独占のシルシ
リヴァイと交際するようになってから困ったことが一つできた。
それは。
「あっ、リヴァイ!?また見えるところに跡付けて!せっかく前のが薄れてきたのに。」
「あ?薄くなったからまた付けたんじゃねぇか。」
所有の印を付けたがること。
ユフィの首筋に埋めていた顔を離し、無表情だが満足そうに新しくできた赤い印をなぞる。
いわゆる、マーキングという行為だ。
彼はかなり独占欲が強いらしい。
さすがにキスマークを晒しながら暮らすのもはばかられるので、彼の独占欲を満たせるような代替案をユフィは提案した。
しかし、指輪は立体機動時に気になるし無くすかもしれない、ネックレスはやっぱり立体機動に支障が出かねない、と却下され続けてきた。
さらには「俺だっていっそ首輪でもしてしまいたいと思ってる」と言われたときは冷や汗をかいた。
「……!そうだ!」
「なんだ。唐突に。」
「お揃いのピアスを付けるのはどう?」
まず立体機動に支障は出ないし、簡単には無くさなそうだ。
その申し出に、リヴァイは「悪くない」と一つ瞬きをしてユフィを見た。
***
さっそくユフィは次の休みに街でピアッサーを買ってきて、リヴァイの仕事が終わった頃合いを見計らって彼の部屋へ持っていった。
付ける石は二人の休みが重なったとき、一緒に買いに行くことにする。
ソファーに座るリヴァイの足の間へ横向きにおさまり、ピアッサーをいじる。
「なんか……改めて見るとやっぱ痛そうだね。」
「まぁ、体に穴を開けるわけだからな。」
リヴァイはユフィの右耳の耳たぶを、アルコールを浸した脱脂綿で手際よく消毒してから、彼女の手からピアッサーを取り上げて耳にあてがう。
「いいか。」
「ちょっ、ちょっと待って!心の準備が!」
生まれて初めての貫通の儀式に、ユフィは怖がってリヴァイの胸のシャツを掴んだ。
「こんなもん一瞬だろ。早くやっちまった方が楽じゃねぇか。」
「分かってるけど……。」
巨人の前では恐怖をコントロールしているが、こうも手放しで感情を出すことは今では滅多になくなった。
眉を下げ、少しだけ瞳を潤ませておびえる珍しいその表情にムラッときながら、リヴァイはユフィの頭を撫でる。
「嫌なら止めるか?」
「止めない!どうぞ!」
意を決した様子で目をぎゅっとつむったので、彼は再びピアッサーを耳たぶに挟む。
「いくぞ。」
ガシャッ。
「いっ……たぁ!」
やはり、痛かった。
襲ってきたじんじんとする痛みにひとしきり悶えたユフィ。
そして次に、涙目の彼女はリヴァイの膝に股がる。
今度は彼に穴を開けてやる番だ。
リヴァイはユフィがやりやすいように顔を右に向けて待つ。
彼がやってくれたように消毒しながら、その形のいい耳に穴を空けることに対してなんだか背徳感のようなものを覚えた。
「じゃ、やるよ。」
「とっととやっちまえ。」
自分とはまるで違う、物怖じしない彼の男らしい態度に一抹のときめきと悔しさを覚えながら、ユフィはピアッサーを握る。
ガシャッ。
「……っ。」
少しだけ身じろぎしたリヴァイの耳たぶにも穴が開き、ファーストピアスが埋まった。
彼はかすかな熱を秘めた瞳で彼女を見上げる。
これからは片耳だけに光るこのピアスを誰かが見つけるたびに、その誰かは恋人の影を感じとる。
また、お互いがピアスを視界に入れるたび、より一層強くお互いを思うことができるのだ。
「これでお前は人類最強と呼ばれる男の体に初めて穴を開けた女となったな。」
「あはは、そっか。なんか嬉しい。」
彼が愛しそうに頬へ手のひらを滑らせてくるその上から、ユフィは自分の手を重ねて擦り寄る。
「傷口が治るまでこのままにしとくんだって。痒くても引っこ抜いちゃダメだよ。」
「しねぇよそんなこと。」
軽口を叩き合い、少し腫れて赤くなった相手の耳を見つめた。
彼女は照れたように微笑み、リヴァイはユフィの後頭部に手を添えて引き寄せる。
唇を甘くついばみ合いながら、揃いの石を耳に飾る彼女に想いを馳せ、満たされた気持ちでリヴァイは目をつむった。
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