16 あたしがやる
この会議では技術部調査兵団支部の設置についてが主な議題だ。
出席者として技術部側ではハイオとユフィ、調査兵団側ではエルヴィンとリヴァイ、ハンジにミケがそろった。
各々が席につき、会議の始まりを告げようとエルヴィンが口を開きかけたところで、
「はい!」
ユフィが勢いよく片手を垂直に上げた。
この場にいる全員の視線が集まる。
そして誰かに何かを言われる前に、彼女は大きく息を吸った。
「あたしは、調査兵が着ける立体機動装置のオーダーメイド化を希望する!」
「…………。」
会議室がしん、と静まり返ってユフィは小首を傾げた。
「あれ?」
「ユフィ……落ち着きなさい。」
「問題ないよ、ユフィ。」
隣のハイオが冷や汗をたらしながら諭すように言い、次にエルヴィンが相変わらず冷静に微笑んだ。
「ぜひ理由を教えてくれないかな?」
彼女はこくりと頷く。
「えっと、リヴァイの立体機動装置をいじりたいって思ったのがきっかけで……リヴァイって小さいのに体が重そうたがら、人よりガスの噴射力を強くしたらもっと威力が出るんじゃないかな?あとブレードは逆手持ちしやすいグリップに改良できると思う。」
"小さい"に反応して吹き出しそうになるハンジを、リヴァイはギロリと睨んだ。
「そうやって一人一人ちゃんとしたらみんなもっと上手く飛べると思ったから。」
リヴァイは内心で驚いていた。
体を見せろと言われた結果がこんなところに現れるとは予想外だ。
「なるほど……。調査兵団側としては有り難いことだが、果たして実現可能なのか?」
「そうですね……全員の装置をオーダーメイドするとなると予算がかなりかかります。それに調査兵団に少なくとも10人以上の技術者が入らないと長期に渡ることになるかと。」
「全員は厳しいか……?」
「その後のメンテナンスで常駐技術者は確実に欲しいね。」
「なら……、」
「……、」
ユフィの提案に大人の意見が飛び交う。
そして最後にハイオがまとめた。
「立体機動装置は誰でも扱えるしくみになっています。が、身体的な個性や特異なクセがある者に対してはオーダーメイド、もしくは改造を受け付ける。それを担うのは後のメンテナンスまで細やかに対応できる常駐技術者になる。というのはどうかな?ユフィ。」
「いいと思う。じょうちゅう?技術者はあたしがやる。」
熱意をもった瞳で、ユフィはキッパリと言いきった。
師匠であり、父親であるハイオは初めて見る彼女の熱く凛々しい姿に感動して思わず涙ぐみそうになる。
調査兵団の面々も、今まで受動的だったユフィがこんな提案をしてきたことに驚き、感心していた。
「とは言え、この案件をシーナの技術部にも持っていかねばなりません。返事はそれまでお待ちいただけますか。」
「もちろんです。」
エルヴィンはテーブルに肘をついて手のひらを組んだ。
「昨日決定したことですが、壁外調査を1ヶ月後に行うことになりました。これから準備で忙しくなりますので、もしこれが実現となれば技術部調査兵団支部は調査以降の設置が望ましいかと思われます。」
「承知しました。伝えておきましょう。」
「壁外調査……。」
それは、最近まで地下と技術部が世界のすべてだったユフィにはまだあまり馴染みのない言葉だった。
「ユフィは残りの装置の修理を最優先でやってしまいなさい。これから忙しくなるかもしれないからね。」
ハイオの言葉に、彼女はこくりと頷いた。
そのとき斜め前に座るリヴァイと目があったが、彼はふいと視線をそらしたのだった。
****
会議が終わり、忙しいハイオはシーナに帰っていった。
あとは幹部だけで壁外調査に関する打ち合わせをするようなので、ユフィは工房に戻るため一人廊下を歩く。
「……?」
窓から見える木の影で何かが動いたのが視界に入り、ユフィは立ち止まる。
よく見ると、ユフィより少し歳上くらいの男女が抱き合っていた。
二人はお互いを見つめあい、そしてゆっくりと唇を触れあわせた。
「あ、ユフィ!」
「っ!」
いきなり呼ばれたことに驚いて振り向くと、ハンジが軽く片手を上げて歩いてきていた。
「どうしたの?」
ユフィが再び男女の方に視線を向けると、そばに来たハンジも窓の外の様子に気付いて頭をかいた。
「あー。壁外調査が決定したとたんにコレだ。」
「あれ何してるの?」
「ん?キスのこと?」
「キス?なんでキスするの?」
「うーん、愛してるよって伝えたいんじゃないかな?ユフィはキスしたことないの?」
「うん、ない。」
ユフィの肩をハンジはポンと叩いた。
「まぁそういうことってしたいと思ったときにすることだからね。ユフィも誰かのことを愛してると思ったらしてあげるといいよ。あ、もう行かなきゃ。トイレが長すぎだってリヴァイに怒られちゃう。またね!」
(セックスはしてるのにキスはまだなのか……。リヴァイもそういうとこあるんだね。)
ユフィと別れて会議室に早足で向かいながら、ハンジは一人ニヤニヤと笑うのだった。
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