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17 ありがと


その日からユフィの集中力は格段に上がった。

そして寝ない。
もともとあまり寝ないリヴァイが深夜に紅茶を淹れに部屋を出たときに、工房の扉の隙間から灯りが漏れていたのだ。

そうやってハイオが訪れた日の夜の彼女は工房にこもっていたが、次の日の夜9時頃にはいつも通りリヴァイの部屋に来た。

いつもと変わらず抱くように努めたのに、


「リヴァイ……?なんだかいつもより、優しい……?」


なんてことをユフィに言われてしまった。

(それもそうか。)

彼女に対する気持ちを自覚してしまった今、以前のように性欲を満たすだけの行為ができるはずもなかった。

リヴァイは思う。
いや、そう思うようにした。
体だけの関係が、自分たちの関わり合いとしてはベストだと。

それぞれが全身全霊をかけて向かい合うべき自分の役目を持っている。
だから彼女を自分の世界に取り込む必要などないし、ユフィには技術師としての情熱に邁進してほしかった。

こうして交わるのは、言うなればお互いのチューニングなのだ。

彼は、想いを心の奥に隠してそう思い込む。


「集中しろ。お前はただ感じて鳴いていればいい。」

「あっ!あぁ……あっ、はぁ……、」


この日はお互いの体液を交わらせながら、いつにも増してしつこく抱いてしまった。




「……リヴァイ、ありがと。」

「あ?どうした、急に。」


いつもは終わるとすぐに戻っていくユフィが今日は裸のままベッドに寝転がって、部屋着を着るリヴァイを見上げた。


「リヴァイがあたしを叱ってくれなかったら、あたしはずっとホームシックだったと思う。リヴァイのおかげでやりたいことも分かってきた気がする。」

「オーダーメイド化のことか?」

「うん。なんだろ……立体機動装置でもっと楽しく飛べると思うんだよね。でも巨人を倒さなきゃいけないから、みんなコワい顔してる。うん。せっかく空を飛べるのにもったいない。」


ユフィは話しながら思考を整理しているようだった。


「うん、そう。だからみんなが楽しく飛べる世界を作れるように、私ができることをしたいなって。」

「……そうか。」


ベッドに腰かけて、その手触りのいい赤茶の髪をワシャワシャと撫でた。

彼女の見出だしたものは、目標ではなく目的だった。
人は目先の目標にとらわれがちだが、肝心なのはその先にある目的なのだ。

この場合、「立体機動装置のオーダーメイド化」が目標だとしたら、その先にある目的は「みんなが楽しく飛べる世界を作る」とこになる。

ユフィは自分の人生の目的を1つ、見つてしまったのだった。

(たいしたもんだ。)


「あれ?リヴァイも笑えたんだ!」


無意識に口角が上がっていたらしい。


「うるせぇ。」

「いた!」

ユフィが瞳を輝かせながら覗きこんできたので、でこぴんをお見舞いしてやった。

彼女は目が離せない。
彼女は理解の範疇を軽々と越えてくる。
彼女は夢中なことに取り組むと、周囲を魅了する。

そういうところに惹かれていたのかもしれない。
まぁ理由なんてものは所詮、後付けなのだけれど。




****




3日後、ついに不具合のあったすべての立体機動装置の修理が完了した。

また、この日にシーナの技術部から、正式に調査兵団支部設置の合意が手紙によって伝えられ、またその手紙にはユフィが修理の仕事が終わり次第、支部設置に向けた準備と鍛練のために壁外調査の終了まで一旦技術部に帰還するよう書かれていた。

さっそくユフィは荷造りし、次の日の午前中に調査兵団を発つことになった。

ハンジがユフィのお疲れ様会をやろうかと提案したが、彼女がこの3日間に根を詰め過ぎて夕方から爆睡し出したのでまたの機会にということになった。


そうして迎えた翌日は、まさに晴天。


「……リヴァイ。」

「なんだ。」

「壁外調査ってやっぱり危険?」

「危険どころか、帰ってくるときには隣にいたやつが足の指1本になっていたりする。うんざりするほど命懸けだ。」

「…………。」

「そんな顔をするな。」


分かりやすく元気をなくしたユフィの表情に、リヴァイは苦笑いしそうになった。


「これからお前が立体機動装置を改良したら、死ぬ確率も少なくなるだろ。」

「うん。でも……」

「おい、馬車が来たぞ。」


実はユフィが感じたモヤモヤは兵士全体の安否についてではなくリヴァイ一人に対してだったのだが、ちょうどシーナ行きの立派な馬車が調査兵団の門の前に停まった。


「じゃあ、またね。」


そう言ってユフィがドアの開けられた馬車のステップをのぼり、シートに座った瞬間。


「ユフィ。」


素早くステップに足をかけて身をのり出してきたリヴァイによってあごに手が添えられ、唇にあたたかいものが押し当てられた。


「……!」


突然のことに、ユフィは瞬きもせずにただ目の前の彼を見つめるしかない。
リヴァイもまた、まぶたを閉じずに静かに彼女と視線を絡ませていた。

長いようで短いキスが終わり、リヴァイはステップから降りてユフィが我に返って何か言う前にドアを閉めた。


「出してくれ。」

「かしこまりました。」


荷物を積み終えた御者が、馬の手綱を握る。


「リヴァ……!」


あっという間に門は遠くなり、見送っている彼の姿も小さくなった。


『なんでキスするの?』

『うーん、愛してるよって伝えたいんじゃないかな?』


ユフィの頭の中で、ハンジとのあの会話がいつまでもリフレインしていた。


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