兵士長夫人の来客
お父さん、お母さん。
お元気ですか?
先日、初めてうちにお客さんが訪れました。
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「リヴァイって明後日休みだよね?幹部メンツで酒持ってお宅に乗り込むからよろしく!」
食堂で夕食をとっていると、ハンジがやってきて向かいの席に座りつつ親指を立てながらそう言った。
「あ?そりゃどういうことだメガネ。」
リヴァイは訝しげに眉をひそめる。
そんな反応も想定の範囲内な様子でハンジはカラッと笑った。
「いやぁ、あなたの奥さんに私たちも挨拶くらいしとこうと思ってね。」
「変な気を使うんじゃねぇ。」
ユフィの考えた献立であろうシチューを平らげる。
彼女が栄養士として働くようになってから食堂のメニューにレパートリーが増え、味もよくなった。
「気なんか使ってないさ!大切な戦友のパートナーなんだから、私たちが会いたいんだよ。」
リヴァイは、笑みを浮かべて答えを待つハンジを見た。
彼女は普段つかみ所がないが、聡い。
「……部屋を汚さねぇならいい。」
「よっし!じゃ、夕食を済ませて行くつもりだから、お気遣いはいらないからねって奥さんに伝えといてねー!」
席を立ち、そうまくし立てながらハンジは食堂を出ていった。
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そして二日後の夜。
エルヴィン、ミケ、ハンジが約束通り酒瓶を数本抱えて部屋に訪れた。
軽いおつまみやロック用の氷を作って出迎えたユフィにエルヴィンは、
「やっぱり良い奥さんじゃないか。」
とリヴァイの肩を軽く叩き、リヴァイは
「だから手ぇ出すなよ。」
と、初めて挨拶に行ったときと同じようなやりとりをしてユフィを微笑ませる。
それからハンジやミケとの挨拶を終えて(臭いをかぐのはリヴァイが阻止した)、互いのグラスに酒をそそぎ、宴は始まった。
ユフィは乾杯のときに少し飲んだが、グラスを運んだりつまみのおかわりを持ってきたりと忙しなく動き回っていた。
すると、
「奥さんも座りなよ〜!」
ハンジが上機嫌でユフィに声をかける。
「じゃあ……。」
ちょうど手も空いたので、リヴァイの隣に座ることにした。
リヴァイ以外はそれぞれ程よくお酒が回っているようだった。
「さっきエルヴィンも言ってたけど、ほんとに可愛くて良いパートナーを見つけたよねー、リヴァイ。」
ハンジの言葉にユフィは頬を染めてはにかんだ。
「まだまだですよ、掃除なんかいつもリヴァイさんにダメ出しされてるんですから。」
「あはは!その件に関してはダメ出しされない兵士もいないんじゃないかな?」
「俺は今でもリヴァイと一緒に掃除はしたくないな。」
ハンジが笑い、ミケが同意する。
「うるせぇな。てめぇら掃除をナメてると痛い目みるぞ。」
「分かってるさ。そういえば奥さん、最近リヴァイはちゃんと寝てるかな?」
エルヴィンの青い瞳がユフィを見た。
「え?はい、遅くなる日でなければ寝てると思いますけど。」
あとは彼が夜の営みに張り切りがちな休日の前日とかでなければ、と心の中でユフィはひとり呟く。
「それは何よりだ。リヴァイは前まであんまり寝てないイメージだったからね。」
「そうだったんですか?」
「椅子で寝てるとか言ってたよね?リヴァイ?」
「……忘れた。」
隣の彼は無表情で彼らが持ってきたウィスキーに口をつける。
「お前が翼を休められる場所ができて嬉しいよ。」
目を細めてエルヴィンは微笑み、人知れずユフィは膝の上の手をぎゅっと固くした。
それからも和やかに飲み会は続き、夜の11時を過ぎたところでお開きとなった。
幹部達を見送った後に二人で念入りな後片付けをして、リヴァイが満足したところでソファーで一息ついた。
いつもの二人だけの空間に戻ってホッとした彼女の隣に、彼も水の入ったグラスを持ってきて座る。
「今日は楽しかったですね。」
「ならよかった。」
ユフィは何より、エルヴィンに言われた言葉が嬉しかった。
全人類の希望を背負うリヴァイの翼を休められる場所。
そうなれているのなら本当に嬉しい。
言われた直後に少しだけ泣きそうになってしまったほどだ。
「リヴァイさんにも信頼できる人がいて安心しました。」
「どういう意味だそりゃ。」
「ふへぁ……、」
頬をつままれて変な声が出る。
一方で、リヴァイも内面では彼らにユフィを紹介できてよかったと思うのだった。
もし自身に万が一のことがあれば、エルヴィンたちがユフィを守ってくれるだろう。
とは言っても万が一の事態など、起こす気はさらさらないのだが。
面と向かって言えなかったが、この会を持ちかけてくれた幹部メンツにひっそりと感謝したリヴァイだった。
「お前、あんま酔ってねぇな。」
「うーん、そうですね。そこまで飲んでないからかな?」
ゆるくつまんでいた頬を離して、リヴァイはユフィの顔を覗き込む。
なんだかいつも以上に彼女に構いたい気分だった。
「酔ったらどうなる?」
ゆっくりと顔を近付け、声のトーンを落としてささやくように問いかけると、ユフィはその色っぽさにドギマギしながら、
「リヴァイさんの前だったら、どうなるか分からないです……。」
鼻が触れそうな距離で、上目使いで小さく答えた。
「……っ、」
可愛らしい不意打ちをくらって、リヴァイは焦らすこともせずに口付け、彼女をソファーに押し倒す。
いつもならベッドで激しく愛しあっている時間だということを思い出しながら。
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みなさん、リヴァイさんと共に調査兵団の最前線で戦う方々です。
お互いを強く信頼し認め合っているようでした。
リヴァイさんの身を案じる私としては、とても頼もしく思います。
それでは、またお手紙書きますね。
体に気を付けて。
ユフィより。
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