021「契約について。」
無事披露宴も終わり、皆くたくたになったところで、1日は終了した。
あのあと。
わたしはルッスーリアからのメールで起こされた。
何かって?
任務という名の命令さ。
内容は、
『ボスの部屋に指輪を持って行ってちょうだい(ハート』
というものだった。
指輪というのは、間違いなく結婚指輪のことであろう。
ちなみにそのメールには続きがあって、下にスクロールすると、こんな文章があった。
『ガサツなボスのことだから、もしかしたら満天ちゃん、剥かれたままになってるかもしれないわ!
温かい服か何かも持って行ってあげてね(ハート
あっ!
最中だったら、どんなだったかワタシにも詳しく教えてちょうだいね(ハート(ハート(ハート』
というものだった。
わたしは思わず吹き出した。
最中とか生々しいことを言わないでほしいもんだ。
その後はルッスの指示通りのものと届いたばかりの指輪を、落とさないよう慎重に厳重に持っていった。
残念ながらルッスが想像していたような場面ではなかった。
その日はなんだか、ボスと話すのが異様にストレスだった。
朝起きれば、それからの記憶は曖昧で、自室のベッドに倒れ込んで眠ったことし覚えていなかった。
―――――――――……
「Finally I have you where I want you , Can't take any chances for fear I'd lose you …」
(やっとのことで手に入れたあなたよ、手放す訳にはいかないでしょう?)
おもむろにそう呟いていた。
無意識というやつか。
そう呟いた自分自身にはっとして、あたりを見渡した。
見慣れた部屋だ。
良かった、と、何故だかよくわからない安堵のため息を吐いた。
しんと静まりかえった部屋で、珠紀はひとりベッドに座っているだけ。
「…だめ、だなぁ」
そう小さく呟く珠紀。
膝を抱えて丸くなる。
「イツキ……」
会いたいよ。
あなたに 会いたい。
もしも一万人のヒトを殺せばあなたに会えるというのなら、わたしは迷わず彼らを殺めに行くでしょう。
その途中、自らが命を落としたって構いはしない。
それはなぜなら、死んだら死んだで、あなたに会いにいけるから。
けれどきっと神様、あなたは凄く意地悪な存在だから、わたしが死んでもあの人には会わせてはもらえないんだろうね。
知ってるの。
天国に行けるのはいい人間だけだって。
知ってるの。
この先には天国なんかなくって、地獄しかないってことも。
守りたかった。
いつも、なんだかんだでわたしを守ってくれていた、優しくて綺麗なあなたを。
失いたくなかった。
わたしがこの世界でイチバン愛していた、あなたを。
やっとの思いで手に入れた、あなたを。
手放したくなんて、なかった。
と、そのときだ。
膝を抱えて丸くなっているわたしの肩めがけて、何か硬くて重いものが凄い勢いでアタックしてきた。
凄く…硬いです。
そして痛い。
そんでもって、こんな言い回ししているわたしも、イタイ。
ベッドから起き上がってみると、足下には、懐かしい…アルマジロが丸まっていた。
きっと、こいつだろう。
飛んできたのは。
わたしはアルマジロのにゅうたろうを拾い上げた。
「よう、久しぶりだな」
うるせえわ。
挨拶をする暇があるのなら、すぐにでも本題に入ってほしいくらいだ。
ずっと見ていなかったのに。
もういなくなったかと思ってた、というか、管理人なんてさっきまで存在も忘れていたのに。
そんだけ存在感の薄いお前らが今更何の用が?
というか、この小動物らのせいで、話がややこしくなったんだけど、どうにかしてほしい。
大体なんなんだよ『憎しみの契約(※1)』って。
意味わかんねーよ。
<※1)詳しくは、『はじめましてハケンさん』
015「refrigerator」
〜 017「力」
のあたりを読んでね☆>
某電気ネズミの飼い主の中の人が言ってる『闇のゲーム』みたいなもんなの?
『ドロー!』とか言えばいいの?
『俺のターン!』とか言えばいいの?
残念だったな、もうずっとお前らのターンだろうがよ。
ギュィインッと転がりながら、わたしの手をすり抜け床に着地するにゅうたろう。
バインバイン跳ねてからすちゃっと着地するその姿は、オリンピックの体操選手さながらだった。
綺麗なフォームだ。
見た目はどう見てもアルマジロなんだけどね。
抗えない現実だ。
すると、わらわらっとどこから出てきたのか、ハリネズミのにゅるじろう、ハムスターのにゅるぞうが出てきた。
毎度毎度、ハリネズミの上になんぞ乗って痛くないのか。
この鮮やかな色の毛をしたネズミは。
「んで?どしたの」
「話ふるの早いですね」
こっちは進まなすぎてイライラしてるくらいなんですけど。
「じゃあ、仕方ないので本題に移りましょうよ、にゅるじろうのアニキ」
「そうだね、にゅうたろうから言ってよ」
「俺からか?…ち、わかったよ。言えばいいんだろ、言えば。」
「わあ、さっすがアニキっす!格が違うっす!」
「よせやい照れるだろ」
ほんと、毎度毎度イラッ☆とくる子芝居だ。
するとアルマジロのにゅうたろうがさささ、と前へ来て、わたしに向かって話始めた。
「発動しろ」
………………はあ?
何を意味不明なことを言っ「発動しろ」…2回言わなくても聞こえとるわ。
あれか、『大事なことなので2回言いました』か。
「かみまみた」
「いやそのネタもういいわ。…てか、なに?いきなり発動しろって……」
ツッコミによるエンドレスボケへの終止符を打つと、今までふざけていたアルマジロのにゅうたろうが、キリッとした表情になる。
実際あまり顔自体の変化はないんだけど…
(まあ動物だし…)
雰囲気が今までとは違うように、がらりと変わったのだ。
「お前さん、前に俺たちと結んだ契約を覚えてるか?」
あの、憎しみの契約とかいうやつのことを言っているのだろうか。
「覚えてるよ」
「あいつは実は、慣れない奴が無闇やたらと発動すると、身体にかなりの負荷を与えることがあるんだ」
「…まあ、『憎しみ』っていうくらいだから、そんな良いもんでもないんでしょ」
そう言えば、無い首を前にコクリと頷かせるアルマジロ。
と、ハリネズミとハムスター。
「だから、今日はお前をテストしようと思う。いいか?」
いや、あんたら、元からわたしの話なんて聞くつもりないだろが。
どちらにせよ『イエス』と答えなければ進めないんだろう。
初めから、それしか選択肢は与えられていないんだろう。
反論しても無駄だとわかっているから、何もいわないでそれに従う。
郷に入っては郷に従えと言うことわざがあるくらいだ。
この部屋に入ってきたときには既にこいつらはいた。
なら従うべきはわたしだ。
こんな小動物ごときに従うのも何かおかしいんだけれど…。
「その様子じゃ、答えは『イエス』のようだな。」
「…うん。けど、その前にちょっといい?」
「なんだ?」
わたしは、ずっと気になっていたことを訪ねる。
「この『憎しみの契約』とやらは、わたしでなければいけないの?」
なぜ、この契約にわたしが選ばれたのか。
わたしよりも優秀な奴や、血気盛んなやつ…
こんなんが相応しい奴なんて、世界中探せばどこにだっているだろう。
と、ハリネズミのにゅるじろうが口を開いた。
「それは…ですね…」
「うん」
「でかい憎しみ一つを抱えている、という点と……」
なんだかもったいぶるな。
「…この部屋に越してきたから、かな?」
笑顔で言うハリネズミ。
それを見るハムスター。
ああ、夢ならさめてほしい。
わたしはホントについてない。
、
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