028「由美マリオ」
「珠紀っ」
「ふぉああああっ!!?」
突然、呼び掛けられた。
思わず叫んでしまい、わたしに声をかけた張本人ベルは、驚いて一歩後ろに下がった。
…いや、別に引かれたとかそういう訳じゃなくて。
「ししっ、びくった?
…まあオレのがびくったけど。」
「そりゃ驚くわ!」
こんなのは日常茶飯事だ。
(※決して『日常ちゃめしごと』なんて読まないように。)
だが、今こうして彼がわたしを驚かした、この場所に問題がある。
場所というか、状況というか…。
「じゃあドッキリ大成功ってわけ?さっすが王子ー」
「いや、確かにドッキリはしたけどね、大成功だけどね!
…違うんだ、あのー…いや、ね。
一個言ってもいい?」
そう言えば、「?」という感じで首をかしげる目の前の王子。
わたしはそれを見て完璧にキレた。
キレたというか、爆発したというか。
頭をがっしりと掴むと、「?」が「!?」に変わる。
そしてそんなの気にせずに、そのまま……
「ゔっ!!?」
ゴッ
と、鈍い音がする。
まあ、それもわたしによって生み出された音なんだけど。
「とりあえず、出てけ。」
返事は返ってこなかった。
シャワーから出るお湯がタイルを打つ音だけが響いていた。
足下にはタイルと額をごっつんこさせて倒れ込んだ、金髪の王子の姿。
それがいやにシュールだった。
――――――――――……
「…ってなわけで」
「お風呂場を改造して欲しいと。」
「そうです。」
わたしとルッス姉さんは、談話室に居た。
恒例の午後のティータイム。
…という名の愚痴り大会。
昨日の朝、お風呂場にてあった出来事を話していたのだ。
もう、いくら鍵をかけても入ってくるもんだから、思いきった相談をしてみた。
「にしても…ただでさえボロ古城なのに、お風呂場だけ要塞化するわけにはねえ。」
「そこを何とか!
うら若き乙女の日常が暗殺と風呂を覗かれる事なんて、あんまりじゃないですか!!」
「よく自分を乙女なんて言えたものね…珠紀ちゃん。」
「このままじゃ、由●かおるもビックリなポジションになっちゃうよ。」
わたしがそう言えば、呆れたように大きくため息を吐くルッス。
つーか由美●おる分かる人いんのかな。
(※水戸●門のくの一)
もう、こうして頼むこと15分は経過している。
ああ。
やっぱり乙女乙女言ってるけど、ルッスも所詮はオカマなのか。
そうだよね。
元は男なんだよね。
男が男に覗かれた所で…
「ルッスのオカマぁーっ!!」
「それ私達の界隈だと誉め言葉よ、珠紀ちゃん!!
んもう…こうなったら仕方ないわね、ボスに頼んでみましょ。」
「!
いっ、いいの!?」
やっとルッスが折れた。
だが、つかの間の喜び。
途端にルッスは険しい表情へと変わり、唇に指を一本当てた。
「ただし。」
「た、ただし…」
一瞬、空気が張り詰める。
吐き出されるであろう言葉に覚悟をしつつ、唾を飲む。
「ボス、新婚生活あまり上手く行ってないみたいだから、ピリピリしてると思うわよん。」
「え。」
なに?
思考回路が固まってしまい、思わずルッスを二度見した。
いちいち照れるのはやめてほしい。
待て。
待て待て待て待て待て。
新 婚 生 活 が
上 手 く 行 っ て な い ?
「嘘でしょ?」
「ホントよ〜!!だって私、満天ちゃん本人から聞いたもの…」
「…何をさ。」
正直、あの2人が上手く行ってない所の想像がつかない。
だって相性いいじゃん。
見るからに。
お笑い芸人もガリとデブ、ノッポとチビが売れていくように、恋の相手だって同じことが言える。
『似た者夫婦』なんてのは、長ーい間一緒に居たから、なんか心なしか似ちまったよ〜ってことだし。
案外自分と正反対とか、初対面で気が合わなそうだと思った相手とか、そう言う相手が運命の相手だったりするのだ。
ほら、ジャンプでもあるじゃんね。
最初は敵だったのに、後々味方になっちゃうとか。
●ケモンの歌にもあるじゃんね。
『昨日の敵は今日の友』ってフレーズがさあ。
だから、あの2人はある意味でお似合いなわけであって!
ましてや新婚なのに上手くいかないとか、そういうことがあるなんてことは……
「…いつまで経っても、夜の営みが気持ちよくならないって。」
あったああああああああ!!
思わず吹き出しちゃったじゃねーかあああああああ!!
「ゲッフォゴッホ!」
「大丈夫珠紀ちゃん!?
いや、ね、私も驚いたのよ……」
いや驚くけれども。
…よく考えたら当たり前だわ。
そら内面だとかパッと見のバランスとか、そう言うのは『正反対』でも良いかもしれない。
いやむしろそっちのが良いと思うよ。
けど、身体の方は…。
「…赤ずきんちゃんと野獣だもんね。」
「例えが生々しいわぁ…」
「だってそうでしょ。」
よくよく考えたらさ、ロリコンだからね、うちのボスさん。
こりゃお風呂要塞化計画どころじゃなくなってきたよジョニー…。
「…まあ、聞くだけ聞いてみようか。」
「かっ消される前に逃げるのよ。」
「ルッスは行かんの?」
「行くわけないわよ〜!!」
こいつめ。
裏切りおった。
いいわ。
お前さんは一生そこで通行人Bを気取って、髭の配管工に助言をしまくるがいいわ!
そんで姫を助けた配管工が知らないところで「あいつ俺がいなかったら今ごろチリだぜぇー」とか言ってればいいわ!!
「待ってろピーチ姫ぇぇええ!!」
「あっ、ちょっと珠紀ちゃん!?って行っちゃったわぁ…。
なんてバカなのかしら…あの子の将来が不安ねぇ〜。」
かくしてわたしは、一人寂しく『お風呂要塞化計画』をクッパに訴えるついでに、ピーチを救いに行くのであったとさ。
トゥビーコンティニュード!
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