ドジで医者なハンジの妹
※ギャグ、のつもりです(下ネタ多め)
「紹介しよう、彼女は今日から本部の医務室に配属することになったユフィ・ゾエ。医者であり、私の妹ね。」
「みなさん、よろしくお願いします!」
ユフィはハキハキと幹部の面々に挨拶した。
堂々と微笑んでおり、その雰囲気は姉のハンジによく似ていた。
物珍しそうに幹部たちは新入りを見る。
ここにいる姉妹以外の誰もが思っていた。
この姉の妹とあれば、相当な変わり者に違いない、と。
「彼女、頭はいいんだけどかなりのドジっ子でね。元は中央憲兵にいたんだけど、そっちで色々やらかしちゃったらしくて。」
「それで調査兵団にってか?左遷じゃねぇか。気の毒にな。」
そこで入ったリヴァイのストレートなツッコミ。
すかさずユフィは反応した。
「ちょっとリヴァイ兵士長!言い方ってもんがあるでしょ!?」
そう言いながら最前列に立っていた彼に歩み寄ろうとしたが、足をもつれさせてつんのめる。
「んわっ!?」と奇声を上げてそのままリヴァイに突進し、彼もろとも床に倒れてしまった。
ぎゅむっ。
部屋に響く、妙な音。
「あー、一応言っておくと、ユフィはただのドジっ子じゃない。ドジのすべてをラッキースケベにすり替えてしまう特異体質の持ち主なんだ。」
倒れ込んだユフィのやわらかい胸に“ぎゅむっ”と顔面を圧迫されたリヴァイを見下ろし、姉は苦笑いしたのだった。
その日から兵団の賑やかさが増したのは言うまでもない。
ユフィがドジをしない日はなく、毎日偶発的なラッキースケベを幾度も繰り出していた。
なぜか彼女とよく顔を合わせるリヴァイは、もちろんその標的である。
「あ、リヴァイ兵士長!おはようございまひゃあ!」
あるときは偶然転がっていたバナナの皮に足を滑らせて転倒し、ちょうど目の前にいた彼にスカートの中身を盛大に披露したり。
「ちょっ!?リ、リヴァイ兵士長!ノックをしてください!」
またあるときは事務的な用があって医務室のドアを開けた彼に、着替え途中の下着姿を目撃されたり。
「きゃあああ!?なんでここにリヴァイ兵士長が!?」
さらに別の日には浴場の女風呂と間違えて入った男風呂で、やって来たリヴァイと裸で鉢合わせしてしまったり。
そういったドジを、ユフィは手を変え品を変えて毎日繰り出してくる。
初日にされた胸プレスは最低でも1日に1回は食らっているかもしれない。
もはや日課となりつつある。
普通の男であればラッキーな出来事だと捉えられるが、リヴァイは眉ひとつ動かさず、むしろハンジに文句を垂れ始める。
「なぁおい、あのドジな妹を何とかしろ。この数日間でむやみに胸を押し付けてきたり裸を見せられたり、お陰であいつのスリーサイズの目測がついちまう始末だ。それにさっきは何が起こったか分かるか?偶然かち合った資料室でだ、はしごからズリ落ちたあいつを支えようとしてケツを咄嗟にわし掴んじまった。」
「あらら、ご苦労様。」
「だがあの感触は悪くなかった。」
「え、リヴァイって尻フェチなの?へぇー知らなかったー。ていうかそんな報告いらないんだけど。」
まんざらでもないところはあるらしく、うんざりしながらも思い出すように手のひらをワキワキさせるリヴァイだ。
それを横目に、ハンジはペンを走らせながら脂ぎった髪をかく。
と、そのとき。
「お邪魔しまーす!姉さん、お茶でもどう!?」
「わっ!」
勢いよく研究室の扉が開いたかと思えばユフィが入ってきて、退室しようとしていたモブリットとぶつかりそうになった。
避けようとしたその拍子に、彼女が手に持っていたトレイからアイスハーブティーの入ったデキャンタが飛び出し、きれいな弧を描いて宙を舞い――
「あ。」
バシャリ。
降り注いだ液体と氷は、振り向いたリヴァイの股間に見事命中。
幸い、硬いデキャンタが彼の息子を強打することは免れ、ゴトンと床へ落下した。
「わあぁごめんなさい!!冷たいでしょ!?脱いで!!」
一瞬にして顔面蒼白になった彼女。
急いで彼のズボンを脱がそうとベルトに飛びついて手をかけ――
「下着も脱いでください!大丈夫です、例えあなたの局部がポークビッツだとしても医療従事者の私にとってはなんとも――」
ゴン!
