013「ウォーター」








「この小説、毎回グダグダな上暴挙しか起こってねえなぁ…」


「シッ!言っちゃダメですスクアーロさん!」






――――――――――…










「ベル、ベル。」

「ん?なーに、珠紀」



昼間の談話室にて。


やはり暇人が集まるようで、今日も決まってこの二人がいた。


なんだかすっかり仲が良い。

同じ年だからか。




「ヘレン・ケラーって知ってますか??」


「え、むしろそれ、知らないほうがおかしくね?
俺昔、ヘレンの本30回は読んだしー。」


「どんな話でしたっけ?」




そして変な話題しか出ないのもこの2人の特徴だ。


いきなり話題を振ったかと思えば、「ヘレン・ケラーってどんな話?」なのだ。




「そりゃあ…

『ヘレン、これが水よ!』

じゃね?」



「要約得意なんだね、ベル。」


「珠紀さーん、それ、要約って言うんですかー?」


「カエルは黙ってろし」



「その『し』は過去の助動詞『き』の連体形?

それともサ行変格動詞『す』の連用形?

はたまた副助詞の『し』?」



「…わりー珠紀、王子、日本語喋れるけど古典は無理。」


「ダサッ!王子(笑)ダサッ!ダッサッ!!」


「うるせーよカエル!」


「ゲロッ」




ベルとフランの喧嘩を暇そうに見ている珠紀。

なにか面白い暇つぶしはないかな、とぼうっとしている。


そうして、いきなりポンと手を打って、「そうだ」と立ち上がった。




「ヘレンにいろいろ教えてあげようか。」


「は?」




ベルとフランの二人は呆れ顔に近い表情。

というか、「意味がわからない」というような。


頭上に疑問符を浮かべて自分を凝視する2人に、珠紀は焦って訂正?を入れた。




「いや、ね?
もしサリバン先生みたいな状況になったら大変でしょ?」


「中々そんな状況、陥りたくても陥れませんけどねー」


「だからね、今から、ヘレンに何をどう教えたらいいのか、予行演習した方がいい気がするんだよね!」


「アホなんですかー
いや、アホです。」


「だからさ、ね!」


「ね じゃないですー
ダメだこの人話がまるで伝わりません…」




言葉のキャッチボールどころかバッティングさえ出来ないってどういうことですかー

フランはわかりやすいほど盛大にため息をついた。


養豚場の豚を見るような蔑んだ視線で珠紀を見ている。


が、珠紀はそんなの物ともせず、ただひたすら『サリバン計画forヘレン』を語りつづける。




「サリバン先生になれたら世界中のヘレンを救えるんだよ!
ねえ、だからヘレンに世界を教えてあげなきゃいけないんだよ!
人間なにかするには練習がつきものでしょ?
だからヘレンを救うためにも練習が必要なの!」




だんだん趣旨がズレてきてしまったことに気づいているのはフランだけだったみたいで。




「わかったから珠紀、俺もうこれ以上はノイローゼになる気がするからやめて!」


「いいんですかーそれで」


「おおさすがベル、フランとは格が違うよ、物分かりの良さが!」




折れたのはベルだった。

というか半分感化されている気がする。


ベルの『サリバン計画』への賛同(?)により、更にテンションが上がる珠紀。

キャアキャアとしている。




「じゃあ、2人とも。早速はじめようか!」




フランが「ミーやるなんて言ってませんがー」と愚痴り出しても気にしない。


あえて言い訳をするなら、


「上司のベルが承諾したんだからあなたも強制参加。

に、決まってる。」


である。

仕方ない。
部下が上司の尻拭いをするのは、この世のしきたりだから。




「じゃあ役をきめようか。」




今日一番輝いている。


声色が弾んでいるので、多分、なにか嫌なことになるに違いない。

珠紀のハイテンション時なんて大体そんなものだ。


変な役になる前に、何もしなくていいポジションを確保しなくては。

が、フランの推測も虚しく。




「ミーはお父さn「フランがヘレンね!」…。」


「ししっ
よかったなカエル」


「…ここまで徹底された無視だとむしろ清々しいですー」




ローマ字にしたら子音が同じだしね!

珠紀は言った。










多分こういうことだろう。


これとフラン…ヘレン役になることになにが関係あるのかは分からないが。




「ベルは助手。
私はサリバン先生ね!」


「結局お前がサリバン先生やりたかっただけじゃん」


「ヘレン、これが水よ!ウォーター、ウォーター!!」


「もう成り切ってるし」




すでにひとりでノリノリの珠紀は、フランを座らせて、隣に膝をついた。


そしてポケットから、絵の具のチューブを取り出した。


色は、白、黒、緑の三色。

アクリルガッシュだ。



これが、最初に教えるものらしい。




「ごめん珠紀」


「ん?」


「それどうすんの。」


「教えるんだよ?
油のが分かりやすかったかなあとも思ったんだけど…」




そういう問題じゃない。




「いや、教えるってどうやって教えるつもりですかー

いくらなんでも、偏食のミーでも、絵の具なんて食べれませんよー?」




不安そうに頬の筋肉をひくつかせる。

珠紀はそんなフランににっこりと微笑む。



そして白の絵の具を…










ぶりゅぶちゅっ!






「ああああああああああ」



「フラン!これが白の絵の具よ!粒子を感じるでしょ!」



「…うわぁ」





フランの手の平に白のアクリル絵の具をぶちまけ、擦り込むように触らせる。



いつもなら珠紀の力なんてフランに敵いもしない。

が、今は、ちがう。


手の平の、ぬるぬるとも言えずねちょねちょとも言えない感覚が、フランの力を奪っているのだ。

何たって、搾りたてのカタマリの絵の具。



これは、中々体験したことのある人は少ないだろう。


素手で絵を描くことがあるやつか、ぶっちょり絵の具をぶちまけてしまうやつくらいだ。




「うわああああああやああああああ……」


「さあフラン、これは黒の絵の具よ!白より粒子が大きいでしょ?感じるでしょ?」




ベルはもうドン引きだ。

お母さん役なのに。


なんだ、娘の成長を見守るお母さんなのか?



普通娘がこんな目に合っていたら助ける。


なんか気持ち悪いもん。




フランはもう涙目だ。




「緑はどうしようね?」


「もういいですー!珠紀、やめてくださいもうこれ気持ち悪いですー!」


「フラン!これが緑よ!」


「いやあああああああ!」


「サリバン先生もうやめてあげてえええええ!!!」




強行手段にでるサリバン先生でした。








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