紫陽花
本部の中庭に沿う渡りを歩いていると、紫陽花の垣根の合間に人が立っているのが視界の端に入った。
それが恋人だと分かり、リヴァイは足を止める。
彼女は紫陽花の花を観察しているようだった。
「…………。」
青や紫、ピンクに白。
色とりどりの紫陽花に囲まれた彼女の姿が絵画のように美しく感じて、リヴァイはこの場だけ時が止まったかのような錯覚を覚えた。
ぽつり。
額縁に閉じ込めておきたくなるこの時間を再び生き返らせたのは、彼の佇む位置の少し先──屋根のない地面へ落ちた雨粒だった。
明るい雲天から地へ、ぽつぽつと暗い染みを作っていく。
「濡れるぞ。」
そう声をかけて、振り向いた彼女はやっと雨に気付いたようだった。
梅雨の恵みに濡れるお前も美しいかもしれない。
ふとそんな思考が浮かぶが、風邪を引かれたら困ると思い直して、走り寄ってきた彼女の片手を取った。
手を繋ぐなんて珍しい、なんて言われたから梅雨のせいだと言って無理矢理ごまかす。
しとしとする雨音に包まれながら二人で静かにこうしていたい。
今はただ、そんな気分だったから。
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