032「バカの巻」





「――で、どうだったのよ。」




わたしがこう問うと、初め予想していたよりもずっと、腹のたつ答えが返ってきました。




「えっ?うん、まあ、全然いいチョーシ!大丈夫!」




なにがだよ。


そんな幸せに満ち溢れた顔で言いやがって畜生めが。



やっぱり、リア充はいけ好かない。








――――――――――……










「あらそうなの!?上手くいったなら良かったじゃな〜い!!」


「何が良いんスか。」




わたしの心はズッタズタにえぐられてそのままですけど。

木っ端微塵も良いとこですけど。


もう普通に修復不可能ですけど。



半キレ気味にわたしが言うと、ルッスは何かに気が付いたように「あら?」と首を傾げた。


多分これは可愛い女の子なら許される仕草なんだろうな。

胸がムカムカする。
なんでだろ。




「ねえ珠紀ちゃん。」


「なに?」


「あなたもしかして……本来の目的忘れてないかしら?」




本来の目的。

ルッスは確かにそう言った。



ええと…まあ、なんか、こう…忘れてる感じはするんだけど。


何を忘れてるんだっけ。

って感じ。



しばらく固まって考えていると、ルッスは小さなため息を吐いた。


ちょっとイラッとした。




「やっぱりね。

まあ、仕方がないわよ…

管理人ですら“なんで満天の話やったんだっけ?”って言ってたんだもの。」




管理人とか言うなよ。

確かこの小説だとこれ初めてだよ、そういう古典的なネタ。




「ほら、ベルちゃんのお風呂覗き騒動から発展した、あの計画よん!!」


「お風呂……ああ。」


「反応薄いわねぇ……」




で、どうするの?

ルッスは言った。


どうするの?って言われてもなあ…



今よく考えたら、お風呂要塞化計画って、なんかタイトルからして胡散臭いじゃん。


だっておかしいじゃん。

なんだよ要塞化って。



なめとんのか。


(↑もう自分の意見だという事を忘れている。)




「なんか、今さらね。」


「んもうっ、いい加減な子ねぇ。

本来ならここで『忘れてた!訴えに行かないと!』っか、話が発展するところよん。」


「んなこと言われましても…」




あれから特別覗かれたわけでもあるま…いやあったな、あったけれども。



もう半ばどうでもいいって言うか。

感心無くなったって言うか。


話進めるにはもう遅いって言うか。




「はあ……」


「何荒んでため息なんて吐いて〜、まだ若いくせにっ!」




次で27になりますが?

もうすぐ三十路になりますが?


これで若いって言うのか。


いや、本来なら結婚してたかもしれない歳なんだけどさ。

実際結婚適齢期なんだけどもさ。




「ヴァリアーに来たから…はあ」


「んもうっ!明後日の方向見てたって話は進まないわよ!!

とにかく、ボスに訴えにいきましょ、ね!?」




なんで第三者のお前が興奮してんだ。


なんて、口に出して言えるはずもないよね。
怖いし。


こうしてわたしは、ルッスに引きずられるままボスの部屋へと向かった。








――――――――――……










コンコンッ


「……入れ」




とまあ、なんやかんや()でボスの部屋の前に連れて来られた訳だけど。


ボス、せめて「どなた?」くらい聞こうよ。

いきなり「入れ」って。


(わたしも人の事言えないけどね!)




「珠紀です、失礼します」


「…お前か、カス」




最近それ「カス」って言い過ぎて、なんか語尾みたいになってきてるよね。



ボスさあ、なんか、幸せなのはわかるけど…

最近どんどんキャラが崩れていってるんだよね。


幸せ太りだとか、見た目には出てないんだけどさ。

変わりに内面に出てるんだよ。




「ボス、お話があります」


「なんだカス」


「折り入ったお話です」


「言ってみろカス」




カスカス煩いスカスカ脳みそのボスに、私は話す決心をする。


そして話す内容を、瞬時に頭の中でまとめた。

(文字数を稼ごうなんてこれっぽっちも思ってないよ!)



*覗きがある
*しかも防げない
*更に相手がベルである
*防犯設備をよくしたい
*むしろ要塞化したい
*部屋の風呂だけでいい



詰まるところ、お風呂を要塞化したいと思っている。



それら全てをボスに話し終え、わたしは一息吐く。


だが、ため息を吐いたら吸わなければいけないので、それを思い切り吸っておいた。



わたしの訴えを聞いたボスは、「……。」と何か考え始めた。


多分、「被害者が満天なら考え物だけど、こいつなら別に」とか考えているのだろう。


けっ、嫁バカめ。



ボスなんて幸せになっちまえ。

末永く幸せに暮らせば良いんだ。


そんで孫達に看取られて、穏やかな気持ちで逝けばいいんだ。



そして、ボスは口を開く。




「おいカス」

「はい何でしょ」


「予算は500万でいいか」




えっ。




「…すいません、今なんて?」

「予算は500万でいいか」


「聞き間違いじゃなかった!?」

「…足りないか」


「いやいやいやいやいやいや、もうトンでもないっ!!

足りに足りますが!!」




わたしは取れそうなほどに、頭を横に振って叫ぶ。

すると「るせえ」と一喝。


すんまそん。



にしても……え?


ボス、さっきのあれは予算を立ててた顔だったの?

なんか決断早くね?
てか、予算多くね?



…嫁バカ、遂に方向感覚すら無くなってきたの巻か。

本格的にバカになってきたの巻。


略してバカの巻。



そして、ボスはわたしを鼻で笑ったあと、紙にペンでさらさらと何か書いた。


それを手渡され、目を落とすと、小切手だった。



その額 500万―――……



なんか、クラッと来た。


普通に働いてたらこんなん手にはいる額じゃない。


以前普通に勤めていた事がバカらしくなってくるレベルだ。




「それを使え」




男らしい。
今までで一番男らしいよ、ボス。

お金フィルターってすげえ。


わたしが呆けていると、「早く手配してこい」と追い出される。




「…………。」


「あらっ、珠紀ちゃん!
よく無事だったわね!!

って…あらあらん?

その紙って……」




追い出されたその先には、オカm…ルッスーリアの姿があった。


くねくねとしながら叫んで近付いてくる彼女の姿は、ホラーさながらである。



言葉を発することもせず、追い出されたままの形でわたしは、手の内にある紙切れをルッスーリアに手渡した。




「びょっ!!?」




ルッスも驚いている。

そらそうだ。


だって、こんな馬鹿げたことに500万も出されたんだから。




「よくもまあ、ボスってば…」


「あほだよね。

…まあ、せっかくだし使わせて貰うわ、500万ちょっきり…」


「そうねえ…」




ま、勿体無いしね。


そしてわたしは携帯を取りだし、メーカーに500万分のセキュリティシステムの設置を取り合わせた。


なんだか、ルッスーリアが可哀想なものを見る目で見ていた気がしたけど、わたしはそれを無視した。



そうでもしなきゃ、やっていられないような気がしたからだ。








後日、ベルが珠紀の風呂を覗きに行った時。


そこに以前の風呂の姿は無く、替わりに、アンブレラ社デザインの入口がそびえていたらしい。


のちに、「中を見たいとは思えなかった」、とベルは語った。



果たしてこれは正しい終わり方だったのかは、誰も知らない。






―――――
いいのか、これ。


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