おいしそうなそこ
恋人であるリヴァイの体で好きな部位の一つに、うなじが挙げられる。
白くて、青い血管がうっすら透けて、引き締まっていて。
すごくセクシーで、おいしそう。
執務室の棚の資料をあさるリヴァイの背後にユフィはそろりと歩み寄り、彼の晒された無防備なうなじにめがけて――
「ぃ……っ!」
カプっと噛みついた。
リヴァイが小さく声をあげてびくついた直後。
「んぐ!」
ユフィはみぞおちに肘をくらってヨロヨロと後退り、うずくまった。
「てめぇ……。俺のうなじを狙うとはいい度胸じゃねぇか。あぁ?」
どす黒いオーラをまとったリヴァイが彼女を見下ろす。いくら恋人同士と言えど、彼は気を抜き過ぎていたようだ。
「ご、ごめ……、リヴァイのうなじがあんまり美味しそうで……。」
「何気色の悪いことぬかしてやがる。てめぇもハンジのお仲間か?」
涙目で体を丸めるユフィにゆっくりと近づく。
「まぁいい。どうやら躾直しが必要のようだな?」
リヴァイを見上げた彼女の顔がサーっと青ざめたその時。
「やっほー!リヴァイ、ユフィを借りてもいいかな?」
威勢よくハンジがドアを開けて入ってきた。
「あれ?邪魔した?」
「チッ……お仲間が呼んでるぞユフィ。そしてノックをしろクソメガネ。」
舌打ちをして、彼はきびすを返す。
ナイスタイミング!と彼女は心の中で親指を立てるのだった。
***
次の日、ユフィはハンジに頼まれ、とある壁外調査の記録を資料室で探していた。
資料のズラリと並ぶ棚から引っ張り出した分厚いファイルをめくり、該当箇所を探していく。
資料室に来てから三十分ほど経っただろうか。
あまりに集中し過ぎて気が付かなかった。
リヴァイが気配を消し、背後に近付いてきていたことに。
「おい。」
「っうわあムグっ!」
心臓が飛び出るかと思うほどびっくりして悲鳴をあげかけ、背後からリヴァイに口を塞がれた。
「うるせぇ。」
「んー!んんん!」
後ろを向きたくても、たくましい腕が腰をホールドして体が動かせなかった。
「なぁ、今まで削ぐことしか頭になかったが、うなじというのは旨いのか。」
「んっ!?」
彼は口に手をあてがったまま、ユフィの耳元でささやくように問う。
ぞく、と背筋が震えた。
「俺にも試させてくれよ。お前は気にせず調べものして構わないからな。」
そして、ポニーテールにすることによってむき出しになっている彼女のうなじに、リヴァイはゆっくりと唇を押し当てた。
「んっ!」
キスをするように肌をついばみ、吐息を吹きかけるとユフィは鳥肌を立てて身震いした。
時おり舌を這わせてみたり、歯をゆるく当ててみたり。
その官能的な動きは夜の営みを連想させ、彼女は体をびくつかせる。
そしてついに、うなじへ噛みついたリヴァイ。
「……っ!」
決して強く噛むことはせず、甘噛みしては舌でそこをなぞる。
その絶妙な加減が余計にユフィの腰を痺れさせた。
すると口を覆っていた彼の中指がその唇に割り込み、強く噛んでいた歯をノックした。
反射的にその指を口内に招き入れてしまう。
「んぁ……りば……い、」
自分の声が情事のときのそれになっていて、ユフィは羞恥でいっぱいになった。
うなじに噛みつかれながら、指で舌を愛撫されたり歯をなぞられる。
もはや抵抗も忘れ、今はただ手に持つファイルを落とさないよう、それだけに集中した。
「……っ……ふ、ぁ……、」
「は……エロい声出しやがって。」
「〜〜〜っ、」
べろ、と肌を一舐めして再びリヴァイはユフィの耳に顔を寄せる。
「自分で気付いてねぇな。無意識に尻を俺の股にすりつけやがって。いやらしい奴だ。」
「……っ!」
思わず腰を引っ込めた。
リヴァイの言う通り、自分がそんなことをしていたなんて気が付かなかった。
さらなる羞恥に顔が熱くなり、うっすら涙が浮かぶ。
もっと欲しくなってしまったのだ。
いつも彼がもたらしてくれる快感はこんなものじゃないから。
「だが――」
ふいに口内の指も、唇も腰の手もあっさりと離れていく。
「これで終いだ。俺は戻る。」
「え……。」
ぽかんとするユフィ。
「邪魔して悪かった。俺もお前のうなじが旨そうに感じてな。」
リヴァイは涼しい顔をして、本当に部屋からさっさと出ていってしまった。
一気に力の抜けたユフィはヘナヘナとその場に座り込む。
もちろん、体の奥にくすぶっている熱を持て余しながら。
彼の仕返しは、彼女のいたずらの何倍も強力だった。
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