020「bouquet toss」
真っ白い空間。
念のため言っておくが、病院ではなく教会だ。
ヴァリアー内になぜ教会があるかというと、XANXUSが10歳の頃、9代目が
「うちの可愛い可愛いザンちゃんはカトリックなのぢゃ!どうせザンちゃんはヴァリアーのボスにしようと思っとるし〜
そうぢゃ!ヴァリアーに教会を作っちゃえばいいんぢゃないかの〜!!
オホッ!ワシって天才?」
とか言いだして作らせたからである。
とまあ出だしはふざけていたが、さすがボンゴレファミリーといったところだろう。
内装はしっかりしているし、一番高いところに至っては3階分も突き抜けて、吹き抜けになっている。
光も十二分に差し込み、それにより輝く大きなステンドグラスもこれまた美しい。
教会が作られてから20余年あまりが経った今…
眠っていたマリア様が今やっと目覚めた、というところか。
マリア様も、待ちくたびれたことだろう。
―――それでは、次は新婦のご入場です…
アナウンスが流れると、ゆったりとした音楽と共に綺麗に彩られた白く大きな扉が開いた。
ほとんど真顔だが、どこか緊張したような雰囲気の、背の(どちらかといえば)低い女性。
彼女こそが満天(まて)。
沢田満天、現ボンゴレファミリーボスの姉である。
純白のウエディングドレスを纏った彼女は、本日の主役の一人。
背の高い、少し照れ臭そうな顔をした男性。
こちらは彼女の父である。
会場中の人が彼らに注目し、バージンロードを歩く姿を見守る。
その先には、いつもの凶悪面からは想像もできないほど穏やかな顔をした、我らがボス、XANXUSが。
父からXANXUSへと、満天の手が渡される。
実を言えば、『大人になってから』XANXUSと満天が会うのは、今日で2回目。
『幼い頃』は別として…。
それで夫婦になろうというのだから、凄いものだ。
「頼んだぞ。」
「…ああ。」
いよいよ緊張が解れたのか、溜まっていたものがこぼれたらしい。
満天の目からは、涙。
なんだ、あいつ、きちんと『嬉しい』んじゃん?
よかった。
「新婦はいかなるときも新郎を伴侶とし、永遠に愛する事を誓いますか?」
「新郎はいかなるときも新婦を伴侶とし、永遠に愛する事を誓いますか?」
神父のこれらの問いかけに、二人は、迷うことなく「誓います」と言った。
始まるまで、変な焦燥感に襲われていたことが、バカみたいに思えてきた。
不覚にも、目頭が熱くなる。
ふと隣を見れば、ベルはつまらなそうな顔。フランはマジ寝。
ルッスやレヴィはマジ泣き。
スクアーロさんは…目頭を押さえて俯いていた。
「それでは、誓いのキスを。」
神父が言った。
XANXUSがベールを捲る。
少し緊張しているのか頬が赤くなっている満天に、優しく微笑みかける。
「―――――……っ。」
それから、こちらには聞こえないくらい小さな声で何かを呟いて、満天が何か口を開いた瞬間。
XANXUSが、前に屈んで満天の唇にキスを落とした。
「ここに二人を夫婦と認めます!」
神父の声はきっと、あの二人には届いてないだろう…。
―――――――………
式が無事終了し、関係者は順々に会場を後にしていく。
終わってしまったな。
開放感やらなにやらで、軽くため息を吐く。
さあてわたしも帰ろうかな。
次は披露宴が待ってるよ、どうせみんな飲むばかりで、宴会みたいになるんだろうな。
うん、うん。
……………。
けどねえ。
少しだけ、待ってほしい。
スクアーロさん、わたしに「満天に花束渡せ」って言ったよね?
