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腐女兵士ちゃんの困惑



※腐女子ヒロインと受けっぽい兵長



「ユフィ。班長への昇進おめでとう。」

この度、班長の位をいただいた私は、呼び出された執務室でいつものしかめっ面を顔に張り付けた兵長から祝いの言葉をもらい――

「そして今日からお前は俺の女だ。いいな。」

「……はい!?」

そして混乱していた。

兵長のことは好き。
人として、男として本当に大好き。

だけど正直、そう言われても困ってしまう。
なぜなら私は調査兵団きっての腐女兵士なのだから。
推しカプは王道のエルリ。
ていうか兵長は受け役が美味しいよね。
地雷とかあんまりないんだけど、強いていうならやっぱり死ネタかな(リアルで彼らが死ぬのは絶対に嫌だしね)。
訓練や執務でこの夫婦の絡みが見られてとっても幸せな毎日を過ごしている私です。

こんな具合に兵長への想いを団長とのカップリングに昇華させてしまった私が、今さら彼の恋人になるなんておこがましいというか、もはや「二人の邪魔だよねごめんなさい」って気分になる。

「へ……兵長、それはどういうことでしょうか?」

数秒の沈黙のあと、なんとかそれだけ言うと、仁王立ちして腕を組んでいる兵長はややめんどくさそうに軽く顎を引いて私を見た。

(うわ、その上目遣いあざと……!)

一瞬のうちに、団長があざとい兵長を押し倒す肌色多めなエルリ妄想がぶわりと広がる。
脳内が腐っている私にとってはBL変換余裕でした。
ご馳走さまです。

「昇進してお前にも自室が与えられるこのタイミングを、俺はずっと待っていた。相部屋では抜け出すにも気を使うだろ。」

それは彼の部屋にすんなりお泊まりするための絶好な環境が整った、という意味だろうか。

「そう思わねぇか?ユフィ。」

最後にそう言って、私の三歩ほど前に佇んでいた兵長は組んでいた腕をほどいてゆったりと歩み寄ってくる。
熱を秘めているように見えるその瞳を、セクシーに細めながら。
ようやく脳が現実を理解し始める。
しかし緊張と混乱で私は身じろぎもできずに、少しさかついた手のひらを頬に受け入れ、距離の縮まりつつある彼を瞬きも忘れて見つめるしかなかった。

「へぃ……、」

押し出すように口にしようとした単語は、目をつむった兵長の薄くてやわらかい唇によって塞がれ、消えていった。
視界がぼやけた彼の肌色でいっぱいになる。
耳から入ってくる一切の音は消えてしまったのに、心音だけがドキドキと派手に音を立ててうるさい。

数秒の口付けのあと、おもむろに離れていった兵長を見て私は今度こそ心臓が爆発するかと思った。

「お前な……こういうときは目ぇ閉じろよ。」

桃色に染めた目元、扇情的にひそめられた眉、潤んだように見える上目。
完全に受け顔である。
本当にありがとうございました。

「あ……、すみません、緊張しちゃって……。」

力の入らない声でやっとこさ謝罪した。
自分だけ目を閉じていたのが気に入らなかったらしく、ムスッと仏頂面になった兵長を団長に代わって私が襲った方がいいのだろうかという妙な責任感に駆られる。

「まあいい。今夜はやっとお前を抱けるわけだからな。」

流し目で視線を絡ませながら、指先を私のあごの先まで滑らせて彼は言い、「仕事に戻るぞ」とばかりに踵を返してデスクに戻った。
その色っぽい所作に私は思わず背筋をゾクゾクさせる。

そしてキスを受け入れたことをOKと取ったらしく、私は完全に恋人認定されたらしい。
今まで構築し続けてきたやおい妄想が脳内で完全に宙に浮いてるし、万が一で本当に私が襲う側になったらと思うと軽くパニックに陥りそうだし、でも兵長のことはめちゃくちゃ大好きだし、総評すると私はやっぱり幸せ者だと思いました。

以上。



***



「でもどうして私が兵長を好きだと分かったんですか?」

「あ?お前、いつも俺のことを穴が開くほど見てただろうが。最近は特に熱っぽい視線でな。」

「なるほど……(最近、兵長を舐めるように眺めながらのエルリ妄想に拍車がかかっていたとは絶対に言えない)。」


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