兵士長夫人の壁外調査2
コンコン、とノックの音がして机に突っ伏していたユフィは弾かれたように顔を上げた。
今夜、壁外調査からリヴァイが帰ってくるのだ。
急いで玄関に走る。
(あれ?でもリヴァイさんならノックなんかせずに入ってくるはず……。)
一抹の不安が胸をよぎるも、すぐにドアを開けた。
「遅くにすみません。私はモブリットといいます。リヴァイ兵長の奥様ですね?」
「は、はい……。」
そこには調査兵団の兵服を着たまじめそうな男性が立っていた。
リヴァイでなかったことに内心でユフィは落胆する。
壁外調査の後のためか兵服は泥などで汚れており、彼の腹部辺りについた血痕がおのずとユフィの視界に入ってきた。
「……っ!」
その血の色がリヴァイと重なってしまい、ユフィはさっと青ざめる。
それを見たモブリットという男は慌てて口を開いた。
「おびえさせてすみません。僕はリヴァイ兵長からの伝言を伝えにきたんです。」
「夫は……無事ですか?」
「はい。大きな怪我もせず、無事に帰還されましたよ。」
初めてモブリットは小さく微笑んだ。
大きく息を吐いて、ユフィは心の底から安堵する。
「今夜は調査後の後処理や報告で帰りが遅くなる、とのことです。」
「あ、ありがとうございます……。あの、お務めご苦労様でした。」
そう労うと、彼は力強く敬礼して戻って行った。
リビングに入って掛け時計を見れば、針は9時過ぎを指していた。
リヴァイの「夕食は肉料理」というリクエスト通りに牛肉の赤ワイン煮込みを完成させて待っていたら、いつの間にかこんな時間になっていたらしい。
帰りが遅くなるらしいが、出迎える気持ちは変わらない。
とにかく彼が生きて帰ってきてくれて良かったと、ユフィはもう一度深いため息をつくのだった。
****
日付が変わった頃、ようやく後処理から解放されてリヴァイは家路に着く。
真っ先にユフィを抱きしめたかったが、まずは風呂が優先かと思われた。
砂ぼこりと人の血と、実際には蒸発して残らないはずの巨人の血の匂いが染み付いている気がしたから。
ガチャリと鍵を開け、ドアを開くと、
「リヴァイさんっ!」
駆け寄ってきたユフィに玄関先で突進する勢いで抱き付かれた。
少しよろけたが、しっかりとその体を受け止める。
「っユフィ。」
名前を呼んだ自分の声は掠れていた。
「リヴァイさん、リヴァイさん……!」
何度も名前を呼び、頬に頭を擦り寄せてくるユフィに愛しさが溢れて、風呂のことなどどうでもよくなってリヴァイも彼女を思いきり抱きしめる。
大切な人が自分の帰りを待っていてくれたという事実が、くたくたに疲弊した体と鉛のように重い心をゆるませていくのを感じた。
「顔上げろ、ユフィ。」
色んな感情をにじませる顔を上げた彼女のやわらかい唇に、すぐさま自身のそれを重ねる。
「んっ……はぁ……っ、」
「……は……、」
ここが玄関先だということも忘れて、二人はお互いを必死に確かめ合うような激しいキスを交わした。
「ふ……んぁ……ん……、」
「……ユフィ……っ、」
このまま事に及びたくなってしまう前に、リヴァイは唇を名残惜しそうに離す。
ユフィが彼の頬を包み込んだ。
「リヴァイさん、お帰りなさい。」
「あぁ……ただいま。」
「お風呂は?お腹すいてます?」
「即行風呂に入りてぇしクソ腹減った。あと全然お前が足りねぇ……。」
「大丈夫ですよ。全部ありますから。」
目を細めて微笑むと、彼女の目尻に水の粒が光った。
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お父さん、お母さん。
リヴァイさんは調査から無事に帰ってきてくれました。
本当にほっとしました。
今回、兵士の方がたくさん亡くなったようですが、物資の補給地点を一つ確保できたそうです。
遅い夕食をとりながらリヴァイさんはそう教えてくれました。
新聞でそのことが取り上げられるみたいなので、見てみてくださいね。
それでは、また。
ユフィより。
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