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甘い報酬



「お前、この訓練で一回もミスらなかったら褒美をやる。」

「え?」

「何がいい。言え。」

「……リ、リヴァイ兵長に褒めていただきたいです!」

「いいだろう。」

訓練開始の直前、そう淡々と言ってリヴァイは去って行った。
ユフィ自身でも驚いたのだが、その訓練で彼女は一度のミスもしなかった。

この時から判明したのだ。
自分は報酬があると強い、と。
そして当時はごく普通の一般兵だった彼女。
その特殊な強さをリヴァイに認められ、これまでにご褒美としてあんなことやこんなことを彼にしてもらい、実績を残してきた。
あんなことやこんなこと、といっても決していやらしいことではなく、食事に連れていってもらったり遠征のお土産をもらったり、といった感じである。

「ユフィ。今回の壁外調査で討伐補佐数三体の報酬は何がいい。ちなみに毎度のことだが生きて帰ってくるのは大前提だ。」

「はい!今回は、ですね……。」

デスクで頬杖をつくリヴァイへ紅茶を淹れていたユフィは、待ってましたとばかりに、にっ、と口角を上げてみせた。



***



リヴァイの切り取った巨人のうなじが宙を舞う。

「よしっ!討伐補佐数三体、達成!」

空中で万歳とばかりに手を上げたユフィ。

「兵長!ユフィ!奇行種です!」

「えっ、どこ!?」

どこからか焦った仲間の声が聞こえ、横にある林から突然現れた巨人。
気付くのが一瞬遅れた。

「ユフィ!!逃げろ!!」

リヴァイの叫ぶ声が、聞こえた。



***



上への報告をようやく終えて、リヴァイは兵舎の廊下を歩く。
とっくに日は暮れて、もうすぐ消灯の時間だ。
今回も多大な犠牲を払って壁外調査は終了した。

重い体を引きずっていたら、いつの間にかユフィの部屋の前に来ていた。
以前訪れたのは、彼女が寝坊したときに叩き起こしに来たときだろうか。
少し迷ってから、扉をノックする。

「……どうぞ。」

扉を開けると、ランプの灯りを頼りに机で書き物をしていたらしいユフィが振り返った。

「兵長。」

驚いたように彼女は目をしばたかせる。
壁外調査の直後に彼が訪れてくるなんて初めてのことだったから。

「お疲れ様です。報告が終わったんですね?」

立ち上がろうとした彼女の片足のズボンは捲られ、素足に包帯が巻かれている。
その光景が目に入り、リヴァイは苦しげに顔を歪めた。
つかつかと早足に歩み寄り――

「!」

ユフィを正面から抱きしめる。
その体は、思った以上に細かった。

「兵……長?」

「……よかった。」

「え?」

「お前が……生きていてくれてよかった。」

ユフィは迫る巨人の存在に気付くのが一瞬遅れ、体勢を立て直そうとしたときに足をひねって転倒してしまったのだ。
幸いリヴァイがそばにいたので、彼の素早い一撃によって巨人はユフィへたどり着く前に倒された。
あと一歩遅れていたら、彼女の命はなかっただろう。
壁外から帰ってきてもそのことが頭をちらつき、そのたびにリヴァイをゾッとさせた。
だから無意識のうちにこの部屋へ足が向いたのかもしれない。

「助けてくれて……ありがとうございました。」

「当然だ。」

ユフィも彼の腰に手を回す。
そうすれば、ふわりと香ってくる彼の香り。
その香りは彼女を心から安心させた。
実は部屋に戻ってから震えが止まらず、先ほどようやく故郷に生還の手紙を書き始めたところだったのだ。

「兵長。私、討伐補佐数も達成しましたし、生きて帰ってきましたよ。」

リヴァイはゆっくりと体を離す。

「今回の報酬は達成してから言いたい、だったな。改めて聞かせてもらおうじゃねぇか。ユフィ、褒美は何がいい。」

リヴァイは彼女が今から言うことに勘づいているような、どこか挑戦的な瞳で問う。
ユフィはあの時と同じように、にっ、と笑った。

「私を兵長の恋人にしてください。」

彼は驚きもせず、

「いいだろう。」

不敵に口の端を上げたのだった。



ユフィは報酬があると、強い。
その強さをリヴァイに認められ、これまでにご褒美としてあんなことやこんなことを彼にしてもらい、さらには恋人の座まで手にしてしまった。

ユフィは自身の特性を見い出してくれたリヴァイに対して本当に感謝しているし、恋人関係になってからもとびきり甘いご褒美を彼がくれるので、今では調査兵団きっての精鋭となり、愛の力で今日も頑張れるのであった。



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