そう言ったのに、そんな場面ひとっつも無かったよね。
それどころか、よくよく考えてみれば、わたし、さっきの式で渡す用の花束さえ持ってなかったよね。
どういうことかな。
「あの、スクアーロさん、」
「?ああ…ほらよ」
「へっ?」
ぽいっと投げ渡された、ピンクや白、黄色に薄紫と言った花でいっぱいの、色とりどりのそれ。
花束だ。
「………遅くないですか」
「ああ?なんでだぁ」
なんでって、この花束、いまじゃなくって普通式で渡すものでしょうが。
そう心でツッコミをいれていると、スクアーロさんはフッとばかにしたように笑って言った。
「お前も満天も、渡せるような状態じゃなかっただろぉ」
わたしの頭をぐりぐりと撫でまわし、スクアーロさんは自室に戻っていった。
一人ぽつんと残されたわたしは、花束を見つめる。
目があった気がした。
「…人のこと言えないよね、スクアーロさんて。」
バアン!!
披露宴のためにお色直しをしようと控え室にいると、勢いよく扉が開いた。
「まあ、珠紀ちゃん!」
ママがそう言うのを聞いて、私は勢いよく振り向いた。
扉の方向には、でっかい花束を持った、珠紀がいた。
「失礼します」と一例してから、ツカツカと靴の底を踏み鳴らしてこちらにやってくる。
そうしてそのでかい花束をばさぁっと盛大に突きつけてきた。
「え?」
「やるよ、結婚祝いに金しかあげてなかったし」
こちらに来てから初めてまともに顔を合わせたかと思いきや、一番初めに発した言葉がこれ。
「あ、りがと…」
とりあえず受けとると、出ていこうとする珠紀。
「えっ、珠紀ちゃん、もう帰っちゃうの?」
「あ、ハイ、ちょっとやることが色々あるみたいで……」
そう言って笑って部屋を出ていこうとする珠紀。
どうしよう。このまま帰しちゃっていいの?
考えているうちに、私は知らず知らず、珠紀を呼び止めていた。
「どした?」
扉の前で振り向く珠紀。
どうしよう。
呼び止めてたはいいけど、ここからどうするかなんて…
ああ、そうだ。
「これ………投げるから、ちゃんと取ってよ?」
「…は?」
先ほど貰ったばかりの花束を大きく振りかぶる。
焦った顔の珠紀。
そうして――…
ばさぁあっ!
私は花束を―――投げた。
しかしそれは入り口側にいた珠紀には届くはずもなかった。
が、今花束は、伏せた状態の珠紀の腕の中にある。
「〜ってんめえ!なにしてんだッ!!」
プルプルと身体を振るわせて、ガバッと起き上がった珠紀。
そうだ。
私と珠紀のちょうど間くらいに落ちた花束を、珠紀はスライディングしてキャッチしたのだ。
あーあ、タイツ膝穴開いてる。
かわいそう。
ってまあ、私がやったんだけどさ。
ツカツカとまたこちらにあゆみ寄ってくる珠紀は、若干怒っていた。
「なーんで、せっかくあげたものを投げるかなあ…」
「え?ブーケトス」
ため息を吐いて言う珠紀にそう言うと、驚いていた。
実を言うと、今回の式で私はブーケトスというものをやっていなかったのだ。
これじゃあ次の縁結びに繋がらないよね、ってことでさ。
「次はお前が結婚する番だよ」
これ持ってって。
私花束よりお寿司連れてってくれたほうが嬉しいから。
そう言うと、驚きながらも呆れたように笑う。
「ハイハイかしこまりました。」
「回転寿司はいやだからね、高給取り」
「…お前、ヴァリアーの安月給なめんなよ」
そう言って、自分の持ち場に帰っていった珠紀。
嵐が過ぎ去ったみたいに、そこらには、色とりどりの綺麗な花びらが舞っていた。
「良かったわね、満天」
笑って言うママに、私は今日一番の笑顔になるようにして、こう答えた。
「うん。」
――――――――
あとがき
うんと。はい。
疲れました。
でも、やっと目標の話まで進むことができました。
次の目標はいよいよ『あのひと』に関してですね……頑張りますよ!!
←back next→