031「確かな愛情で」





遂にやって参りました、この時。



――コンコンッ


『XANXUSさん、満天です。』



わたし(珠紀)は今、自分の部屋にいる。


満天に取り付けた超小型補聴k…じゃなくて、超小型盗聴器から、コッソリ満天とボスの会話を聞いている。



…いや、犯罪じゃないよ。


決して犯罪じゃないからね。



満天の承認は得てないけど。

(これまた巧いことコッソリ背中に着けたっていうね。)



恨むならディジタルのご時世に堕落しきった自分を恨んでね。


全く、アナログ派のわたしには生きづらい世の中だと思っていたら、案外チョロいもんだぜ!


フハハ!




『――ブツん。』



「えっ!?」




突然耳元で聞こえた音。

そう。まるで電話や通信がいきなり途絶えてしまったような…。


そう考えると次に聞こえてくるのはやはり、『サーーーー…』という静かな一定音だけ。




「え、ええええぇぇぇ……」




虚しくも、こうしてわたしは盗聴失敗を余儀無くされた。










――――――――――………










「?」

「ゴミが着いていた。」

「あ、ありがとうございます。」


「…
要件は何だ。」




私は今XANXUSさんの部屋にいる。

例の件を伝える為に。




「あ、そうでしたよね、何のために来たのか忘れてました。」

「…どうしようもねえな。」


「えっと、それでですね…」




切り出すまで沈黙が続く。


いざ。

そう思っているんだけど、中々一言目が出てこない。



「……え、と」



心無しか、XANXUSさんの顔が恐い。


いや、これが通常運転なのは分かってるんだけどもね。

むしろ通常より優しさを出しているのも分かってるんだけどもね。

…なんかね。


気まずさから、いつもは思わない事にまで余計に頭が回る。



くっそ、私って案外チキンだったんだ……


いや、今まで気付いてなかったわけでもないけどさ、なんかね。

再確認?



すると、ずっと話を切り出せないでいる私を不思議に思ったのか、XANXUSさんが「おい」と短く言った。


そして自分の膝、というか腿を手で軽く叩いた。

テーブルを挟み、向かい合って座っていた私に向けて。




「え?」


「…来い。」



いや、それは動作でわかりますけども。




「話しづらい事なら、目を合わせながらだと余計にキツいに決まってる。」




そんな決定事項なんですか。


…要するになんだ。


膝に来れば距離こそ近くなるものの、近ければ近いほど、顔を見なくていいと。



目を合わせられないくらい近くに行けばいいと。



これはあの、なんだ。


いわゆる“膝に座って首にぎゅー”なフラグじゃあないですか?




「来い。」


「はい、すみません。」




なんかもう、行かなくてはいけない、みたいな。

半ば強制というか。


来いと訴えるオーラというか、迫力というか…

凄みがハンパない。



半分仕方なく、もう半分はちょっと嬉しい。


そんな気持ちで、私はXANXUSさんの腿に腰をおろした。

(一応遠慮がちに。)




「っ」




予想以上、顔が近い。

私が反射的に俯くと、そうっと背中に腕を回される。


そして、「言ってみろ」と一言。



まるで昔見たメロドラマのワンシーンみたいに。

写真におさめられた風景の如く、一瞬、世界が止まった気がした。


なんて、ちょっと感傷的すぎるけど。



今の自分の状況を思い浮かべると、心臓が跳び跳ねて、顔に血が回ること回ること。

熱くてしかたない。



私は、ゆっくりと話し始める。




「実は私―――……」




XANXUSさんは、何も言わずに聞いていた。







――――――――――…………








満天が部屋に来てから、およそ1時間が経とうとしている。


静まり返った部屋の中で、俺は満天を膝にのせ抱いたまま、話を聞いた。



安直な感想を言うと、なんつうか、「衝撃的だった」。


(↑安直という言葉は最近覚えた。)



途切れ途切れに話し始めた内容は、俺が想像していたものよりも遥かに複雑で。




まず一つ目に、俺との行為で未だ快感を感じたことがないこと。

それによって負い目を感じていること。



二つ目に、どうしようもなくなって相談したところ、“開発”することになったこと。


(相談した相手は紛れもない、変態クジャクオカマと変態ハケン女だ。)


そしてそれを実行したこと。



実のところ、俺に隠れてそういった行為をすることに、少し後ろめたさを感じていたらしく。

涙混じりに打ち明けていた。


不謹慎だが、正直可愛かった。




そういった思いの丈を全て吐き出した満天は、なんだ、泣きつかれたというわけでもないが。


俺の腕の中でスヤスヤと寝息を立てている。




「……どうしようもねえな、本当に。」




ベッドに運んでその横に腰を下ろすも、起きはしない。


他人の頭を触るだなんて、恐喝と暴力以外ではこいつが初めてだ。



心の中に、ずっとずっといた女。

大切で、手放したくなんてない。


臭い台詞になるが、俺が初めて愛した女。

その事実に揺らぎはない。




そんな女が、俺の目の届かないところで、悩み、苦しみ、俺を思っていた。

全く心臓がいてえ。



こいつを襲う不安や痛み全てを消し去ってやりたい。



その為ならば俺は快感などいらないし、むしろ痛みなんてものは変わってやりたい。


何よりこいつを大事にしたい。


その一心で。




確かな愛情を持って、満天を守ろう。
















「…満天、どうなったかなあ」



珠紀の乾いた笑いと声が同時に漏れる。


その時こいつは、というやつだ。




「どぉーせわたしは非リア充ですよーぉだぁああ!!!」




オワレ。





―――――
本当は3話くらいの予定立ったんですが、途中で面倒になっちゃいました、すいません…


back next

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -