007「クール宅急便」









「………。」


「…大丈夫?」


「…はい、平気です。」




全てを聞いてしまった。


今まで自分が知らなかったこと全て。

今まで知らなかった、兄の気持ち。




「…ごめんなさい、やっぱり、全部を一気に話すのは、」

「いえ、いいんです。
ありがとうございます。」

「でも、」

「私、秘密は嫌いなんです。だから今はルッスーリアさんに感謝してますよ。」




朝ごはんを食べ終えて、ごちそうさまを言う。

言ってしまったあとに、「ああ、ここ日本じゃないんだっけ」と軽く後悔。


なんて言うんだろう。

キリスト教圏内の国だから、アーメンとでも唱えたらいいのかな?


アーメン。

もし間違っていたら恥ずかしいので、心の中でひっそりと唱えておく。



私が食べ終えるのを待っていてくれたルッスーリアさん。

一緒に立ち上がって、「食器は片しておくわ」と笑顔で言った。



申し訳ない気持ちはあるが、頼んで戻ることにした。


私はこのあと、クール便で届くはずの荷物を受け取って、更にそれを整理し部屋を掃除しなくてはならないからだ。



しかもそれは今日中でなければいけない。


…ボス、1日しか休暇くれなかったから。



とことん鬼畜だと思った。



いや、というよりも、他人が頑張っている(苦しんでいる)のを見るのを、楽しんでいるのかもしれない。



まだ1日分のボスしか知らないから、予想にすぎないけど…。




「じゃあ、すみませんが、お先に失礼しますね。

ルッスーリアさんのゴハン、すっごく美味しかったです。」


「あら、口が上手いわねえ」

「生まれて初めて言われました、そんなこと。」




今までボキャ貧ボキャ貧と罵られて生きてきたから、なんだか嬉しくなった。


部屋をあとにしようとすると、ルッスーリアさんに呼び止められた。




「ああ、そうそう!

珠紀ちゃんにひとつだけ、お願いしてもいいかしら?」




振り返ると、そう言うルッスーリアさん。


なんですか?私にできることなら、と答えると、ルッスーリアさんは笑顔で言った。




「私のことは、ルッスーリアさんじゃあなくて…

珠紀ちゃんにも、もっと親しみを込めて呼んで貰いたいの。


ルッスーリアだとか、ルッスだとか、みんな適当に呼んでるわ!

あ、もちろんルッス姉さんでもいいのよ〜ん!!」




投げキッスを喰らった。

いや、表現は間違ってません、喰らいました。


何事かと思いきや、そんなことか……

でも、私は仮にも日本人。


日本人らしく、慎ましく答えようと思います。




「あ、善処します!」




ルッスーリアはポカーンとしていた。



私は部屋をあとにした。










――――――――――









「ちわー
クール宅急便でーす」

「あ、はーい!」




驚いた。


イタリアでも、「ちわー宅急便でーす」って言ってくれるんだ。



日本だけじゃなかったとは、世界は広いな。




感心しながら扉を開けると、細身の体型の男の人が。


ウェーブのかかった柔らかそうな金髪が、色白の肌によく映えている。





「!
あ…ベルフェゴール」

「ししっ、はい荷物。」


「あ、りがとう」

「つーかベルでいーし。

あがってい?」

「え、うん。」




驚いた。


暗殺部隊一わがままで横暴な王子だと聞いていたんだけれど。



そんなベルフェゴールが、(お茶目な冗談を交えては来たが)わざわざ荷物を部屋まで届けてくれるだなんて。


多分、今日一番のサプライズだと思われる。




「あんさぁー」

「はい?」

「お前、ルッスから聞いた?イロイロ」

「あ、はい、さっき。」

「まあ俺もいたし知ってるんだけどな。」




いただって?


ちょっと待ってくれ。



……暗殺者って、こんなにタチが悪いんだ。




「お前が今のタイミングでここに来たことの理由はまだわかんねーけど。


でも、王子はわりとお前好きだよ。」



「へっ!?」

「生魚着てくる奴とかいないじゃん、そんな変な奴。」

「え、あ…
知ってるんですか。」




ちょっとビビッた。


愛の告白まがいの発言はやめてほしい。



ベルフェゴールは続けた。




「だからさ、あんま暗い顔で、俺と話さないでくんない?」


「え?」




なんだろう。

これ。


要するに、「気にするな」ってことを言いたいのかな。



…あまのじゃくだってのは、本当だったみたい。




「あー
あんま深く捕らえんなよ。」

「はい、ありがとうございます。」


「つーか同い年なんだろ?

敬語とかフルネームとか、よそよそしいの、王子キライなんだよね。」


「じゃあ、えと…」

「ベル。
さっきも言ったろ。」


「…ベル?」

「ご主人様でもいいぜ?」




それは勘弁願いたい。



てっきり、「強いの?」とか聞いたりするくらいだから、距離を置かれているものだと思ってたけど…


違ったみたい。



なんだか、仲良くしてもらえそうだ。


同年代の仕事仲間がいるっていうのも、なんだかんだ良い環境だ。




「さて。」

「?」


「掃除、すんだろ?」




ししっ 

と、自称王子様が笑った。



…全く、嫌な現実を思い出させてくれたものだ。





結局このあと私は、ベルに手伝ってもらいながら、(くっ喋るので遅くなり)夕食の頃まで部屋を片していた。








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