バスタブにて
浴室に入ると、立ち込める湯気が肌をしっとりと覆った。
「リヴァイ、気持ちいい?」
お湯をなみなみとはった浴槽につかり、そのふちに肘と頭を預けて目を閉じているリヴァイに声をかけると――
「……あぁ。」
一言だけ返ってきた。
彼はお風呂が大好きだ。
シャワーでさっと済ましてしまう私とは違って毎晩お湯をためて入浴しており、タイミングが合えば一緒に入っている。
シャワーで髪を濡らし、シャンプーを手に取った。
浴槽へ入る前に頭や体を洗うのは、きれい好きな彼との暗黙の了解だ。
頭をワシャワシャと洗いながらこっそりリヴァイを盗み見ると、やっぱり気持ちよさそうに目をつむっていた。
おまけに四六時中刻んでいる眉間のシワも今はすっきり伸びている。
そのリラックスした貴重な表情は、いつ見てもかわいいと思ってしまう。
「ふふ。」
思わず小さく笑うと、彼は薄目を開けてこっちを見た。
「なんだよ。お前も早く入れ。」
「はいはい。」
急かされて、頭の泡を流して体もさっと洗い、いよいよ私も浴槽にお邪魔する。
まず片足をお湯に入れると、彼は体を引いて私が腰を下ろすスペースを作ってくれた。
ザバーッと溢れるお湯もお構い無しに体を沈めてリヴァイの足の間におさまる。
すかさずたくましい腕が腰に回された。
「んんー。いいお湯ー。」
さすがリヴァイ。
お湯は熱過ぎもせずぬる過ぎもせず、パーフェクトな適温。
その気持ちよさにため息をつきながら脱力して、後ろの胸板にもたれかかった。
「あー、幸せ。」
「そりゃよかったな。」
「……んっ、」
腰に絡みついていた手がおもむろに私の両胸をわし掴んで、やわやわと揉んだ。
こうやってイタズラしてくるのも毎度のこと。
自分はすでに堪能したかもしれないけど、もう少しゆっくり浸からせてくれてもいいのに。
「もう、リヴァイ……ぁっ、」
「どうした?」
次第にいやらしい手つきになってきた。
胸の先端を指でかすめるような動きに体が反応してしまう。
「手が……んっ、」
「手が、なんだ?言わないと分からねぇな。」
そうやって耳元で、二人のときにだけ聞かせてくれる甘くて低い声ではぐらかすんだから、腰がしびれてかなわない。
「ぁっ……やらしいことしてる……。」
「しちゃダメなのか?」
「ふぁっ!」
耳たぶを甘噛みされて体が跳ねる。
お湯がパチャ、と音を立てた。
「ダメじゃ……ないけどぉ……。」
耳をなぞるように舐めてからその唇が頬に流れたので、それがキスの合図だと知っている私は、首をひねって唇同士を重ね合わせる。
「は……あ……んぁ……。」
いきなりお互いの舌が擦れ合い、ちゅくちゅくと卑猥な音が鼓膜に響いて、体が一層熱くなる。
胸をいじられる刺激と舌が絡み合う刺激、それに腰に当たる彼の硬いものを感じて、私は早くも事に及びたくてたまらなくなってしまう。
そんな私の気配を感じ取ったのか、リヴァイは唇を離して優しい瞳で見下ろしてきた。
こんなレアな表情を見られるのも、お風呂の効果かもしれない。
「続きはベッドで、な。」
「……ん……。」
リヴァイはお風呂から上がるときにも軽く掃除をするので、いつものように私は先に上がる。
濡れた体を拭き、彼の部屋に常備してあるワンピースタイプの部屋着を着て脱衣所から出ると――
「うわぁっ!!」
飛び上がってしまった。
眉を下げたエレンが、窓際のデスクの前に立っていたからだ。
そう、リヴァイの部屋は、執務室兼自室なのである。
エレンの顔は真っ赤で、書類を持つ手がプルプルと震えていた。
「あ、ユフィさん。す、すみません。オレ……、」
「あぁ、お前が来ることを忘れていた。」
背後で極めて冷静なリヴァイの声がしたと思えば、部屋着の彼は私を追い越してエレンから書類を受け取った。
「兵長……なんか、すみません……。」
「いや、勝手に入っていいと行ったのは俺だ。ご苦労。お前ももう寝ろ。」
リヴァイが淡々としたやり取りで彼を追い出そうとするので、慌てて口をはさんだ。
「ちょっえっ、もしかしてお風呂の会話とか……聞こえてた?」
「あっ、いや、オ、オレ何も聞いてないです!!」
気の毒に思ってしまうほどの異様なエレンの慌てっぷりに、私は魂が口から抜けるかと思った。
いや、恥ずかし過ぎていっそ抜けてほしかった。
兵舎の壁は、どこを取っても薄いのだ。
[back]