024「哀瞳」
強制的に飼うことになってしまったペット達が現れて。
意味のわからない契約からの発動を覚えさせられて。
ボスに携帯で呼び出されて、突然雲のヴァリアーリングを渡される。
わたしはヴァリアー雲の幹部として所属しているから、そりゃ、仕事道具の一つとなっているヴァリアーリングをもらうのは当たり前だろう。
けれどわたしにはそれが耐えられなかった。
認めてもらえる日がくることを祈ってはいた。
たくさん任務をこなして、功績を残して…。
けれど、それと同時に、わたしの中にはある相反した気持ちが渦巻いていた。
『人殺しになりたくない』
この大きな気持ちが、わたしの中にはあった。
暗殺部隊に身を置いていながら、聞いて呆れるだろう。
人を殺すことが仕事であり、それによりわたし達は飯を食べていけるのに。
それなのに、わたしは人殺しになりたくないんだとさ。
怖いんだって。
『リング』という『力』を手に入れてしまった自分が。
嫌なんだって。
『リング』による『力』を使って人を傷つけるのが。
わたし達が殺すのは9割方悪人なんだよ。
そう思い聞かせたところで、『人を殺す』という恐怖は無くなりなどしなかった。
わたしはスクアーロさんの部屋にいた。
スクアーロさんが言うには、もう2時間も経ったらしいが、いまのわたしには時間などさっぱり。
「いつまでそうしてる気だぁ」
人を殺したことがない。
それを言ったところで何かを言われるわけでもないが、スクアーロさんの表情が少し曇った。
止まれ、止まれ。
動いてほしくない口が、勝手に言葉を並べていく。
けれど本心。
これは全てわたしの本心。
やめて、やめて。
そんなこと言ってスクアーロさんにどうしてほしいの。
わたしは、何をしたいの。
「今日からわたしは、人殺しになるわけです。」
そう言い放った途端に、スクアーロさんは少しだけ目を見開いた。
嫌だ。
そんな目をしないで。
そんな顔、しないで…。
悲しい表情のスクアーロさんとずっと目を合わせていることに耐えられなくなって。
わたしはベッドの上から退き、部屋を出ようと、スクアーロさんの横を通って扉に向かった。
視線が背中に刺さる。
お願い、見ないで。
「じゃあ、」
部屋を出ようとした、その時。
「…待ちやがれぇ」
背中が温かい。
わたしを捕まえている、この腕は――……
――――――――――…
「スクアーロ、さん…?」
俺の名前を呼ぶ、珠紀の声ではっとした。
ボスの命令通り珠紀へ雲のヴァリアーリングを渡して、それで、俺の部屋にずっといるもんだから声をかけて…
自分の思いをつらつらと話す珠紀に驚いた。
と同時に、じっとしていられないというか。
無理に笑うあいつを見て何か、こう…
いたたまれなくなったんだ。
気がついたら抱き締めていた。
自分の方に引き寄せて、それで、腕の中へ。
「あ、の…放し「放さねえ」…」
そう言えば黙り込む珠紀。
珠紀の顔に、徐々に徐々に熱が集まっていくのがわかる。
なんたって耳が真っ赤だ。
また、それは自分にも言えることであって。
俺だってこんな状況にあんな台詞、死ぬほど恥ずかしい。
だがやってしまったものは仕方がないのだ。
黙っているわけにもいかず、俺は言葉を探った。
「あ、のだなぁ…」
「………」
「……無理はすんな」
探ってみただけに終わったみたいだ。
違う!
俺は別に、こういうことを言いたいんじゃない。
こんな、気のきかない、ありきたりな台詞なんかじゃなくて…
「…放して下さい」
冷たく言い放った珠紀。
思わず手を離すと、こちらを少しだけ向いてから、急ぎ足で部屋を去っていった。
悲しい表情(カオ)をしていた。
―――――
やべ、まとめれなくなってきたよ?やばいよ?
まあ隊長がやらかしてくれたんでいいですよ、別に。
場面と雰囲気だけ伝われば。
←back next→