「いだぁ!!」
リヴァイによる無言の鉄槌を食らったのであった。
***
その夜、ユフィは本部の屋上で膝を抱え、星空を眺めていた。
今夜の空に雲は少なく、無数の小さな星たちが瞬いている。
「おい。」
ふいに声がして振り向くと、入り口に私服のリヴァイが立っていた。
ランプを持った彼女が本部の屋上へ続く階段を上っている姿を偶然目撃したのだ。
「あ……、昼間はすみませんでした。」
彼は何も言わず、ぺこりと頭を下げたユフィの隣へ歩いてきた。
「こんなところで何やってる?」
問いかければ、姉と同じ色の瞳を再び夜空へ向ける。
どうやら気落ちしているようで、昼間のハキハキとした印象は見られない。
「落ち込むことがあると、一人でよくこうするんです。私、すごく不器用なのに医者なんかやってるもんだから、怒られることもたくさんあって。今日も……やらかしちゃったし。」
語尾にため息が交じる。
その物憂げな表情を、リヴァイは見つめた。
実は昼間の件が心に引っ掛かっていたのだ。
兵士ではない彼女の頭に拳を落としたのは少しやり過ぎだったかもしれない、と。
「お前の研究熱心は姉貴ゆずりだな。いや、姉以上に、集中すると周りが見えなくなる。」
たがら「集中していること以外」が疎かになってしまい、ドジに繋がるのだ。
そのドジがなぜラッキースケベになってしまうのかは謎だが。
「……中央憲兵にいたときは医療の研究を任されていたんです。でもある日視察にやってきてたお偉いさんたちを私のせいで大変な目に合わせてしまって……。」
おおよそ、すっ転んで得意の胸プレスでも発動させたのだろう。
「挨拶した日にあなたへやってしまったことと同じ内容をしでかしてしまったんです。あとデキャンタの中身もぶっかけてしまいました。」
なんとリヴァイの予想を大きく上回っていた。
きっと今日のように慌ててお偉いさんの下半身を丸出しにしたに違いない。
ここまでくるとむしろ清々しく思える。
やれやれと首を振り、また彼女はため息を吐いた。
「同僚たちの私に対する日々の不満が積み重なっていたこともあり、それがきっかけで研究室を追い出されてしまいました……。人生、うまくいかないものですね……。」
しょんもりとして膝に顎を預けたユフィ。
ラッキースケベはキャリアをも揺るがしてしまうらしい。
リヴァイは彼女を見下ろし、また口を開いた。
「……まあ、お前は粗相をしがちだが、やるべきことをきっちりやることはこの数日で分かった。大事なことはてめえの仕事場で仕事がきちんとできるかどうかだ。それに調査兵団ってのは元から変人の集まりだ。今さら変人が一人増えたからといって日々は大して変わらねぇ。」
「…………。」
「今思えば、前いた医師はどんくさいところがあった。それに比べりゃお前の手際の良さは比べ物にならねぇかもな。」
「…………。」
「あとお前は尻がいい。」
「ん?それはフォローになってませんね?」
思いがけず調査兵団兵士長の性癖が判明したことはさておいて。
彼女はリヴァイが彼なりに自分を励ましてくれているのだと分かった。
ぶっきらぼうだが仲間を大切にする、彼にはそういうところがある。
ユフィは調査兵団へきて彼らと過ごし、ほどなくしてそれを知った。
ここへきて日の浅い彼女への気遣いは、ユフィの口元に笑みを取り戻させるには十分だったようだ。
「……リヴァイ兵長、ありがとうございます。よーし、これから私も自由の翼の一枚として立派に調査兵を支えてみせますよ!」
気分が回復したことをアピールするべく彼女が勢いよく立ち上がってみせたとき、摩訶不思議なことに、足を置いた位地にちょうどくたびれたバナナの皮が落ちていた。
まるで“今です!”と言う天からのメッセージのごとく。
「ぅわぁ!」
そうすることが使命であるかのようにその皮でズルッと滑り、お決まりのパターンでリヴァイを巻き込み、彼の顔面に胸プレスをかましたユフィ。
「す、すみません!!」
慌てて腕を突っ張ってガバッと身を起こせば、ジト目のリヴァイが豊かな胸の谷間から姿を現す。
「クソが……。だから俺は胸より尻派だっつってんだろ。」
「こ、今度からは滑ったときにお尻を向けるように努力します!」
「そういう努力はいらん!それと言い忘れていたが俺の息子はポークビッツじゃねぇ!」
満天の夜空に、そして本部に、リヴァイの鋭い一喝が響き渡ったのだった。
それからしばらくの間、調査兵団の女兵士の間では、兵士長の股間が本当にポークビッツではないのか、それが真実なら実際はどのくらいであるのか、という話題でもちきりだったという。
ユフィは相変わらずドジだったが、変人慣れしている周囲はすぐに彼女への接し方を心得、無事に兵団へ溶け込んでいったのだった。
end.
※ユウさんの「ハンジの妹のドジっ子設定で甘かギャグ」のリクにお応えしました!
※ありがとうございました!
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