6 あり得ねぇ
「なぁ、最近派遣されてきた技術部のユフィって子、見た?」
ユフィという名前が耳に入り、リヴァイは足を止める。
現在、調査兵団は遠征訓練を行っており、本部から離れたローゼの山裾でキャンプをはっている。
今はその一日目の行程が終了して食事を終え、各々が明日の準備をしたりして過ごす自由時間だ。
近くの川で体を拭いて戻ってくる途中、テントの外で雑談する兵士の声に彼女の名前が出たので、何か問題でもあったのかと思わず聞き耳を立てたのだ。
彼らはテントの裏側にいるリヴァイの存在には気付いていない。
「いや、噂には聞いてるがまだ見たことないな。」
「まじか、絶対見た方がいい。見ないと損する。」
「そんなに可愛いのか?」
「少なくとも調査兵団にはあんなに可愛い子はいないね。」
何かと思えばユフィの容姿について話しているようで、リヴァイは呆れた様子で密かに息を吐いた。
大抵の男はこういう話題を好むものだ。
「俺さ、立体機動装置を引き取りに行ったときに会ったんだけど、すっげー若かった!肌が白くて目もパッチリしててさ。」
「へぇー。」
「人生で一度でいいからあんな子、抱いてみてぇなー。」
「そんなに?今度俺も見に行ってみよ。」
なぜだか胸のムカつきを感じて、リヴァイは盗み聞きするのを止めて音を立てずにそこから立ち去り、自分のテントに戻った。
毛布の上にゴロンと仰向けに横になり、テントの天井を見上げる。
ユフィは調査兵団の男性陣からなかなかの人気があるらしい。
今まで彼女の奇想天外な言動に目が行きがちなリヴァイだったが、そう言えば顔立ちはなかなか整っていたことを思い出した。
実際、泣きついてきたユフィは瞬きを忘れるほど美しかったのだ。
(確かに顔は悪くないが……あいつの中身知ってんのか?)
興味のあることには一直線だが、逆を言えば興味のないことにはとことん無関心。
関心がない人間に対しても笑顔を作って対応するが、それはこの場を早く終息させて自分が機械をいじる時間を得るためだと、時おり見かける彼女を観察していて気付いた。
機械オタクなのは明確で、のめり込む性格だがハンジのように掃除や入浴もおろそかにするタイプかと思えばそうでもなく、自身のパフォーマンスに関係するのか不潔にしている様子はないし、工房は乱雑に見えて全ては使い勝手のいいようになっているようだ。
そこまで分析して、彼女は意外と分かりやすいのかもしれない、とリヴァイは認識し始めた。
リヴァイに対してだけ感情をあらわにして子どもっぽさを見せるのも、立体機動装置を使いこなす憧れからのものだと分かりやすく理解できる。
そういえばホームシックは治ったのだろうか、と彼は本部にいるユフィに思いを馳せる。
いやだ帰りたいなどとこぼしていたが、今のところ彼女は仕事も投げ出さずきちんとこなしている。
リヴァイは他人のことをしつこく詮索するタイプではないしユフィも自分のことは聞かないと話さないので詳しい事情は分からないが、若い彼女が右も左も分からず知り合いもいない場所にいきなり放り込まれるのは、それはそれで少し酷な気がした。
(また泣いてねぇといいが……。)
そんなことを思った瞬間、なんやかんや彼女を気にかけている自分に気付いて、リヴァイはひとり小さく苦笑いする。
それはユフィが自分と同じ地下上がりだからなのか。
はたまた自分だけになつく彼女に情がわいたのか。
あるいは他にも理由があるのか。
今のリヴァイには分からなかった。
じっと暗い天井を見つめていると、ふと先程の兵士の言葉が頭の中でよみがえる。
(あいつを抱いてみたい……か。)
芋づる式に思い出されるのは、いつの日か目の当たりにした無防備な彼女のすらりとした足、
(あいつは、)
チューブトップ1枚のスベスベしてやわらかそうな上半身。
(どんな風に……、)
「!」
はたと気付くと、無意識に右手が物欲しそうに股間を目指してズボンの中にもぐり込もうとしており、そしてソコは硬くなっていた。
「クソっ!」
(あり得ねぇ。あんな17のガキに……。)
本当は他人の年齢など気にするたちでもなく、顔を合わせると調子を崩されるユフィに股間の調子まで狂わさせるのがしゃくだったのが本心である。
息子が元気なのは訓練の疲労のせいにして無理矢理目をつぶり、明日に備えることにした。
リヴァイは知らない。
その頃ユフィもまた、密かに熱い吐息をもらしていたことに。
[prev] [back] [next]