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エンヴィー・エンヴィー



「ユフィ!」

目が合った瞬間にさっと背を向け、早足で会場を抜け出した私の背中に、追いかけてきたリヴァイの声が飛んできた。

「来ないで。」

「おい、どうした。」

振り向きもせず、自分の精神状態を表すようにうるさくヒールを鳴らしながら、私はペースを落とさずに歩く。
会場から少し離れた中庭へ続く階段の前にさしかかったところで、追い付いたリヴァイに腕を掴まれた。

「離して!」

「どうしてお前がそんなにご機嫌斜めなのか教えたら離してやる。」

振りほどこうとしたが、彼の手は私をがっちりと捉えてびくともしない。

もともと気の乗らなかった貴族のパーティーだ。
仮病でも使って欠席すればよかった。
そしたらこんなに苦しい思いをしなくて済んだのに。

「何でもない!」

「そんな態度が何でもないわけがないだろうが。」

やや苛立った彼の声色を聞いて、くさくさしていた私の心は自己嫌悪に侵食され始める。

「……リヴァイ、あの女の子のこと気に入ったの?」

「あ?」

「あんなにベタベタ触らせて……。」

ブロンドヘアが美しい二十歳くらいの貴族の女性は頬を染めて楽しそうに、一生懸命にリヴァイに話しかけ、そして彼は相づちを打ちながら口元に小さな笑みを浮かべて彼女を見ていた。
そのうち女性は酒が回ってきたのか、リヴァイの腕や肩に触れ始め、スキンシップが目立つようになる。
リヴァイが一言二言口を開き、それに対して彼女が大きく笑ってリヴァイの肩口へじゃれるように頭をもたれさせたところで、離れた場所に立っていた私と彼は目が合ったのだ。
それが我慢の限界だった。

「あの子ともっと仲良くなりたいんでしょ、早く戻りなよ。」

「そんなんじゃねぇ。今日は出資主とその令嬢の接待をしろとお前もエルヴィンに言われているだろうが。」

リヴァイの言葉は耳に入っても、今は感情的になった心がシャットアウトしてしまう。

「背も小さくて可愛いね。ああいうのが好み?」

私なんて身長はリヴァイより少し高いんだから。
そのうえ、借り物だからしょうがないとはいえど、今夜はヒールなんか履いて来てしまってやるせなくなる。

「ユフィ、こっちを向け。」

「やだ……!」

なんとか私を落ち着かせようとするリヴァイ。
その手を今度こそ振りほどこうとした拍子に、慣れないヒールの足がもつれてよろけてしまった。

「きゃあっ!」

ガクンと片足が落ちる。
下り階段を踏み外してしまった。

「ユフィ!」

ぎゅっとつむっていた目を開けると、視界を埋め尽くすのは黒い服。
私はリヴァイに抱き寄せられていた。

「……危ねぇなまったく。」

頭上で彼がはぁと安堵の息を吐く音が聞こえる。

「ご、ごめん!」

思いがけず公の場で彼とゼロ距離になってしまった。
表向きだとリヴァイは恋人がいない設定になっているから、貴族の屋敷でこんなところを誰かに見られると厄介だ。
慌てて体勢を立て直そうとすると、踏み外した片足がすうすうすることに気付く。
顔だけ振り向くと、シルバーのパンプスは階段の中段あたりにまで転げ落ちていた。

「あ、靴が……。」

「取ってくるからそこに座ってろ。」

そばにあった中庭を縁取る大理石の腰かけに私を座らせ、リヴァイは靴を拾い上げて戻ってくる。
それを私はただ眺めていた。
さっきまでの苛立ちはハプニングによってだいぶおさまったけれど、今度は彼を振り回したことに対する申し訳ない気持ちが胸を満たす。
気まずさに顔を俯かせると彼は私の目の前に立ち、おもむろに膝まずいた。

「リヴァイ?」

そして靴をそばに置き、私の裸足の右足を両手ですくい上げ――

「ちょっ!?」

その甲に唇を押し付けたのだ。
驚くと同時に、かぁっと顔に熱が集中する。

「こういうことをするのも、したいと思うのも……お前だけだ。」

「!」

唇を肌につけたままリヴァイが言葉を紡ぐので、その刺激でゾクリと背中を何かが這った。
そのまま彼は顔を傾けて目をつむり、足首にキスをする。
柔らかい感触が少しくすぐったい。

「リヴァイ、人に見られちゃったらどうするの……。」

「ここは会場から離れているし柱の陰だ。それに誰か来たらすぐ分かるだろ。」

さっと周囲を見回す。確かに私たちは太い支柱の陰にいた。
会話をしながら、彼は深い青の色をした私のドレスをたくし上げ始める。
同時に唇はふくらはぎやすねの肌をついばんだりチロリと舐めたりしながら徐々に上へ上へと移動してきた。

「嫉妬したのか。」

「だって……ぁっ……。」

カッチリした黒いベストとシャツ、そしてスラックスをクールに着こなし、今日は髪も後ろに流しているリヴァイ。
いつもと違った彼が素足にキスをするその光景はとても扇情的で。
雰囲気に飲まれ、私はときおり甘く反応しながら彼を見下ろすしかない。

「可愛いな。」

「っ!」

「俺ばかり嫉妬してるもんだと思ってた。」

「……リヴァイも嫉妬するの?」

「当たり前だ。お前が他の男と会話するたびに妬み心が生まれる。」

ついに右足だけ膝上までドレスをまくられ、足の間に割って入ってきた彼に太ももを軽く抱え上げられて内側の肉を噛まれた。
下着まで見えてしまいそうで、焦って足の付け根にたまったすそを押さえる。

「もうダメ……!リヴァイ……!」

「どこかにお前を閉じ込めておけたらどんなにいいか。本当は誰にも見せたくねぇ。人員が足りさえすれば今日も正直参加させたくなかった。」

「っ、は……んっ……。」

太ももの根本に近い、際どいところを吸われて思わず背がしなり、熱い吐息と声が出てしまった。
そしてくすぶりだす、体の奥に生まれた熱。

するとようやくリヴァイは体を離し、置いてあった靴を手にして私の足に丁寧に履かせてくれた。

「続きはパーティーが終わったあとだ。お前が嫉妬してくれるなんてな……今夜は優しくできそうにない。」

「!」

彼は言いながら立ち上がってドレスを元通りに戻し、不敵な笑みを口の端にたたえて片手を差し出してくる。

「ホテルでそのドレスを脱がしながら、妬む気も起きなくなるほど喘がせてやる。」

「やだ、もう……。」

顔の火照りを感じつつその広い手のひらをそっと握りながら、私はあの女性に向けていた微笑みよりもこの表情が好きだと思った。




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