033「けが」





「うっひょわあぁぁああぁああああっ!!?」




ズダダダダダダ!

ものっそい音が、ヴァリアーの城内に響き渡る。


とたんに駆け付けるもの達。(※1)

無視を決め込むもの達。(※2)

ちらっと覗き込むもの達。(※3)


反応こそ様々ではあるが、ほとんどのものが、その事態と声に気付いていた。




「ゔおぉい珠紀!!
どぉしたぁああ!!?」


「げっ、珠紀じゃん。
次は何やらかしたわけ?」


「いやぁ〜ん!

珠紀ちゃんの足が変な方向に曲がってるわぁ〜ん!!」




こいつらは※1である。


フランは※2、満天とレヴィは※3。

ボスは、そもそも気付かない(例外)ので※4である。



ちなみに珠紀が今回どんな目に合ったかというと…




「すいあせん…


階段から……落ちました…………」




と、いうことである。


正直言って、いつも通りバカをやらかしただけである。




「と、とにかくっ!

医務室に運びましょっ!!」


「すいませ…がはっ」


「珠紀、死にかけじゃん」


「急げぇぇえ!!」













―――医務室






「関節が外れています。

…肩の。」




医者の診断はこうだ。

左右の肩の関節が外れている、と。


診断されて早々、スクアーロが「肩だとぉ!?」と叫ぶ。

そりゃあ驚きもする。

だってあんなんおかしいもん。


あんだけ派手に階段から転がり落ちたのに。

足が変な方向に曲がっていたのに。


なんで肩やねん、と。




「じゃああの足は何だったの…

人類の限界を越えた曲がりかただったような気が…」




ルッスーリアが不安げに呟く。


が、珠紀には秘密がある。


実は珠紀は、びっくり人間ではないが、貞子やエクソシストのあの子のような、ああいう気持ち悪い動きが出来るのだ。

ぐにょぐにょ出来るのだ。



それを知っていた医者は、「きっと咄嗟にポージングしたのでしょう」と一言。



Q:嫌いなものは?

A:「わたしのギャグ、行動に笑ってくれない奴です。」



珠紀という奴はまあ、こういう奴なのである。

その場にいる皆は医者の言葉に「ああ」と頷いた。

本来頷かれてはいけないところなのだが。


いつか、狼少年のような扱いになりそうで怖い。



事実、捻挫もしていたので、足を怪我したことには替わり無いのだが…

肩のインパクトが強すぎた。




「それじゃあ先生、珠紀ちゃんの肩はどれくらいで治るの?」




ルッスーリアが医者に訊ねると、隣でスクアーロが、




「外れたもんなら嵌めればいいんじゃねえのかぁ?」




なんて正論を言う。

が、医者は首を横に振る。




「…実はですね、もう、嵌めたんですよ。肩。」


「え?」

「ゔおぉい、どう見ても嵌まってねえぞぉ、これ…」




力無くだらりとした珠紀の腕を軽く持ち上げ、スクアーロは言う。


本人は痛みを感じないのかけろっとしているが、全く力の入っていない腕が、事の重大さを物語っている。


いや、むしろ腕が大変なことになっているのに、全く痛がらないあたりが問題なのか。



医者は、言葉を選ぶように口を開く。




「実は、今、珠紀様の肩の関節はとんでもないことになっています。


我々も手を尽くしました。

何度も何度も嵌めてみました。


そのこと自体に、珠紀様はお分かりの通り、痛みを伴うことはありませんでした。


それも問題です。

普通は痛いものですから。


ですが、今の最大の問題は、それではありません。」




スクアーロやルッスーリアには、医者が何を言いたいのかわからない。


が、深刻そうな顔で言うものだから、黙って聞いている他ない。




「今の一番の問題は、そうです。

何度嵌めようと試みても、嵌まってくれないことです。」


「はあ?
元通りにならねえってことかぁ。」


「そうです。

まるで伸びきってしまったゴムの如く、肩が緩くなってしまっています。

ですので、何度嵌めようとしても取れてきてしまうのです。」




ならば、固定すればいいのでは?
スクアーロはまた正論を述べる。

が、医者はまた首を横に振る。


スクアーロは少しキレそうだ。




「じゃあどうするんだぁ。」

「そうよ、珠紀ちゃんにはまだたんまりと仕事が残ってるのよ〜ん!!」


「あ、いえ、話はまだ終わっていませんから。

実際治らないから、このような話をしているのではありません。


実はですね、時間をかければ治るものなのです。

そうですね…およそ一週間というところでしょうか。

一週間の間、安静に過ごしていれば、自然と関節も引き締まってきます。


元の状態に戻るまで、絶対安静でいてください。

それから、肩を嵌めたいと思います。」




要約するとこうである。


珠紀の肩の関節が外れている。

しかし、関節が緩くなっているので、まだ嵌められない。

安静に過ごせば元に戻るので、一週間後肩を嵌めることにする。


要するに一週間休めということだ。




「ふぉぉまじですか先生!!休みですか!!!」


「喜ばないでください。

決して遊べということではありませんからね、勘違いしないように。」




ここにきてはしゃぐ珠紀に渇を入れる医者。


最近のヴァリアーこそ暇なので、幹部一人が抜けたところで支障はさほど無いが…

理由がまともでないだけに、XANXUSに報告しづらい。


スクアーロはため息を吐く。




「一日一回、毎朝必ず医務室に来てくださいね。

それと、いざというときの鎮痛剤も渡しておきますから。


それでは、お大事に。」


「はあーい。」




ぱたん。

アホな理由で一同に介したヴァリアー幹部の面々。


とりあえず、珠紀を部屋に運ぶことにした。


(走れないようにという理由と、一応捻挫もしているので、車椅子に乗せた。)




「すいませんスクアーロさん、わたしが不甲斐ないばっかりに。」

「…全くだぁ。」


「つーかこれ階段どうやって登るわけ?車椅子とか無理じゃね?」


「じゃあ私が車椅子を持つから、あんたたちで珠紀ちゃん担いでちょうだいね〜ん」

「はあっ?
普通逆だろぉ!」




いや合ってると思う。

オカマが抱っこはちょっと夢が無い。


「ホーホホホホ!」と、車椅子を担いだまま階段をかけ上がるルッスーリア。

もう姿が見えない。


スクアーロとベルは顔を見合わせてから、床に下ろされた珠紀を一瞥。




「………。」

「……………。」


「「ジャンケンぽいっ!」」




次の瞬間にはどちらが担ぐかはもう決まっていた。

あわてふためく珠紀を他所に、担いだのはベルの方。


これから一週間、色々な世話もされるであろう。

そしてそれと同時に、世話をかけた勝負がまた……




「……。」

「センパイどーんまい。」


「ベル、さっきジャンケン勝ってなかったっけ?」

「ん?勝ちジャンだったの。」

「普通負けじゃね?可哀想に。」


「…覚えてろよぉ、ベル。」

「ししっ、さてね。」




これからの一週間、怖くなりそうだ。





――――――
ホントにそんな症状があるかは知りません。


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