023「種」








「ボスッ!!!」




バァァン!


派手な音と共に、馬鹿が部屋に突入してくる。


亥年生まれかよ。

(↑最近干支を覚えた)




「おせえ」

「サーセン」




俺に呼び出されたら3分以内に来る、がこのヴァリアーの鉄則だ。


にも関わらず、珠紀、こいつは毎回毎回その鉄の掟を破りやがる。



ある意味度胸があるぜ。


道を覚えていないから、ただ守りたくても守れないだけなのだが。



いい加減覚えろカスめ。


(↑※最近干支を覚えた男)




「で、要件はなんですか?
オムツ替えの時間?」


「カッ消すぞ」




何がオムツ替えの時間だ。



俺をいくつだと思ってやがる、この女。


(↑※最近になって干支を覚えた34歳児)




俺はヴァリアーのボスだからな。


下手すりゃ天下のボンゴレ10代目になってた男だからな。

まあそれも沢田綱吉に譲ったわけだが。



心が広いから、まあ、カッ消しはしねえ。




「だっ」




ただ、グラスくらいには当たってもらうが。


ぶはっ!良い様だ。




「…てめえに関わる大事な要件だ」


「え?お見合いなら嫌ですよ。わたしは恋愛結婚が良いんで」


「一旦口を閉じろ」


「…ふぁーい」




珠紀が黙ったところで、指をパチンと鳴らす。


すると、俺の部屋の横からカスザメが出てくる。



決まったな。


ちなみに、全ては打ち合わせ通りだ。




「スクアーロさん?」




カスザメがツカツカとブーツを鳴らしながら、赤の台座に乗せた箱を、珠紀の元へ持っていく。



縁に銀の装飾が施された、黒色の小さな箱。


箱は腹の部分にちょうど切れ目が入っていて開くようになっている。


上部の中央には、紫色の石が嵌め込まれている。





「施しだ」





受け入れ。

そう言っているような赤い瞳が、珠紀を捉えた。



そうして、珠紀は赤い台座に乗せられた、黒の箱を手に取った。




「…開けてみろぉ」


「これは…?」




箱を開けた珠紀。

中に入っていたのは、ひとつのリング。




「それが、雲のヴァリアーリングだ」


「!
雲の…ヴァリアーリング…」


「てめえのもんだ。好きに使え。」




俺はこれから仕事がある。

そのうえ、最近仕事を始めた妻、満天が仕事先で俺の迎えを待っている。



部屋には珠紀とスクアーロの二人だけが残された。










――――――――…










ふかふかのベッドの上。

ベッドの上にある布団が黒であることからも、男の部屋だというのが分かる。


そうだ。


ここはスクアーロの部屋。




「…う゛おぉい、いつまでそうしてるつもりだぁ」




もう珠紀がスクアーロの部屋に来てから2時間は経とうと言う頃。


しかもベッドは占領されている。


以前大変な勘違い事件が起きたために、男女間の間違いは(多分)起きないものの…

男の布団に寝転がるとは、あまりにも緊張感がない。



こんな状態がいつまでも続けば大変だとでも思ったのだろう。


スクアーロが背中に向けて声をかける。



すると珠紀は寝返りをうって、スクアーロの方向を向いた。




「……」

「お前はいつまで、そうしてるんだぁ」

「……ずっとです」

「馬鹿言え」




そもそも何をそんなに落ちているのか。



直前(とは言っても2時間も前だが)に起きたことと言えば、ザンザスが、完成した雲のヴァリアーリングを珠紀に渡したということだけ。


明らかなテンションの違いから、それが原因であったことはスクアーロにもわかる。



だが、問題は、あれのどこに落ちるような要素があったのか、だ。


それがわからないから話にならないのだ。




「…ねえスクアーロさん」




消え入りそうな声で、珠紀がスクアーロの名前を呼んだ。


なんだ、と返事をすると、苦笑いをしてこう言った。




「わたし、まだ人を殺したことがないんです。」




暗殺部隊の幹部のくせに、変でしょ。

そう言って笑う。


違う。

本当に笑っているわけではない。何かが面白いわけじゃない。


それがわかるからなのか、何か、胸が痛んでくる。




「でも、わたしは今日、リングっていう『力』を貰っちゃったんですよ。


…これってどういうことだか分かりますか?」




言いたいことはわかる。


だが、こんな状態の珠紀に言うには、あまりにかわいそうに思えてならない。





「今日からわたしは、人殺しになるわけです。」





力あるものは何かしらをする。

そうだ。

この力は、平和と安全な暮らしを得るための人殺しの道具として使われる。



今までの任務はといえば、何かをとってくるだとか、拠点確認のための視察任務だとかいう内容ばかり。


いざ戦うとなっても、殺しを避けて…ということも可能だっただろう。



しかし、それが今からは許されなくなった。

リングという力を受け取ってしまったから。


それはすなわち、珠紀自身に殺しをさせる準備が整ったと言っても良いだろう。



甘えカスはかっ消す。

ザンザスが度々口にしている言葉だ。


この言葉を借りれば、珠紀は甘い。暗殺者として、まだまだ甘いのだ。



暗殺者として生きるには、あまりに優しすぎた。



そう改めて思ったスクアーロは、下手に声をかけることもできない。




「…なーんて冗談です。すいませんね、帰ります」




あはは、と空笑いをしながらベッドを立ち上がる。


やめろ。


そんな顔をするな。




「じゃあ、」


「…待ちやがれぇ」




咄嗟に声が出た。


咄嗟に、手が出た。




「スクアーロ、さん…?」




俺は、何を?








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