009「初任務」








Q:初任務はどうでしたか?




「いやぁ、緊張しましたね。


どちらかと言うと、008のタイトル(008「失態!」)はこっちに相応しかったんじゃないかな、うん。」






Q:どんな失敗をしました?




「言いたくありませんね。


ひとつ挙げるなら、天井裏から落ちて敵に居場所がバレて、重役だけ殺せばよかったところを、やってきた部下全員殺ってしまったことかな。


ああ、殺ってたのはベルだけどね!!


あくまで私は傍観者でした。」






Q:ベルさんへの印象を聞かせていただけますか?




「それを聞くんですか。


切り裂き王子の異名は伊達じゃないなって感じでした。」






Q:本当にそれだけですか?




「他に何をいえと!?



まったくここの管理人は物事を荒々しく進めすぎなんだよ!」






Q:すみませんでした。




「もう…いいよ。」












――――――――――











「はぁぁ〜…」




ぼふっ



ベッドのマットレスが、倒れ込んだ体を弾く。



ここのマット意外に硬いもんだから、顔面から倒れると案外鼻先とか痛くするんだよね。


だから、布団を敷ける畳の部屋のほうがいいんだよ。

真新しい畳のニオイっていったら、堪らないよね。



なんだかこんなところでも母国が恋しくなってきた。




「日本に帰りたい……」




不意にそんな言葉がでた。



辛い仕事なんだろうと思ってはいたけど、なんていうか、うん。


思った通りきつかった。



ただでさえ運動する人間じゃないし、社会人になってからはなおさら体育とかやらなくなったし…


並小時代が黄金期の私が、社会人になった今、こんな激しい動きをするなんて。



あれほどの動きを出来たのは奇跡な気がする。




「はぁ…」




ため息が漏れた。




「…あんた、アホすぎて、見てると飽きないですねー。」


「え?」


「ここですー」




声の聞こえる方向…いや、上なんだけど。なにこれ上なんだけど?

上を見た。


すると、




「こんばんはー」




天井に体育座りしているフランがいた。




「え…えええええええ!?
な、ななな…えええ!?

なに…なんでフラン天井にいるnくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」


「古い手を使いますねー。

ていうか、意外ですー。


あんたみたいなのが他人の名前覚えてられるなんて。」



「どういう意味?」


「わからないんですかー?
マジモンのアホですね。


ほら、だって今あんたミーのこと、《フラン》って言ったでしょー?」




……え、だからなんだと?



なに、他人の名前を覚えているというだけで驚かれるような人間なの?私は。

一体どんだけハイレベルなアホだと思われてんですか?私は。



シュタッ



軽やかにフランが天井から降りてくる。


…本来であれば、こんな日本語の使い方は誤ってるんですけどね。




「で、明日はミーとの任務になるわけですが…」

「あ、そうなんだ。」


「他人の話を半日も覚えてられないなんてやっぱりアホですねー。


まあ、自慢じゃないんですけど、ミーはヴァリアーの中でも体力はバリバリ底辺なんでー。



あんたに頑張ってもらおうと思ってたんで、是非ミーのために頑張ってくださいねー。


珠紀。」




ふ ざ け ん な。



ツッコミを入れるまもなく、フランは細かい粒子になって姿を消した。


というか、あいつはなんのために来たんだろう。



霧だもんね。
術師だよね。


しかも、フランは確か六道骸と師弟関係にあるとかないとか…


そりゃあ性根が腐るのも無理無いかな。

仕方ない。


ただ、幻術の無駄遣いだ。




「はぁ…」




なんだろう。


なんで私、こんなにため息ついてるんだろう。


だめだだめだ。


ため息はついたら吸わなきゃ。





「すぅぅぅぅぅぅ…」




ガチャ




「…やっぱりアホですねー」


「ほぁっ!!?」




バタン




……本当に性根が腐りきってるみたいだ!!




とりあえず、晩ご飯に間に合わなくてお腹が空いたので、広間へ行くことにしよう。










――――――――――










朝から約半日ぶりの広間。


時間帯も時間帯だからか、やっぱり誰もいない。

任務終わりの夜なんかに来てもいいって話があったから来んだけどな…


若干怖い。


備え付けのキッチンでスープでも作ろうかな、と思っていると、扉が勢いよく開いた。




「……珠紀、かぁ?」


「あ…スクアーロさん。」


「…よお」




つかつかと歩いて、どかりとソファに腰掛けたスクアーロさん。


任務帰りまっすぐここに来たのかな。すごく疲れてるみたい。


目頭から頭のあたりを手で覆いながら、ため息をついている。



ここに来てからの、およそ2日ぶりに会ったけど…疲れが相当溜まってるのか、やつれて見えた。



それと、軽く血の臭いがする。


私の鼻がいいのは、よかったのか悪かったのか…。




スープを作りながら、私は少しだけ考えた。



疲れを癒してあげられないだろうか、と。



だが、スクアーロさんのことを深く知っているわけでもない私には、結局どうすることもできない。

なんだか虚しい気分になった。



ああ、そうだ。


こんな寒い中で、遅くまで任務をこなして帰ってきたんだ。

せめて、体を温めてもらったらどうだろうか。


ちょうどいま作っているのはミネストローネだ。

トマトとマカロニがあったから作ったんだ。



料理が得意でない私だけど、この料理なら、自信がある。

並中時代からの友人である満天は料理が得意なので、以前教えてもらったのだ。



そうと決めたら即実行が私のモットーだ。

スープマグを戸棚から2つ取り出し、ミネストローネを盛り、小さめのスプーンを用意した。


ソファの方へ行くと、スクアーロさんは全然動かなかった。


…寝てる?のかな?




「あの、スクアーロさん」

「…?…あぁ、珠紀かぁ。どうしたぁ?」




ああ、やっぱり寝てたみたいだ。

起こしてしまったとか、なんだか余計に申し訳ない気分になる。


寝ぼけ目で、声に力がない。

いつもと違うスクアーロさんに少しだけ胸が脈打つ。


いけない、いけない。

スープが冷めてしまったら、体を温めて疲れを癒してもらう作戦が台無しだ。




「あの、これ…」

「…ミネストローネ、かぁ?」

「一応…
よかったらどうぞ」




渡そうとしたのだが、スクアーロさんはマグを受け取ってくれない。




「…スクアーロさん?」

「あ?あ、あぁ…すまねえ。
ありがたくいただくぜぇ。」




寝ぼけてたのかな?


とりあえず受け取ってくれたので、私も隣に腰掛けて、ミネストローネを口にする。


自画自賛するようだけど、美味しい。

というか本場のトマトが美味い。やばい。美味い。


下を火傷しない程度にちょびちょび啜っていると、スクアーロさんが口を開いた。




「…うめぇ。」

「!
ほんとですか」

「ああ、普通にうめぇ。」




なんだか「美味しい」とか言うタイプには見えなかったのに、褒められてちょっとびっくりする。




「なあ、」

「はいなんでしょう?」

「…なんでもねぇ」

「え?」




なんですか。

なんで顔赤い…あれ?


そっぽを向かれてしまった。




「スクアーロさん。

耳赤いですよ。」


「気にすんなぁ。

…じゃあ、ありがとうな。」


「へ?あ、はい…」




マグを置いて、足早に部屋を去ろうとするスクアーロさん。




「お、おやすみなさい!」

「!
…ああ、」




バタン


扉が閉まった。



部屋には私一人だけになった。


なんだろう。

あのときのスクアーロさん、恥ずかしそうな表情してた。


スープ作られて照れるような要素がどこに?


疑問だわ。




「ま、いっか。」




疲れが少しでも癒せたならよかったんだけどな。










‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
あとがき

はじめてのあとがきですね。
本来であればあとがきは毎回書きたいのですが…ええ、ちょっと、この書き方だとあとがきが出来ないもので。

今回の話ですが。
ネタ切れかな、と思いつつ進めていたら、なんだか予想外の鮫との甘い展開になってしまいました。
いや、鮫夢だから、いままでの鮫が出ないはなしのが異常だったのかもしれないけど…。

きっとね、鮫さんはね、もう珠紀さんに惚れてるんじゃないかな。

第一印象は気持ち悪かったけど、第二印象は「かわいい」だったわけだし。
第三印象は気持ち悪かったけど。
今回は第四印象位ですかね?たぶん「天然男たらし」的なこと思ってんじゃないですかね。

あ。ちなみにこの話で出てくる「満天(まて)」は、リア友紀茶さんのHP「Polso」にあるXANXUS夢主人公さんです。
綱吉の姉で、ある日突然XANXUSのもとにとつがされてしまう娘さんです。
もう大人の階段を登ったみたいです。

あちらとこちらは微妙にリンクしていまして、こちらに満天さんが出てきているように、あちらにも我が家の珠紀さんも出てきてますよ。
よかったら紀茶さん家に見に行ってみてくだされ。

そのうち姿…というか、会話もさせたりしたいんですけどね、話が進まないことにはどうにも…。
今の任務の話(推定残り2話)が終わって、日常的な話(推定3話)をやった後に、「XANXUS結婚編」と称しまして、満天さんをヴァリアーに引っ越させて来る予定です。

出演はあれでしょうが。
珠紀さん以上にはありませんが。

あちらにはあちらの話があるので…あくまで珠紀さんsideな物語の展開をしていけたらな、と思います。

…うん、長い!
終わります。







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