that day
正午。
鐘の音が響き渡る。
その重く長い音の一つ一つが、私の体にこだまする。
目を瞑るとあの日の光景がまぶたの裏によみがえってきた。
逃げ惑う人々。
壊された建物。
迫り来る巨人。
***
三つの兵団による大きな慰霊祭が終わり、私たち調査兵団は本部に帰ってきた。
午後からは普段の業務に戻るのだけど、その前に行きたいところがあって私はリヴァイを呼び止めた。
「あの木を見に行かない?」
本部近くにある小高い丘の上には大きな木が立っていて、その木の前には誰が立てたのかも分からない小さな石碑があるのだ。
私とリヴァイは丘を登り、石碑の前に立った。
見上げると、立派な木がその枝葉を風になびかせてさわさわと音を奏で、まるで「よく来たね」と言っているようだった。
「気持ちいいね。」
「そうだな。」
仲間が天国に旅立ったとき、いつも私はここへ泣きにきて、リヴァイはユリを一本手向けにくる。
「そう言えば、あの日も今日みたいに天気が良かったね。」
「あぁ。」
風を感じながら目を閉じた。
浮かんでくるのは。
調査兵団に入ると決めたときの空。
出会ったかけがえのない戦友たち。
初めてできた大切な人、リヴァイ。
「ねぇ、リヴァイ。」
「なんだ。」
「私さ……。」
「…………。」
「……やっぱり何でもない。」
この気持ちをまだ言葉にできない私は、リヴァイの肩に額を押し付けた。
彼は黙って腕を回し、抱きしめてくれる。
いつか、言える日が来るのだろうか。
やさしい風が、私たちをやわらかく撫でて流れていった。
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