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クロッカス



※巨人のいなくなる日々が訪れる設定です。


私と彼が出会ったのは、ウォール・シーナ内の貴族のパーティー。
ヤルケル区の商会の娘とはいえ、貴族ではない私がお呼ばれされる機会なんて滅多にない。
参加してみたら案の定、自分達の豪華絢爛な暮らしを見せびらかすための退屈な会だった。
調査兵団の代表として参加していた彼も同じようにうんざりしていたらしい。
人気のないバルコニーで、辟易として一人涼んでいた私と鉢合わせたことがきっかけだった。

嘘みたいだけど、目が合った瞬間に私と彼は恋に落ちた。
体中に電気が走ったみたいな衝撃と、不思議なことに「ようやく会えた」という愛しさが一緒くたに訪れたのだ。
それから二人で屋敷をこっそり抜け出して近くのホテルに入り、初対面にしては情熱的過ぎるキスを交わし、激しく絡み合った。

幸せに包まれながら目覚めた次の朝、出会ったときに私が抱いた感覚を話せば、自分も同じものを感じたと彼が頬を撫でながら教えてくれた。
その情景を、私は昨日のことのように覚えている。

運命という言葉は、この瞬間にぴったりだと思った。



***



「……ふぅ。」

取引履歴の管理をすべて任されている私は、出納帳を記入し終えて伸びをする。
次の仕事に取りかかる前に、少し気分転換しようかと玄関を出た。
いつものようにポストを覗き込むが、見飽きたがらんどうの中身が現れて小さく息を吐く。

「……分かってる。」

彼は調査兵団の兵士長なのだ。

顔を合わせたのは、その初めの一度きり。
調査兵団本部とこのヤルケル区は離れ過ぎているし、お互いがあまりにも忙しい。
何通か手紙のやり取りをした。
そして送った最後の手紙の返事を、もう何年も私は待っている。
返事が来なくても私は他の相手を見つける気はない。
今でもこの気持ちは、あの人にある。
できることといえば、激動するこの時代に、どうか彼が生きていてくれますようにと祈ること。
そして、クロッカスのドライフラワーを毎朝家の門に飾ることだった。

「さ、仕事仕事!」

気持ちを入れ換えて家に入ろうと玄関の扉を開けた。

その時、ガシャン、と門がきしむ音がした。

「ユフィ!」

(……え?)

その声が耳に入った瞬間、全身が強張った。
そうであってほしいという希望と、違っていたらどうしようという不安が瞬時に交錯する。
震えながらゆっくりと振り返れば、私は今度こそ、息をするのを忘れた。

「リ……ヴァイ……?」

彼が、いた。
何年も待ち焦がれた、彼だった。

「……ユフィ。」

「リヴァイ!!」

余裕無さげな彼にもう一度名前を呼ばれ、初めてこれが夢じゃないと気付き、私は弾かれたように門に走る。
とにかく急ぎ、乱暴に門の鍵を開ければ、なだれ込むような勢いでリヴァイに抱きしめられ、私も彼をきつく抱きしめ返した。

「リヴァイ……リヴァイ……っ!」

「ユフィ、待たせて悪かった……。」

涙が勝手に溢れてきて、彼の黒いジャケットを濡らす。

「リヴァイ……会いたかった……!」

「あぁ、俺もだ……。ようやく、すべて終わったんだ。」

リヴァイは私を強い力で抱きながら、口を開いた。

「俺は……一緒になりたいというお前からの手紙に返事を出せずにいた。何年も……ひでぇ話だ。もちろん俺も同じ気持ちだった。だが、約束できないと思ったんだ。いつ死んでもおかしくないこの世界で、へたに期待を持たせてお前を悲しませたくなかった。」

苦々しげな口調から、その気持ちが痛いほど分かって頭をコクコクと彼の肩にすり付ける。
彼も辛かったのだ。

「だからお前が返事をよこさない俺に愛想をつかせて他の男のところに行っても仕方ないとまで……思っていた。俺は選択をお前に任せちまう情けねぇ男だ。」

ようやく体を少し離して見上げると、片手は腰に回したまま、彼は私の頬を片手で包むと親指で涙を拭ってくれた。
間近にある彼の顔はいくらかやつれているように見えて、心臓が締め付けられるような感覚を覚える。

「戦いが終わってから真っ先にお前の様子を見に行って、俺を忘れているならさっさと帰ろうと決めていた。だが門に……。」

「……!クロッカス……。」

思わずつぶやくと、彼は目を細める。

「そうだ。お前が送った手紙に挟んでくれた押し花と、教えてくれた花言葉を思い出した。」

「花言葉は……あなたを……待って、います……。」

涙が溢れて上手く言えなかったけど、リヴァイは切なげに表情を歪め、またぎゅっと抱きしめてくれた。

「待っていてくれて……ありがとう。」

「……うん……っ。」

そうして長い間、私たちは抱きあっていた。

そのそばでは門に飾られたクロッカスのドライフラワーが、春の風にくすぐられて揺れていた。



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