをして、鋭い眼光を、豪華に装飾された重たそうな扉に向けている。
こうすること2分40秒。
…41秒、42秒、43秒。
もうすぐ、3分がたつ頃だ。
50秒。
カチリと、秒針が50個目のメモリに止まったとき、扉は開いた。
いや、半ば外れているような気もするが。
「おせえぞ、カス」
カスと呼ばれたその男。
銀色の長い髪の毛を乱して、肩で息を整えながら、XANXUSの方をキッと睨んだ。
スクアーロだった。
(通称カスザメ)
今日は運が悪かった。
呼び出された時点での、彼がいた階は2階の東側。
今いるこの部屋は、5階の西側。
しかも建物はでかい。
なんたって城だから。
3分で、なんて条件がついているんだから、そりゃあ息もあがるだろう。
「余裕で3分以内で着いただろぉがあ!!」
「ハッ!俺の分は秒なんだよ」
「無茶言うなぁ!」
ツカツカツカ、とブーツの底を鳴らしてXANXUSのいる机の前に行く。
すると当たり前のように飛んでくるワイングラス。
かなり酒臭い。
度数いくつだよ。
「近ぇよ」
「〜っ!いいから用件はなんだ、用件は!!」
ぶちギレそうになる衝動を押さえて、用件を聞き出す。
カップラーメンのカの字が出た瞬間、部屋を出て行ってやろうと思う。
たぶん無理だが。
「雲のウ゛ァリアーリングを、至急作らせろ」
To be continude
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