9.5《009裏話》






―スクアーロside





疲れた。

とんでもなく疲れた。


2日前。

珠紀という残念な女がヴァリアーにやってきた。

そいつは雲雀恭弥の妹だった。俺は驚いた。


そしてそいつの指導係に任命された俺は、幹部へ支持を下し、教育プランのようなものを練った。



それを実行しつつ、本業である暗殺部隊としての仕事もこなす。


珠紀への教育にも使えるような任務を他に回したので、俺は必然的にキツイ任務に付くことになる。

昨日、今日とそれをこなした。


出発は朝の5時頃で、帰ってくるのは夜9時を回っている。

こんな生活が5日も続いたら、多分来週、俺は倒れるだろう。


帰ってきてからも、任務結果報告書の作成という、俺が苦手とするデスクワークが待っているのだから。



まあ、倒れたら倒れたで休めるしいいか。


なんて甘いことを考えながら、つかの間の休息でも味わおうと、広間へ向かった。



こんな時間だ。

どうせ誰もいるまい。


そう思っていた。

のに、




「……珠紀、かぁ?」


「あ…スクアーロさん。」


「…よお」




珠紀がいた。

いま俺がこんな目にあっている元凶の人物である。


あいつもこんな時間にだれも来るまいと思っていたのだろう。

大きな目をぱちくりとさせてこちらを見ている。



晩飯でも作っているのか。


そんな時間があって羨ましいもんだぜ。


そう心の中で皮肉を言いながら、俺はどかりとソファへ腰かけた。



疲れた体を少しでも休ませたくて、頭を抑える。


すると、自然にため息がでてくる。

俺に幸せが寄ってこないのは、たぶんこの癖のせいだろう。



ソファに血がつくことなんて気にもせず、ソファに身をあずけた。


汚れたって、掃除費は給料からさし引かれるだけだろう。



どうせ給料の使い道なんざ、少ない携帯料金と、貯金分位だ。


とくに問題はない。



なんだか眠気が襲ってきて、ぼうっとしていると、




「あの、スクアーロさん」




声をかけられた。




「…あぁ、珠紀かぁ。どうしたぁ?」




ねぼけ目のまま、焦点を合わせようと珠紀を見る。


すると、



「あの、これ…」



差し出してきたのは、




「…ミネストローネ、かぁ?」

「一応…
よかったらどうぞ」




あたたかそうなミネストローネだった。


料理の出来なそうな顔してるが、案外できるもんなんだなぁ。

香りの時点では美味そうだ。


なんだか、あっけにとられてしまった。




「…スクアーロさん?」

「あ?あ、あぁ…すまねえ。
ありがたくいただくぜぇ。」




受け取ってやると、軽く笑った珠紀。


やっぱり、こうしてると普通にかわいいのになぁ…。



ミネストローネを口に含んでみた。

これは…




「…うめぇ。」

「!
ほんとですか」

「ああ、普通にうめぇ。」




自然に出てきたこの言葉。

言ったあとになんだか恥ずかしくなる。


…それよりも、なんでコイツは俺にスープなんざ作ってくれたんだ。



俺から優しくした覚えもねえし、ましてや、恋人のような間柄でもねえ。


むしろ俺は、どちらかというと酷く当たっているような気もしないでもない位だ。





「なあ、」

「はいなんでしょう?」




機嫌がいいのか、ニッコリと笑って答える珠紀。


なんで、お前は…




「…なんでもねぇ」

「え?」




聞けるわけもねえ。

変に期待した自分が恥ずかしくなってきた。


ダメだ。

このままじゃ埒あかねえ、早く部屋に帰ろう。


顔が熱い。




「スクアーロさん。

耳赤いですよ。」




ほら。

こいつが鈍感でなければ俺は大恥をかいてるところだ。




「気にすんなぁ。

…じゃあ、ありがとうな。」


「へ?あ、はい…」




スープのなくなった器をテーブルに置いて、立ち上がり入口へ向かう。


すると後ろで珠紀ががたッと音を立て立ち上がり、




「お、おやすみなさい!」




こう叫んできた。




「!
…ああ、」




本当に、お前って。




俺は静かに扉を閉めた。









back next

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -