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バニーガールの災難


「わー!ハンジさん、人がたくさんいますよ!」

本部の入口から会場を見回し、ユフィは興奮ぎみな声を上げた。
今日は毎年恒例、調査兵団本部の一般解放イベントの日。
本部や訓練場を住民に見てもらったり、兵士が日頃食べているメニューの提供やパネル展示などを行ったりして、住民に調査兵団への理解と関心を高めてもらうことが目的だ。

「うん、まずまずといったところだね。それにしてもユフィ、よく似合ってるじゃないか!」

背後に歩み寄ってきたハンジの楽しそうな言葉に、ユフィはびくりと身をすくませた。
いつもの兵服はどこへやら、今の彼女はバニーガール姿だった。
黒く艶やかなレオタードに目の荒い網タイツとピンヒール、首には白いカラーと蝶ネクタイ、手首にはカフス。
バニーガールのお約束である、ふさふさした長い耳としっぽは白色だ。

「うぅ、かなり恥ずかしいんですけど……。」

「だーいじょーぶだって、自信持ってよ!これで今年の調査兵団志願者数アップは間違いなしだから!」

内股で縮こまるユフィの背中をハンジは豪快に叩いた。
そういうハンジは真っ黒の燕尾服にウサギの耳としっぽを着けている。

このイベントの目的は調査兵団への勧誘も大きな割合を占めている。
通年どおりならば参加者にチラシを配ったりテントを張って説明会場を設けたりしていたのだが、今年はそれに加えてもっと面白いことをやりたいとハンジが提案したのだ。

「きれいどころには、それ相応の活躍の場があるってもんさ。」

本部の前の広場に設置されたテントの周りでは、ナナバやリーネ、ペトラなどの女性陣が同じようにバニーガールに扮してチラシを配っていた。
男性客が吸い寄せられるように集まってきている様子を、満足げにハンジは眺める。

「リヴァイは演舞があるからこっちには来ないだろうし、安心して勧誘していいからね!」

「は、はい……。」

ユフィがリヴァイの恋人であること、そして彼がとても嫉妬深いことは周知の事実。
したがって彼女が露出の多いバニーガール姿になるなど天地がひっくり返ってもリヴァイが許可するはずがない。
なので、会議では彼女は見回り係を担当することにしておいた。
そして当日のリヴァイは訓練場で立体起動を披露するパフォーマンスの演者と、その後の人類最強兵士によるサイン会の主役を担わせ、彼の目の届かないところで彼女が仮装できるように手を回したのだ。
そうまでしてでも、ハンジは調査兵団で一位二位を争う容姿のユフィにバニーガールで勧誘してほしかった。
恋人の性格を重々承知な彼女もこの計画をハンジから知らされたときは頑なに断ったが、調査兵団の未来のためと小一時間ほど熱く語られたのち、仕方なく折れて今に至る。

「じゃ、これよろしくね。」

燕尾服のウサギは自分の持っていた「求む!調査兵!」と大きく書かれたチラシをユフィに半分手渡した。



***



一時間ほど経ったころ、チラシは主に男性客の手へ飛ぶようにはけていった。
ユフィはストックの入った段ボールを運び出すため、倉庫代わりに使っている本部の会議室に向かう。

(あ、これかな?)

机に積まれた段ボールを漁っていると。
カチリ。
唐突に、背後で鍵のかかる金属音がした。

「よぉ。」

「!!」

素早く振り向くと、今日のイベント中は絶対に会ってはいけない相手、リヴァイがドアを背にして無表情で立っていた。

「あ、兵長……、」

頭が真っ白になり、ユフィは立ちすくんで彼を見つめることしかできない。
ゆっくりと足を踏み出すリヴァイ。

「その格好はどうした。」

リヴァイの声にも表情にも感情の色はなく、彼のそんなときが一番怖いのだとユフィは知っていた。

「まさかその姿で表に出てたんじゃないだろうな。」

「え……と……。」

そのうち息がかかるほどの距離まで接近され、彼の視線を避けるようにユフィはうつむく。

「ごめん、なさい……。」

「…………。」

少しの無言の後、おもむろにリヴァイの片手が、彼女のレオタードに包まれた腰骨あたりを指先でなぞった。

「ひゃっ!」

「こんなに切れ込みが深いもん着て……、」

ユフィの耳に唇を近付けて低く言いながら、今度はもう一方の手のひらがふとももを撫でる。
彼女は耐えるようにぎゅっと目をつむった。

「エロい網タイツなんか履きやがって。」

びくびくと反応を見せる彼女にはお構い無しだ。
さらに右手を体のラインにそって上へと這わせ、胸元のレオタードと肌の境目に指を滑らせる。

「胸も……誘っているようにしか見えねぇ。」

「ちが……、」

「違わねぇよ。」

「んん!!」

ばっさりと言葉を切り捨てたリヴァイがついに耳たぶを食んできたので、ユフィは一際大きな声を上げてしまった。
とっさに手の甲を口に押し付ける。

「男ならそう捉えるもんだ。はしたねぇウサギが誘ってやがるってな。」

「ん、あっへいちょ……だめ……!」

唇、舌、吐息、低い声。
彼のしかける耳への刺激に全身がぞくぞくと痙攣して止まらない。

「そんないやらしいウサギには仕置きが必要だな……?」

「……っ!」



***



会議室の中から漏れるガタガタいう物音と、女のなまめかしいくぐもった声。

「ん……っ、……ぁっ……だめっ、こえ……きこえちゃ……っ!」

「我慢しろ、これは仕置きなんだからな。」

ユフィの帰りが遅いのでどうしたのかと様子を見にきたペトラはドアの前で硬直し、すみやかに回れ右をした。

「あれ?ユフィは?」

ペトラが複雑な表情を浮かべてひとりで戻ってきたので、チラシの枚数を数えていたハンジは不思議そうに声をかける。

「たぶん、兵長にバレちゃったみたいです……。」

「?」

ペトラはほんのり赤い顔をさらに赤らめた。

「会議室の中から……その……二人の声とか音が……。」

「あぁ、おっぱじめちゃったってことね。」

ハンジは残念そうにポリポリと頬をかいた。

「くそぅ。リヴァイってば妙に勘が鋭いところがあるからなー。」

その後、いつもの兵服に戻ったユフィが腰をさすりながらよろよろと戻ってきたのは、イベントが終わって片付けに入った頃だった。
そしてユフィの代わりに今度はハンジが「リヴァイに殺されるから」と爽やかに手を振りながら走り去っていった。

どうやらリヴァイは演舞が終わったあと、可愛いバニーガールがいるというお客の口コミを立ち聞きして彼女の関与を鋭く察知し、人類最強の速さで全ての色紙にサインを書き上げてモブリットに託し、彼女のもとに向かったらしい。

それからユフィが公の場で仮装することは二度となかったという。


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