027「王子のきまぐれ」
わたしこと珠紀が、ボスから雲のリングを貰い受けてから数日。
「ふわぁぁぁおぉーぅ」
「ししっ、何?その奇声。
と、そのリングっ。」
談話室にて、寛いでいた時のこと。
突如背後から聞こえた声に振り替えると、クルクル金髪の王子さんの姿が、真後ろにあった。
「おおベル。
知りたかったらここのURLにアクセスして、この壺買ってからにしてよ。」
「…俺確かに王子だけど、流石にドブ川に金捨てたいとは思わねーわ。」
「ドブ川(笑)」
「いやいや、『壺(笑)』だろ?」
やり口が古すぎ、とかなんとか文句を言いながら、向かい側に置いてあるソファに座るベル。
そして奇声。
なんかヴァリアーって、奇声あげる人多すぎだよね。
(『いやぁ〜ん』『ぬぅ!』『ゔおぉい!』『ゲロッ』etc…)
「で?」
「ん?」
「それ。そのリング。」
奇声を挙げていたベルが、わたしの右手を指しながらそう言った。
視線を落とすと、指にキラリと光る雲のヴァリアーリング。
「なになに、遂に貰ったわけ?」
ちなみに、これでヴァリアー幹部には全員に知れ渡った事になる。
皆似たような反応だった。
(ちなみに、ベルはこの数日任務でヴァリアーを留守にしていた。)
「うん。
スクアーロさんがさ、むっちゃカッコつけて渡してきた。」
「ししっ、もしかして夜景の見える高級レストランで?」
「ごめん。もしかしないわ。」
「つまんねーなアイツ。
俺なら普通にそこで渡すわ。」
「馬鹿なの。ねえ、馬鹿なの。」
そんな馬鹿な会話をしながら、束の間の休息(という名のサボり)を満喫したわたしとベル。
HPが満タンになるにはまだ時間が必要なのだが…仕方がない。
ベルのような天才でない凡才のわたしは特に、いい加減仕事に戻らなければ。
給料は下がり、馬鹿になり、腕っぷしも弱くなる。
「さぁーて、仕事戻るかなっ。」
「いってら。」
「おめーも戻れよ。」
「ししっ、嫌だよ。」
ピキッ
なんだかうっすらと血管が浮き出るのを感じた。
「だってオレ?」
「「王子だもん。」」
うん、意味不明すぎる合言葉だ。
動機も意味もマジで不明だ。
そうしてわたしは談話室を去った。
――――――――――……
しばらく休憩(サボり)をして席を空けていたからか、何だか心なしか椅子が冷たい。
いや、温もりが残った状態も気持ち悪いけども!
「さてと。」
トントンッと書類の端を揃えて机に置き、PCの電源を付けた。
机にかじりつくこと、30分くらいが経った頃。
あーもう。
コーヒー飲みてえ。
勿論アイスコーヒーな。
むっちゃ甘いのが飲みたい。
なんて馬鹿っぽいことを考えながら、わたしは飽きに飽きて、ニ●ニ●動画でAV(アニマルビデオ)を漁っていた。
暇すぎる。
いやじゃあ仕事しろ。
もう無理飽きた。わたしは追い込みで冴えるタイプなんだよ。
あああああ。
ああああああああああ。
あああああああああああああああ。
「暇だぁぁあああっ!!!」
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。
暇すぎる!
え、仕事しろ?
いやいやいやいや舐めてんの?
天下の珠紀さんだよ?
珠紀の特性
*すぐ飽きる。
*遊び人。
*サボり魔。
*仕事出来ない。
これを見てもまだ、わたしに仕事しろと言えるの?
無理だよ。…無理だよ!
「ハッ…そうか。」
ここ最近のわたしってば、なんか忙しすぎていた気がする。
現場に出る任務の嵐だったり→意味不明な喋る動物に2度も絡まれたり→変な契約させられたり→友人とボスが結婚するって言ったり!!!
そりゃ仕事も手につかない筈だよ。
だって、あんだけドタバタしてりゃあこんな日常つまらなくなりもするさ。
「こうしちゃいられん!!」
今すぐ、何かをしなければ!
