012「低血圧高血糖」








幹部と任務週間が終了し、無事、ヴァリアーでの仕事がどんなものかわかった珠紀。



あの人はこんな人。


この人はそんな人。



観察能力の無い私にも、ヴァリアーの皆さんの個性というものがわかってきた。




「珠紀ちゃん、おはよう」

「おはよう、ルッス…」




そうしてまぁ、今は朝なわけなのですが……はい、ええ、眠いですね。




「珠紀ちゃん、ずいぶん機嫌が悪いみたいだけど、大丈夫なの?
スクアーロやベルちゃんとなにかあったの?それともレヴィ?」




低血圧なんです。

許してください。


何度か病院で血圧を計ったけれど、毎度毎度「大丈夫なの?」と心配されたり、「低っ!!」とただひたすら驚かれたり。



低血圧高血糖です。


にぃもそんな感じです。



ちなみに言うとコレステロール値も高いと思います。



なんたって塩分命だから。


…日本人なの!いいの!!




「なるほどねぇ…血圧も日によって低い・高いがあるのかしら?」




いいえ、ただ、「ボロ」が出て来ただけだと思います。



(これでも)気を張って、この一週間生活してきたのだ。


そろそろ気も緩み、ボロが出てくるのが普通だろう。



大体、学校生活なんかでもそんな感じだった。




「あれ、珠紀じゃん。…どしたのこれ。」

「あらベルちゃん、おはよう。
それがね、珠紀ちゃんてば低血圧だったみたいで…」

「はよ。って、低血圧?こいつが?嘘だろ?」

「本当みたいなの。私もまさか珠紀ちゃんに限ってって一瞬疑ったけど…

この機嫌の悪さが証明してくれてると思って。」




失礼なやっちゃなあ。


なんだか眠気と行き場のないイライラに襲われて、ナレーションすら適当になってきた気がする。

気のせいかな。

いや気のせいじゃないな。




「でもさ、今までなんともなかったじゃん?」




ボロです。




「そうよねえ…おかしい話だとは思うんだけど」




ボロです。




「あ、珠紀さん、おはようございまーす」




ボロでs…あ、ちがった。おはよう。

口には出さないけど。
出す気力が出ないから。




「…珠紀さん、どうしたんですかー、これ」


「私たちもよくわからないのよ〜…
低血圧という情報しかないんだもの。

ただ、切れさせて大変なことになってもいやだから、そっとしといてあげて。」


「オカマの説教とか吐きそうですー」


「んまっ!!」




プンスカするルッスだが、私のことを考えてか、怒りはしなかった。


と、そこに、




「う゛おぉぉい!珠紀、いるかあ!?」




スクアーロが……



勢いよく、


扉を外しながら、


走り込んで、



部屋へ入ってきた。




「スクアーロ!今は珠紀ちゃんに関わらないでおいt…」


「あぁ?」




意味がわからないと言った状態で、ルッスーリアを無視しながら、珠紀のもとへツカツカと進む。


「はあああ…」とルッスーリアは大きくため息をついている。

ベルはおもしろそうに笑っていた。




「う゛おぉい珠紀…
お前、報告書の誤字多過ぎだあ。しかも、日本語ってなあ、ここはイタリアだぞぉ?」


「………」


「しっかり切り替えろぉ。
日本でなら日本語でいいが、イタリアでならイタリア語。これは基本だからなぁ…」


「………」


「日本語で生きてきたお前には辛いだろうが、俺達も一緒だったんだぁ。
イタリアで生きてきたが、死ぬ気で最低5ヶ国語をマスターしたんだ。
だから、お前も…」




ここで、珠紀がぶちギレた。


ゆらぁ…とソファーから立ち上がり、スクアーロをじっと見つめる。




「珠紀?」


「…ですよ」


「あ?」


「…わかってるって言ってんですよそれくらい。

それともなんですか、スクアーロさん。あなたは1週間や2週間で外国語をマスターできるとでも?
しかも働きながら。

いきなり大学出てまで手に入れた職を奪われて、いきなり右も左もわからないイタリアに飛ばされて、なんですか。

報告書くらい日本語じゃいけませんか!
英語で書けというなら無理ですよ。残念ながらわたしは文系じゃありませんからね。

外国語で書いてほしいなら、今すぐ言語学なんかを専門に習ってる奴を連れてきてください。

わたしは日本人なんです。勉強は大嫌いなんです。
わたしに職を返してから言ってくれませんか。」




ベルが爆笑しているのが聞こえる。



「わ、わりい」



全然悪くないのに、つい謝るスクアーロ。

と、ここで珠紀はハッとした。




「あ……ご、ごめんなさいいいいっ!!!」



「え、珠紀ちゃん!?」


「逃げたし!ししっ…ぶ、くくっ…」




ぽかーんとして、珠紀の去った方向を見るスクアーロ。




虚しくも、自分の壊した扉が、キイキイと音を立てて揺れていた。







―――――……





翌日。


スクアーロの部屋の前には、箱菓子と封筒が置かれていた。




『イタリア語辞典買いました。』




封筒にはこうあった。


そして中には、イタリア語辞典やイタリア語入門問題集が映った、一枚の写真。



差出人の名前は無かった。





「………あいつかぁ」





特定はされたというオチで終わったが。








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