026「覚悟コーヒー」









――――――――――…





「…そんな、ことが」


「ええ…。あの子ったらぶっきらぼうに見えて、かなり珠紀ちゃんの事考えてたみたいよん」




ルッスーリアの話を聞き終えて、脱力した。



まさか、まさかスクアーロさんがそんなことを考えているなんて、思ってもみなかったから。


そしてルッスーリアまでもが、わたしをそんなふうに見てくれていたなんて。



ある日突然一般職からヴァリアー幹部に転勤させられて。


初めから今まで、わたしは、失敗ばかりしていた。



イタリア語なんて書けないし、読めないし、話せないし。


辞典まで買って少しずつ勉強して、皆にちょくちょくイタリア語で話してもらって、それでもやっと日常会話レベル。



そんなこんなで2ヶ月が過ぎて。


いまでもわたしには充分すぎるほど、皆は優しくしてくれているっていうのに。




「……………。」


「…珠紀ちゃん。
私が今この話をしたことで、自分を責める必要はないのよ!

ただ、珠紀ちゃんには……あの子の気持ちも私の気持ちも、知っていてほしくて…」




わかってる。


スクアーロさんはそんなこと伝えてくる人じゃない。

だから、ルッスーリアも言っちゃいたくなったんだろう。


スクアーロさんのいいとこ。

自分のいいとこや思いやってる気持ちを前面に出してこないところ。




「…大丈夫、そもそもわたし、自分を責められるような立場じゃないもん。

そんな自称悲劇のヒロインみたいな痛い子でもないよ。」



「珠紀ちゃん……」




わたしが立ち上がるとなお、心配そうな表情で見つめてくるルッスーリア。


サングラス越しにルッスーリアの潤んだ目が見える。

いやだなあ、なんでルッスが泣くの。




「大丈夫だから。

ありがとね、ルッスーリア。」




わたしは懐に手を忍ばせて、銀縁の真っ黒な箱を取り出した。


紫色の石がいやに光っている。



そして箱を開け、中のものを取りだし、冷たいそれを右手の中指に嵌めた。




「!

それ……」



「今日、貰ったの。


それで、スクアーロさんにはちょっとだけ頼っちゃったんだよ。

結果的には、ルッスーリアにも頼っちゃったけどね……


ごめんね、ありがとう。」




そう言うと、ルッスーリアはいよいよ本格的に涙を流し始めた。


「泣かないでよ」と言うと、彼女(?)は、無理に作ったようにも見える笑顔を浮かべた。




「私、嬉しいのよ。」


「嬉しい?」


「いいえ…何でも無いわ、早く、いってらっしゃい!」




行きたいところがあるんでしょう?と微笑むルッス。


やっぱりお母さんみたい。

いつでもなんでも、全部見透かされちゃうよね。



そしてわたしは部屋を出た。


ある場所へ向かって――…












――――――――――…











珠紀が部屋を去ってから少しの時間が経った。



何故あんなことをしたのか。


珠紀がいなくなった後、しばらく考えていた。



あいつは大事な後輩だ。

だから、今回リングを渡すことは、心配でもあった。


けど…




「…心配だからって、あそこまでするかぁ」




少し、やりすぎだったのではないか。



手掴んで止めるってのはちょっと、どうなんだぁ…


俺にしては大胆過ぎる行動だったように思える。




「はぁ…」




するとその時だ。


――コンコンッ




「!」




扉をノックする音が聞こえた。


無意識に身体が跳ねる。






「スクアーロさん?」






扉越しに、よく通る声。

聞き間違えるはずの無い相手。
さっき別れたばかりの相手。



身体が固まった。


ぎこちなくはあるが短く返事をすると、珠紀がゆっくり扉を開けた。

何か心配な顔で、こちらを見ている。


ツカツカとブーツを鳴らしながら、俺の座っているソファへと歩いてくる。


そして、右の拳を目の前に差し出してきた。



「!
お前……」


「どうですか、似合います?」



ニッと笑って、中指にぴたりと嵌まるそれを見せながら、そんなことを言う珠紀。


俺が驚いているのを察してか、珠紀は「あ。」と一言言って、訂正した。




「わたし、もう人殺すのが怖いだとか、そんなふざけたこと言いませんよ。」


「………。」


「よくよく考えたら、過去にわたしのせいで死んじゃった人がいたなあ…なんて。

仲間に死なれたら悲しいです。

けど、わたしには、そんなのを言う資格は無いんです。


悲しむ資格は、無いんです。」




そう言い、真っ直ぐな瞳で俺を捕らえた珠紀。




「…じゃあ、わたし行きますんで。
今日はありがとうございました。

あと、スミマセンでした。」




苦笑い、とも取れるような笑顔を浮かべ、珠紀は俺に背を向け、扉へ向き直った。


ああ、なんだ。

こんなとき、何を言えば?


なんて、答えなんて探している暇は毛頭無い。




「珠紀!!」


「っ!」



びくりと肩を震わせて、動きを止める。


呼び掛けたは良いが、別に何かかける言葉が決まっていた訳ではない。


勝手に、口が動いた。




「また何かあったら、俺の所に来い。

俺は馬鹿の教育係だからなぁ。」


「……!」



俺がそう言うと、珠紀は一瞬目を見開き、笑顔になった。




「またしばらく、教育お願いします。」




パタン。

と、軽く音をたてて、扉は閉められた。



一人部屋に残された俺。


なんだかさっきまでのことが嘘みたいに、部屋は静かだ。




「…コーヒーでも飲むかぁ。」




今日、少しだけ強くなった部下のことでも考えながら…。






――――――――
うわあ、こりゃ酷い。

つかタイトル。
「やけ酒」みたいなノリ…。


back next

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -