008「失態!」








チュンチュン…


チュン、チュンチュン…




ああ、聞こえるはずのない雀の声が聞こえる。



朝だなあって感覚にはなれるけど、なんかおかしいっていうね。


だって、なんてったって、雀の声が電子的だから。

リピートしてるし。



そうだ。

現代の文明の利器…


携帯電話の目覚まし機能(♪雀の鳴き声)で目が覚めた私。


…説明が長い。
起きるまでの説明が。




ああ、なんだろう。

地味に寝覚めが悪い。


けれども動かないわけにもいかず、昨日やっとこさ片付けた荷物からロンTを取り出して着替える。


上は黒の柄物のロンT、下は隊服のスカートで、下にはスパッツ常備。

完璧だ。
(防御的な意味で。)



今日からは(簡単ではあるが)任務に移るということで、ラフな格好では過ごしてられない。


ニーハイを履き、真新しいロングブーツをきっちり履いて、私は部屋を出た。










「おはようございます、ルッスーリアさ…ルッス」

「あらぁ、もっと砕けちゃっていいのよ〜!おはよう」



朝から語尾にハートとは、なかなか強者だ、ルッス。


ああ、私にはまるで無理だわ、こんなハイテンションは。



「今日から任務よね?
頑張って頂戴!」

「ありがとう、がんばる。」

「ちなみに今日珠紀ちゃんと任務に行く幹部は知ってる〜?」

「あ、知りません」



そういえば、はじめの任務は、ほかの幹部たちが付き添って一緒に行ってくれるらしい話を聞いた。



「今日は、ベルちゃんよ!」



ベル?

まじでか。



「嵐、霧、雷、晴、雨の順番で見ていくらしいわよ〜!

スクアーロが最後なんて、あなたなかなか運がいいんじゃない?」


「え、なんでですか?」



「だって、好みじゃない?」



ピタリ。

自分の体が静止するのが分かった。ぴたって。


今なんて言った?ルッス。今おかしいこと言ったよね?



「好みって、」

「あら、珠紀ちゃん、てっきりもうスクに惚れてるのかと思ったわ」



どこからそんな考えが出てきたんですか。



「あの、なんでまた」

「だってぇ、案内だとか、いろいろ優しくされてるんじゃないの?」

「…ベルのが優しいですよ、なんか」

「…ベルちゃん?」




え、なんで引いたの。

オカマに全力で引かれるとか、若干ショックなんですけど。




「なんでまたベルちゃんなんて…

いえ、顔はいいのよ?いつも隠れてよく分からないけど、いいのよ。

色白で細身で、濃すぎない顔立ちに、透き通った瞳…

イケメンすぎるほどよ。


けど、優しさのカケラなんて少しも…


もしかして、珠紀ちゃんはダメ男に惚れるタイプなのかしら?」


「惚れてませんし。
違いますね、それは。

いや、わざわざ荷物届けてくれたり、片付け手伝ってくれたり、励ましてくれたり…

十分優しいですよ。」




いや、だから、引くのやめてくんないかな。

どん引きじゃん。


事実を言っただけなのに。




「……スクアーロってば、どこまでも可哀相な男ね」


「へ?」


「いいえ、こっちの話よ。
気にしないで〜!」




変なルッスーリアだなあ。


…まあ、言っちゃえば毎日変なんだけども。



そうこうしているうちに、マグカップの中のスープと、お皿のサラダとフランスパンは無くなっていた。


本当に美味しいな、ルッスーリアの作るご飯。


花嫁修行はルッスのとこでやろう。




「さて、じゃあ任務に行ってらっしゃい!」

「うん、行ってきます。
ご飯ありがとね」


「あら〜いいのよ、私が好きで作ってるんだもの!

帰ってきたら話を聞かせてね〜ん!」

「うん、でも、投げキッスはアレかもしれない。」




行ってきます。

そう言って私は広間を出た。




任務に出発する際、集合する場所があるとか…


裏玄関前的な。

勝手口?
いや、これ日本か。


預かってた地図に色々メモされてたから、場所はわかるけど、一個だけ問題がある。




私が、方向音痴だということですよ。




まあ念のためと思って、集合20分前には出たんですがね。


ああ、念には念を入れたらよかったよ、にぃ…。




集合時刻 9:00

只今の時刻 8:55


目的地までの距離

不明。




現在地がどこかもわからなくなってしまいました。


え、あの、今何階?

西?東?それとも西?


ヤバイ。

…初日から怒られる。



ああ、もう私終わったな。


神様ごめんなさい。

違うか。





「何してるんですかー」



「……へ?」





後ろから声が聞こえて振り向くと、カエル頭の男の子。



黒くて目立つ帽子に、よく映えた白い肌と、エメラルドグリーンの髪。


綺麗だな。



…とまあ、カッコつけて話しましたが、この人も幹部なわけで。



確か名前はフラン。


ちなみに明日の任務を共にする人だ。…った気がする。



かわいい顔だなーって思って覚えてた。



…あ。

決してショタコンじゃないよ!ちがうよ!!



注)ショタコン…ショウタロウコンプレックスの略称。
かわいらしい少年が好きだという性癖をもつ人のこと。





「あ、ええと…」

「迷ったとかアホなこと言ったら殴りますからねー」

「…迷いました」

「そいやっ!」

「だっ」




マジで殴ってきた、こいつ!


年下の分際で…

あ、私後輩か。




「任務あるんでしょう?

行かないんですかー」


「行けないんです。」

「アホですか、あんた。」

「よく言われる。」




ほぼ初対面の人にアホ扱いとかなかなかやるなこの子。



ていうか早く行きたいんだけど。


只今の時刻 8:57




「まあ、迷ったんなら仕方ないですよねー。」




どこかへとフラフラ歩きだすフラン。

…結局放置か、私は。


ああ、怒られるの確定か…




「なに、ぼんやり突っ立ってんですかー」

「へ?」


「怒られるじゃ済みませんよ、遅刻なんて。」




ついてこい、ということだろうか。


歩いて角を曲がったら、扉があって、それを開けた。




「あ、珠紀じゃん。
…げ、クソガエル。」

「じゃ、ミーはこれでー」

「…え?」




どういうことだろう。

なんでこんなに早く?


まさか、私は目的地まであと少しのところを迷っていたって言うのだろうか。




「センパーイ、このアホな人は頼みましたー」




去ってしまったフラン。


というかアホとか久々に…いや、結構頻繁に言われるけど、たぶんヴァリアーじゃ初めて言われたよ。


やっぱり私は年下に舐められるタイプなんだろうか。




「…お前なにしてたわけ?」

「5m先で迷ってました。」

「はぁ?」

「あ、聞かないで、傷口はほじくらないで。」




とりあえず怒られずに済んだことだし、感謝はしておこう。








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