わたしは席を立ち、走って廊下に走り出した。
走って走って、とりあえずまあ、めちゃめちゃ走った。
そして角を曲がった時だ、
「うばっ!!?」
ドッカーンと、誰かにぶつかった。
ここの廊下、無駄に広いしでかいし長いしで、ついマッハで走っちゃうんですよね。
わたしは尻餅をついた。
が、ぶつかった目の前の人は微動だにしなかった。
棒立ちでこちらを見下ろしている。
「あれー?どんな無礼者かと思えばー、アホの珠紀さんじゃないですかー。」
「無礼者はオメーだよ。」
「てへぺろー。」
見下ろされていることよりも、なんていうかオーラが腹立つ奴だなと思ったら。
こいつだった。
フラン――緑の髪に緑の目…を隠すかのように、蛙の被り物をしてる変人。
「なんかすっごい久々だね、フランとは。」
「そうですかー?ボスの結婚式の時にも会っ「わーっ!わーっ!!」なんですかー。」
「…大人の事情を考えなさい。」
多分、毎回毎回思うけど、こいつはわざと空気読まない時が結構あるよね。
「ていうかー、いつまで座ってるんですかー。」
「普通さあ、手貸すでしょ!」
「ワガママだなー。
よっこら……うわ重っ。」
「うっせ!!」
なんやかんやと言いつつも起こしてくれるのは優しさか。
いや、結構嫌々だしそれはないか。
「んで、何をそんなに急いでたんですかー。」
「暇だったから。」
「暇だったら走るんですかー、うわ、アイタタタタ。」
「そういう感じじゃなくて!!
普通にこう、やることを探し……」
と、その時だ。
何か、遠くから聞こえたような気がした。
大きな声と、それに足音…。
「…珠紀さーん?」
「いや、フラン…あのさあ、なんかこう…聞こえない?」
「はあ?」
不思議そうにこちらを見るフラン。
まあ、不思議というよりは、何か痛いものを見るかのような視線だけど。
「いやちがくてね、なんか、こう「ゔおぉぉい珠紀!!」……………こんな感じのさあ、何かが。」
「あ、聞こえましたー。
っていうか見えましたー。」
今はあんまり聞きたくなかったその声に振り向くと、そこに居たのは案の定、長い長い銀髪の人だった。
私の上司!
いや、教育係!!
「す、すすすすスクアーロさん…」
「てめえサボりかぁ!?
部屋に行ってみれば姿は無えし、PCでニ●動開いてるし、書類は山積みだし…」
「あんたサボってここまで来てたんですかー。」
「るさいっ!」
でっかくため息を吐く二人。
いやスクアーロさんは分かるけど、なんでフランまで?
おい、意味わからんよ?
「おら、とりあえずさっさと戻って仕事しやがれぇ!!」
なんて考えてる間にも、スクアーロさんはわたしの首根っこを掴んで、引きずり始める。
なんか…慣れてるんだろうかね。
全然痛くないんだ、これが。
『痛くなく引きずる方法』とか取得してんのかな。
フランは「お大事にー頑張ってー」なんて、心にも無いようなことを言いながら、こちらに手を振っていた。
ユウウツすぎる。
「…ベルだって『サボり〜』とか言いながら談話室来てたのに。」
わたしがそう言うと、スクアーロさんはピクリと片眉を動かして、歩みを止めた。
「…スクアーロさん?」
「お前、本気で言ってんのかぁ?」
「え、なにがですか。」
全く状況把握できないわたしに、スクアーロさんは呆れるようにため息をついた。
「あいつは確かに不真面目だが、サボった事は無えぞぉ。」
けろっと言ってのけるスクアーロさん。
「……うっそだあ。」
「凡人じゃ2時間かかる仕事も、天才のあいつにとっては朝飯前の朝飯前だからなぁ。
わざわざサボる理由も無えんだぁ。」
「…確かにそう言われてみれば。」
「まあ、面倒だったら部下にやらせることはあるが、それはサボりとは言わねえしなぁ。」
『だってオレ王子だもん』という口癖に負けないくらい、あいつは王子だ。
誰より王子だ。
天才の名を恣にしていて、本当に何でも出来て、部下に仕事を押し付けるくらいの権力もあるし…。
なら、
「なんでまた『サボり』なんて言ったんですか?」
仕事をしてるのに、わざわざ嘘つく理由なんてあるのだろうか。
「………お前…」
スクアーロさんが、口をあんぐりと開けて言った。
「はい?」
わたしが返事をすると、頭に手を当てて、大きくため息をついた。
「ちょっ、なんですか!」
「……お前、鈍いなぁ。」
そう言って、またわたしを引きずり始めたスクアーロさん。
「……はあ?」
―――――――――
なんか…長い。
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